真珠湾攻撃を描く映画『トラ・トラ・トラ!』では、日本の零戦として出演した航空機がありました。アメリカ製の練習機T-6「テキサン」です。実は零戦以外にも、数々の名機に化けた役者でもありました。
1941年12月8日、ラジオの臨時ニュースで大本営陸海軍部から8日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入ったことが伝えられました。いわゆる「真珠湾攻撃」で、以降日本は、太平洋でアメリカ軍と激戦を繰り広げることになります。
「零戦」の正体はアメリカ軍機だった!? あらゆる軍用機に扮し…の画像はこちら >>戦時中のT-6「テキサン」(画像:アメリカ海軍)。
この真珠湾攻撃は、数々の映画の題材としても扱われていますが、なかでも有名な作品のひとつに、日米合作で1970年に公開された『トラ・トラ・トラ!』です、
CGもない時代につくられた同作は、当時ほとんど機体が現存していない零戦21型や九七式艦攻などの旧日本軍機をどうするかが大きな課題でした。そこで、白羽の矢が立ったのがT-6「テキサン」という航空機です。
「テキサン」は1930年代、ノースアメリカン社がアメリカ陸海航空隊向けに開発したレシプロエンジン搭載の高等練習機です。第2次世界大戦中はアメリカ軍の練習機としてパイロット育成だけでなく、連絡、偵察、救難機などにも用いられました。ほかの連合軍の国々にも配備されたほか、戦後には、元敵国でもある日本の自衛隊でも練習機などの用途で使用され、自衛官のパートナーを務めました。最終的には世界で1960年代まで使われています。
「テキサン」は細身の低翼単葉機というフォルムで、アメリカが運用した単発プロペラ機では最も日本軍機に似ていました。さらに1万5000機以上も生産され、民間にも払い下げられているため入手も容易。ちょっと改造すれば日本軍機っぽく見えるので、現在もアメリカのエアショーで日米の空戦が再現されると、決まって日本軍機役になるほどです。
『トラ・トラ・トラ!』では、零戦や九七式艦攻などの日本軍機役として登場。その劇中機は、改造により零戦21型の翼端折り畳み機構も再現されており、「テキサン・ゼロ」という通称でファンのあいだでは有名です。
その後も1987年公開の『太陽の帝国』では零戦52型として、1992年の『エイセス/大空の誓い』では、麻薬組織の野望を阻止するため、対地ミサイルを搭載した改造零戦役で出演し、日本人パイロットの堀越役で出演していた俳優、千葉真一さんの愛機となっていました。
実は邦画でも出演経験があり、1960年公開の『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』では、九七式艦攻を意識した機体で使用され、1963年の『太平洋の翼』では、逆にアメリカ軍艦載機役として登場しています。
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2015年にエアショーへ参加したT-6「テキサン」。ムーディ空軍基地でのパフォーマンス(画像:アメリカ空軍)。
現役時代は名教官として世界各国でパイロットの育成を担当し、引退後は、銀幕の舞台へ転身した「テキサン」ですが、この役者としての評価は、“ほぼ現存機がない日本軍機を堅実に演じた名優”という意見もあれば、“あまりに不格好で「大根役者」だった”という意見もあるなど賛否が分かれています。