「左耳はついてなくて右耳も後ろがパックリ裂けていて」80代被害女性は落ちた耳を袋に入れ自分で止血…切りつけた76歳無職男は「ドアや掃除機がうるさい」と以前からクレーム〈江戸川団地・高齢者隣人トラブル〉

東京都江戸川区西小岩の集合住宅で隣室に住む80代女性Aさんの左耳を包丁で切り落としたなどとして警視庁は8日、自称無職、竹林純一容疑者(74)を傷害容疑の現行犯で逮捕した。現場は京成小岩駅から徒歩圏内の集合住宅で、スーパーやコンビニなど多くの商業施設がある一帯だが、この惨劇に周辺は緊張に包まれた。
同じ集合住宅に住み、被害者と日ごろから親しく付き合っていたという知人女性が語る。「8日の夜の10時58分にAさんから携帯に『隣の人に耳を切られた』と慌てて電話がありました。私はその様子から、現場に行ったほうが早いと思ってすぐにAさんの部屋に向かいました。『隣の人』というのでピンときたのもありましたから……。Aさんの部屋のドアの付近は血がついていて、部屋に入るとあちこちに血がポタポタと垂れたような跡がついていました」それでもAさんは取り乱すこともなく、部屋の中を行ったり来たりしていたという。この女性が目をこらすと、Aさんの左耳はスッパリとなくなっていた。
現場となった集合住宅(撮影/集英社オンライン)
「Aさんの左耳がついていませんでした。本当にスッパリ切り落とされたかのように耳だけがなく、その付近から血が出てきていました。Aさんはその血をティッシュで押さえるようにしていましたが、すぐに血で染まりティッシュをどんどん換えないといけないという状態で……。テーブルには血が付着したティッシュが山積みになっていて、その横に切られた耳が置いてありました。耳自体は拭いたのか、元からなのか血はついておらず綺麗な状態でしたが、さすがに直視できず私も血の気がひきました。私はAさんに『大丈夫なのか? 痛くはないのか?』と尋ねてみたのですが、Aさんは『痛みはないんですよ』と言っていました」女性が緊迫した現場の状況の再現を続ける。「Aさんの洋服も血だらけで、耳を切られているので、大丈夫なはずはないと思いましたが、興奮状態で痛みが麻痺していたのかもしれません。ティッシュでは溢れ出る血液を拭いきれないので、タオルのほうがいいと思い、Aさんにタオルを渡しました。私もなぜそう思ったのか今となってはわからないのですが、切られた耳をそのままテーブルに置いておくのはダメなような気がして、たまたま目についた透明のナイロン袋を手にとり、これに入れたほうがいいんじゃないかとAさんにナイロン袋を渡すと、Aさんが自分で入れていました」
竹林容疑者に割られたAさんの部屋の窓ガラス(住民提供)
さらにAさんは右耳も切られていたという。「Aさんの右耳からも血が出ていることに気づいて『右耳も切られてない? 血が出てるけど』と伝えると、Aさんは自分で右耳を触って確認しました。耳の後ろ側がカパっという感じでパックリ裂けている状態で、私は見ていて息が止まりましたが、Aさんは『そうみたいね』と本当に痛みがないようでした。そうこうするうちに救急隊員や警察が来て、外廊下はその人たちでごった返して私もAさんの部屋から出られない状態になり、経過を見守っている感じでした」
救急隊員や警察が来て、ようやくAさんは手当を受けることができた。「救急隊員の方に包帯を巻くから座ってくださいと言われ、Aさんはそれでようやく腰を下ろしました。救急隊員に氷を入れたビニール袋を渡され、指示通りにそれに耳を入れました。Aさんは警察にも気丈に対応し、『最初は“うるさい!”とドアを叩かれたりして、台所の窓ガラスを割られたんです。それで驚いて思わずドアを開けたら隣の人が入ってきて殴られ、蹴られて、殺されると思って体を捻って後ろを向いた時に耳を切られた』と警察に伝えていました」Aさんと竹林容疑者の間の騒音トラブルとは、どのようなものだったのだろう。前出の女性が再び経緯を説明してくれた。「Aさんは50年以上ご家族と一緒に、ここで生活していました。今はお子さんも出ていかれて1人で住んでいましたが、『ずっと家にいるより働いていたほうがいいわね』と販売の仕事をされていました。騒音についても聞いてはいます。Aさんは夏に玄関のドアを開けっぱなしにする習慣があって、朝5時30分に起床して玄関のドアを開ける際の『ガチャン』という音が気になる方もいたようです」3~4年ほど前に引っ越してきた竹林容疑者も、入居半年後ぐらいに『ドアの音がうるさい』とAさんに文句を言いにきたことがあったそうだ。「Aさんもそれ以降はなるべく物音を立てずに生活するように気をつけていたそうですが、その後も『掃除機の音がうるさい』『ドアの開け閉めの音がうるさい』と怒鳴りこまれたそうです。私が聞いてるだけでも4、5回はあって、最後は10月ごろにも怒鳴りこまれています。夜中の2時半に『うるさいっ』と怒鳴りこんできたこともあると聞いています。彼はAさん宅だけでなく、反対側の隣の家にも『うるさい』と怒鳴り込んでいたようです」
Aさんの部屋のドア(住民提供)
近年は騒音トラブルを発端にさまざまな事件が全国各地で頻発しているが、因果関係が本当にあるかどうかなどの検証は行われていない。前出の知人女性も、こう心情を明らかにした。「警察に相談もせず自分で対処しようとしたAさんの優しさがアダになしまったと思っています。事件後、Aさんのお子さんからお電話をいただきましたが、まだAさんとはお話できていません。切り取られた左耳については医者から繋ぎ合わせるのは80%の確率でダメだろうと言われていると聞いており、本当に気の毒でなりません」
こんな凶行に及んだ竹林容疑者について、同じ集合住宅に住む男性住民は人となりをこう証言する。「竹林さんは3年前くらいに引っ越してきて、最初のころは『いい天気だね~』なんて話しかけてくることもありましたが、1年くらいたつと挨拶をしてもそっぽをむいて一切無視してくるようになりました。外で働いてる様子はなく、いつも家にいるようなので年金暮らしじゃないですかね。事件の後、パトカーが何台も停まって警察官が5階に上がっていき、竹林さんが『何すんだ、バカやろう』怒鳴りながら連行されていく姿を見ました」同じ集合住宅に住むほかの女性住民もこう語る。「こういう建物ですから高齢者の一人暮らしの方も多く、竹林さんは若いほうです。私が竹林さんの家に伺って『部屋も近いし、よろしくお願いします』と挨拶すると、『俺は関係ないよ。世話なんてしない』と言われました。ああ、これは話が通じないと思ってそれからは関わっていません。見た目は普通で、認知症とかではないんでしょうけど、とにかく『変わった方』だと思います」
小岩警察署(撮影/集英社オンライン)
同じ集合住宅に住む70代男性はこう語った。「機嫌のよし悪しで態度が大きく変わる感じはありましたね。ふだんから付き合いがあるわけではないですが、機嫌がいいと声かけてきて挨拶もする感じというか。この集合住宅ってほとんどが70代から90代の高齢者が多くて、一人暮らしの方も多い。被害者のAさんからも騒音トラブルは聞いていて、対策を尋ねられたので『チェーンは開けちゃダメだし、外には出ちゃいけない』と注意していたんですけどね。去年も別の住民が特定の住民を狙ってポストに火のついた紙を入れたり、玄関に墨汁撒いたりした事件があってね……。高齢者の一人暮らしの人にはなるべくドアを開けないようにと言い合ってたんだけどね……」

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班