“ミスター野党分裂”前原氏の新党結成で政界ガラガラポン再び。新党の取り込みをもくろむ維新、国民民主は与党にすり寄り? 2月の京都市長選は自民、公明、立憲がタッグ

かつて民進党の代表も務めた前原誠司衆院議員が、国民民主党を複数人の議員と集団離党し、新党「教育無償化を実現する会」を立ち上げた。前原氏は「非自民・非共産の野党結集を進め、政権交代の選択肢をつくる」と豪語するが、その内実は日本維新の会との合流ありきではないかと永田町では囁かれている。旧民主党勢力のさらなる分裂で、野党政局はますます混沌とした状態となりそうだ。
「今の国民民主党は極めて支持率の低い岸田政権との協力を模索する路線にある」「日本の窮状を変えていくためには自民党と公明党と協力する政党ではなく、政策本位で野党結集を進め、政権交代の選択肢をつくることが責務だ」11月30日の記者会見で前原氏は国民民主と決別し、新党を立ち上げる意向を発表した。一方、“極めて支持率の低い”といわれた岸田政権では、さらに自民党の派閥が政治資金パーティーで上げた利益の一部を記録に残らない形でキックバックし、裏金化していたことが大問題に。検察は体制を拡充して捜査しており、12月13日の臨時国会閉会後にも複数の議員が立件されるのではないかと見られており、永田町では「令和のリクルート事件になるのではないか」との声が飛び交っている。
前原誠司衆院議員(本人事務所Facebookより)
そのさなか、野党の国民民主では、前原誠司衆院議員の突然の離党騒動に激震が走っている。前原氏は単なる一議員ではなく、代表代行という党役員を務めており、京都府連など複数の地方組織の代表も兼務していることから、この離党が与える影響は大きい。しかも、元滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員など3人の国会議員を引き連れての離党だ。ただでさえ人数が少ない政党であるため、今後は国会で会派としての力が弱まることも懸念される。こうした事態を受けて、国民民主党は12月4日に緊急で全国幹事会を実施。不安を募らせる都道府県連幹部からは「執行部で話し合いができていなかったのか」との苦言が漏れた。国民民主は前原氏らの離党届をそのまま受理するのではなく、党倫理委員会での話し合いを経て、除籍処分という厳しい対応を取る見込みだ。さて、この前原氏が立ち上げた新党だが、すでに維新と合流することが既定路線だと永田町では囁かれている。
そもそも、前原氏は維新との距離が近い。大阪都構想などをテーマにした勉強会「新しい国のかたち(分権2.0)協議会」では、維新の馬場伸幸代表らと代表世話人を務め、2022年参院選では、京都選挙区でかつてともに政権交代を成し遂げた盟友である立憲民主党の福山哲郎元幹事長ではなく、維新公認で立候補した楠井祐子氏を応援した。9月の国民民主党代表選でも、前原氏は維新も含めた野党結集を主張し、玉木雄一郎代表の政府与党と協調して政策実現を目指す方向性を強く批判していた。11月30日の記者会見でも前原氏は新党設立について、玉木代表には話していない一方で、馬場氏には伝えていたことを明かしている。新党の他のメンバーからも維新重視の姿勢がうかがえる。関係者によると、6月に立憲に離党届を提出し、除籍処分となっていた徳永久志衆院議員は、離党前に党内で「維新に候補を立てられないように対策をしないといけない」と漏らしていたという。徳永氏は2021年衆院選の比例代表近畿ブロックで、3番目の最後の枠に引っ掛かりギリギリで比例復活。それだけに、維新が近畿圏を中心に勢力を強めているなか、このままでは再選が難しいと危機感を募らせていたようだ。
徳永久志氏(本人Facebookより)
また、徳永氏周辺によると、離党時にはすでに前原氏から新党参加について打診を受けていたという。前原氏と徳永氏は松下政経塾同期という旧知の仲であり、比例復活であるため維新にくら替えできない徳永氏を救うために、前原氏は新党設立に舵を切ったというわけだ。
対する維新は、新党を将来的に取り込むことで、大阪から京都や滋賀に勢力を伸ばしていく足掛かりとしたい考えだ。というのも、新党のメンバーのうち、嘉田氏と徳永氏、前原氏の元秘書であった斎藤アレックス議員が滋賀を選挙区としており、合流によってまとまった勢力を手に入れることができるのだ。京都では2022年参院選で、前原氏が応援した楠井氏が福山氏に及ばず落選し、また今年11月に投開票された八幡市長選でも、自民や立憲、公明が推薦した無所属新人候補に維新公認の候補が敗れるなど、維新の苦戦が続いている。永田町関係者は「京都は『大阪とは違う』という意識が強く、大阪府を拠点とする維新は隣県でありながらなかなか勢力を伸ばせていない。そこで、京都を拠点に長年活動してきた前原氏を取り込むことで、壁を打破しようとしている」と解説する。実際に、来年2月4日に投開票される京都市長選を巡っても、維新が推薦する元京都市議の村山祥栄氏を前原氏が応援する意向を示している。
村山祥栄氏(本人事務局Facebook)
この市長選では元民主党参院議員の松井孝治氏を自民、公明、立憲3党が推薦することがすでに決定。前原氏にとっても松井氏は旧民主党で同じ釜の飯を食べた仲間にあたるが、離党と新党設立を経て、市長選でも維新側として全面対決をすることとなりそうだ。このように、前原新党の「非自民・非共産の野党結集」は、実際のところかなり維新に重心が乗ってしまっている。そのため、同じく政権交代を目標に掲げている立憲からも、「維新重視の前原氏と連携しても得られるものは少ない」という冷ややかな意見が多い。
もともと前原氏といえば、2017年に旧民進党を事実上解党させ、小池百合子氏が立ち上げた希望の党に全員で合流することを計画した。しかし、小池氏の「排除します」発言によって議員の選別が行われ、排除された人たちによって立憲が作られた過去があり、今の旧民主党勢力分裂の発端となった張本人でもある。野党結集を唱えながら、またしても党を割る前原氏に対しては、「そもそも野党分裂をさせてしまったのが前原氏。今回もそれを繰り返しているだけだ」(野党議員)との厳しい意見が多い。一方の国民民主は、前原氏ら「野党結集」を唱える勢力がごっそりといなくなったことを受けて、自民党との協調路線がより進んでいくのではないかと見られている。今国会でも旧統一教会の財産管理に関する被害者救済法案については自民、公明とともに国民民主が共同提出。国民民主がかねて主張していた、ガソリン価格高騰時に税金を引き下げるトリガー条項の凍結解除についても、自民、公明と3党による協議が続いている。前原氏離党によって、自民党では国民民主との連立案が再燃するかもしれない。
岸田文雄首相(本人Facebookより)
立憲と維新が次期衆院選に向けて野党第一党争いを続けるなか、国民民主は政府与党との協調路線を強め、前原氏は新党設立で維新との合流に舵を切る。岸田政権の失政が続き内閣支持率が低迷、自民党は政治資金パーティーの裏金問題でダメージを受けている最中だが、野党も混沌とした政局によって政権交代の兆しは見えない状態が続いている。取材・文/宮原健太集英社オンライン編集部ニュース班