「本当にイメージ通り!」ケース越しだが、初めて公開された時計の実物を見て、驚いた。
正直なところ、ここまでの仕上がりとは思っていなかった。
ここはアメリカ・ニューヨークのマンハッタン。現地時間11月9日18時半過ぎ。43丁目交差点、マジソンスクエアガーデンのすぐ近くにある、歴史的なホール「マンハッタン・センター」の7階。現地時間11月9日18時から行われた40周年記念イベント「ショック・ザ・ワールド ニューヨーク2023」の会場だ。
○■フルゴールドの風格スケルトン!
その時計とはこれまでのG-SHOCKとは異次元の“G-SHOCK”。
11月13日、カシオの公式YouTubeサイト「CASIO G-SHOCK」の動画、「G-SHOCK ドリームプロジェクト 第2弾モデル」として公開された、史上2つ目となる、ケースからブレスレットまで全部フルゴールド(金無垢)のG-SHOCK、「G-D001」だ。
事前情報を知らずにいきなりこの時計を目にしたら、誰もG-SHOCKだとは思わないだろう。スポーティなデザインのフルゴールドの機械式スケルトンモデルだと思うに違いない。でもこれはG-SHOCK40年間の歴史を踏まえて誕生した革命的なG-SHOCKなのだ。
○■G-SHOCKの「ドリームプロジェクト」第2弾!
G-SHOCKのフルゴールドモデルといえば、誕生35周年を祝った2018年の年末に「ドリームプロジェクト」として発表され、翌2019年に世界35本限定で発売された「G-D5000-9JR」。これが最初だ。
デザインはG-SHOCKのファーストモデル「DW-5000C」を踏襲している。これは“G-SHOCK35年間の集大成”という位置付けで開発され、当然のことだがデジタルモデルだった。
筆者がそのプロトタイプを目にしたのはそれよりさらに3年9カ月前の2015年3月。スイスのバーゼル市で開催されていた当時世界最大の時計宝飾フェア「バーゼルワールド 2015」のカシオブースだった。“G-SHOCKの父”であるカシオの現シニアフェロー・伊部菊雄氏から「どう思いますか?」と見せられたのだ。
そのとき、金無垢ケースとブレスレットの重量感と存在感に圧倒されながら即座に「これは凄い。良いですね。絶対に売れます! いつ売るんですか」と口にしたことを、今も鮮明に覚えている。
だがその際、伊部氏は「皆さんからそう言われるので、正直なところ驚いています。これは耐衝撃性を備えた試作品ですが、実際の評価はしていません」と語っていた。
今振り返れば、2015年に見たあのフルゴールド、耐衝撃性を備えているがまだ評価はしていないプロトタイプこそ、35周年記念モデルとして2018年に登場、G-SHOCKを「ビジネスシーンでも着けられる大人の時計」にした、オリジン(ファーストモデル)デザインのフルメタルモデル「GMW-B5000」開発の原点だった。
そしてこのフルメタルモデルの頂点となるG-SHOCK初のフルゴールドモデルとして12月にこの「G-D5000-9JR」が発表されたのである。
今回の「G-D001」は、あれから5年ぶりの「ドリームプロジェクト」第2弾。そしてG-SHOCKとしては2つ目となるフルゴールドモデルだ。だがコンセプトもデザインもメカニズムもまったく違うもの。
では、いったい何がどう違うのか? それはニューヨークの会場での、この実物の世界初公開の直前に、満員のギャラリーを前に伊部氏が行ったプレゼンテーションで明かされていた。また、それはYouTubeに公開された動画でもはっきり述べられている。
○■「これまでとはまったく違う、次世代のG-SHOCK」
自ら書いたユーモラスな自画像イラストを交えての「ハロー! 私はアメリカが、そしてニューヨークが大好きです」というシンプルな英語での自己紹介。
そして伊部氏が「壊れない時計」というだけの企画書を書いた1982年当時のオフィスにタイムスリップして、若き自分とトークするという、趣向を凝らしたショートフィルムの上映の後、伊部氏のプレゼンテーションは始まった。
喝采の中「挑戦と進化こそG-SHOCKのアイデンティティー」と語り始めた伊部氏は、G-SHOCK誕生40周年記念を記念した、ドリームプロジェクト第2弾「G-D001」を「これまでとはまったく違う、次世代のG-SHOCK」と表現。
