自動車業界の取材を始めて5~6年が経ち、初めてロータリーエンジン搭載車を運転することができた。マツダが発売した新型車「MX-30ロータリーEV」というクルマだ。マツダの人はもちろん、マツダファンもそうじゃないクルマ好きも熱を込めて語りがちな伝説のエンジンは、素人でもスゴさがわかる代物なのか?
伝説のロータリーエンジンに乗った…のか?
実は、マツダにお願いすればロータリーエンジン搭載車「RX-8」は借りられるので、今まででも乗ろうと思えば乗れたのだが、RX-8がマニュアル(MT)車だと聞いて躊躇していた。今回は、はれてオートマのロータリーエンジン搭載車に乗れることになったわけだ。
とはいえ、実際にMX-30に乗った今でも、自分は「ロータリーエンジンで走った」と言い切っていいのかどうか、ちょっと微妙な気持ちだ。というのも、MX-30ロータリーEVはロータリーエンジンを駆動に使っていないからだ。このクルマのエンジンは、あくまで発電機として働く「黒子役」に徹している。
ロータリーEVってどんな仕組み?
MX-30ロータリーEVは基本的に、エンジンで発電した電気でモーターを回して走る。日産自動車の「e-POWER」と同じ仕組みだ。違いといえば、MX-30が外部から充電できる「プラグインハイブリッド車」(PHEV)であるということ。あらかじめ充電しておけば、エンジンで発電しなくてもモーターを回して走れるのが特徴だ。
走行モードは「EV」「ノーマル」「チャージ」の3種類。ロータリーエンジンを感じたいわけだからEVモードは論外だ。まずはノーマルモードで走り出してみた。
バッテリーが満充電だったこともあり、ノーマルモードのMX-30ロータリーEVではエンジンがなかなかかからない。一般道ではおそらく1回もかからなかった。高速道路に入る上り坂(ランプ)で強めに加速しても、やっぱりかからない。高速道路上でアクセルペダルを「カチャッ」というほど踏むと、ようやくエンジンが始動! したのだが、「ブオン!」といった感じではなく、どちらかというと「ビーー」とか「ウーー」に近い雰囲気だった。停車中のエンジン音はこちらでご確認ください。
ロータリーEVはうなりを上げて走るクルマではない
アクセルの踏み具合に応じて、いかにもエンジンで走っているかのように音が上がったり下がったりすると期待して乗ると、おそらく拍子抜けしてしまう。エンジンが発電機として仕事をするということは、短時間で大出力を発揮できる高効率な回転をしなければならないわけだから、考えてみれば当然だ。マツダも、ロータリーEVにたっぷりとファン(fun)要素を注ぎ込もうと思って作ってはいないような雰囲気だった。
ノーマルモードだと、バッテリー残量が45%くらいになってから、充電量を維持しようとエンジンが頻繁に動いたり止まったりするようになるらしい。チャージモードはどのくらいの充電量を維持するか設定で決められるモードなので、例えば「100%で維持する」設定にすれば、エンジンは最初からかかったり止まったりするようになる。
バッテリーに電力が十分に入っていれば、基本的には電気自動車(BEV)で運転できるのがMX-30の特徴だ。フル充電なら107kmまで走れるとの話だから、通勤して帰宅後に充電するを繰り返すだけならガソリンは1滴も減らない、かもしれない。走りとか乗り味については文句なし。テスラみたいにワープするような加速はできないけれど、ほとんどのガソリンエンジンのクルマと比べれば出足がよくて街中でもスムーズに走れる。別に遅いわけでもない。
結論:ロータリーEVはどんな人に向いている?
試乗して、マツダに話も聞いてみての自分なりの結論。MX-30ロータリーEVは基本的にBEVとして乗るべきクルマであり、ロータリーエンジンとガソリンタンクは、遠出するときにだけ使うものと割り切るべし。
それと、ロータリーエンジンにロマンティシズムを感じる人は、何も考えずに買っても後悔しないはず。専用のバッジとかも付いているから、所有する喜びは大きいのでは。
ただ、MX-30ロータリーEVをハイブリッド車=エコカーの一種と考えて買ったら少し想像とは違うかも。電気で走っている分にはガソリンはほとんど減らないが、ハイブリッド車として普通に走ると燃費は15.4km/Lなので、他社のシリーズ式ハイブリッド車やPHEVに比べるとそこまでエコとはいえないからだ。
ロータリーEVの登場で初めて「MX-30」を知って、カッコよくて一目ぼれしたけれど、住宅や職場に充電環境がなくてクルマの性能を十分に発揮させられない、あるいは恩恵が十分に受けられないという人は、MX-30のマイルドハイブリッド車(MHEV)を買うという手がある。実際、このクルマは見た目もドアの開き方もかなり個性的なので、そこが好きで買うのも大いにありだ。