そして、これまでG-SHOCKを作ってきたベテランがバックアップに回り、、若い世代を中心にして開発したモデルであること。そして、独創的なデザインが「ジェネレーティブデザイン」と呼ぶ、人間のデザイナーとAI(人工知能)が協力してデザインを創造するという画期的な方法から生まれたものであることを紹介。
世界各国から会場に集まった時計ジャーナリストやディーラーはどよめいた。
この「ジェネレーティブデザイン」は、まさにAi時代にふさわしい最先端のデザイン方法だ。これまで40年間、G-SHOCKの歴史の中で蓄積してきた「40年間に及ぶ耐衝撃性に関するデータ」をAIに学習させ、それをデザイナーが考えた骨格に融合させる。
それを、3Dで出力したものを人間のデザイナーが細かく検討。何度も手作業で修正を加えることで「デザインに息を吹き込む」というもの。「人間の修正が何度も入らないと、魅力的なデザインはできない」という点が興味深い。
さらに自動車等の開発に使われる衝突解析シミュレーションなども行うことで、これまでG-SHOCKのメタルモデルでは欠かせなかったケース&ベセル間にはさむ衝撃吸収用の緩衝材を撤廃することに成功している。
さらに世界6局対応(マルチバンド6)の電波時計機能、デュアルタイム機能、ストップウォッチ機能を持つアナログモジュール(ムーブメント)も新たに開発。宇宙分野で使われているガリウム系の高効率なソーラーセルと組み合わせる。
さらにアナログ針を動かす歯車の軸受に機械式ムーブメントと同様のルビーをふんだんに使うこと、最先端の半導体製造法を活用して製作した超精密歯車を一部に採用することで、これまでのG-SHOCKと同じタフネスに加えて、機械式のラグジュアリーウォッチのように、眺めているだけで惚れ惚れする、いつまでも長く使い続けたい愛着の湧く世界を実現している。
○■時計コレクター垂涎のチャリティオークションに出品!
さらに、驚くオーディエンスを前に伊部氏は「G-D001の『001』というネーミングには、G-SHOCKのまったく新しい歴史を飾る第1号モデルという意味を込められている」と説明。
加えて、このモデルを世界でただ1本のユニークピースとして製作し、12月9日~10日に名門オークションハウス「フィリップス」がここニューヨークで開催する「The New York Watch Auction: NINE」にチャリティー出品し、売上はすべて環境保護団体に寄付されることを紹介。
会場はさらなる驚きに包まれた。
フィリップスの時計オークションは、世界中の時計コレクター、愛好家がいま最も注目する時計オークション。
このオークションにかけられるということは、スイス老舗名門時計ブランドが作った時計史に残る歴史的な傑作時計と同等の価値を認められた、つまりG-SHOCKのこのフルゴールドモデルが、時計コレクター垂涎のラグジュアリー・タイムピースとして認知されたことを意味する。
○■タフ・ラグジュアリー・ウォッチという新境地
「G-D001」は残念ながら時計コレクターのためのユニークピースとして作られた。だがごく近い将来、このG-D001の製品版、これまでG-SHOCKの中では最高峰の「MR-G」をはるかに超える価格帯の「新世代G-SHOCK」が間違いなく登場するだろう。
そしてこの「次世代G-SHOCK」は、「アブソリュート(絶対的)タフネス」に加えて「時代を超えて輝き続ける」ラグジュアリーな価値をプラスした画期的な「タフ・ラグジュアリー・ウォッチ」になることは間違いない。
オークションでの「G-D001」の落札価格は、この「次世代G-SHOCK」の未来の、ひとつの指標になるはずだ。
▼CASIO G-SHOCK 【世界限定1本】 人とAIの共創外装デザイン/18金イエローゴールドの美しい輝きを放つG-SHOCK | CASIO G-SHOCK
取材・文・写真/渋谷ヤスヒト(時計ジャーナリスト)
渋谷ヤスヒト しぶややすひと 時計ジャーナリスト、モノジャーナリスト、雑誌編集者。大学法学部入学後、書評誌「本の雑誌」の助っ人を経て卒業後は出版社で文芸編集者、モノ情報誌の編集者に。食品からおもちゃ、文房具、家電、スマートフォンやPC、時計、クルマ、ファッションまであらゆるジャンルで「本当に良いモノ」を追求した記事を企画・編集・執筆中。時計ブーム最初期の1995年から開始したスイス時計の現地取材がライフワーク。編著書にセイコー腕時計の歴史をまとめた「THE SEIKO BOOK -時の革新者セイコー腕時計の奇跡」(1999年刊・絶版)がある。 この著者の記事一覧はこちら