【吉原・老舗ソープ殺人事件から半年】身勝手なストーカー客は懲役16年の判決。店舗はすでに再開、吉原は外国人観光客であふれていた「特に多いのは中国人です」

今年5月5日、東京都台東区の風俗街・吉原のソープランド店で、女性従業員のAさんが、客だった今井裕被告(犯行時32歳)に首を斬られ失血死した事件。11月28日、事件の判決公判が東京地裁でおこなわれわれ、今井裕被告に対して懲役16年(求刑18年)が言い渡された。事件から7ヶ月後、吉原の街はどんな状況なのか。現場を歩いた。
2023年5月5日午前11時19分、吉原の高級ソープランド店「Y」から「女性従業員が接客中に刺された」という110番が入ったことで発覚したこの事件。今井被告は初公判の場でこのように語った。社会部記者が言う。「今井被告は犯行直後に『私の人生と相反してきらびやかな人生を送っていて、彼女を殺してその人生を奪ってやろうと思った』と供述していました。今井被告とAさんの出会いは2022年4月ごろで、それ以降、今井被告は常連客となった。当初は月1回の来店だったのが2回になり、やがて両親や消費者金融などから借金をして通い詰めた。その後は借金もできなくなり予約のキャンセルを続けたことで、Aさんから“もう予約不可です”と断られ、自殺を考えるようになったそうです。しかし“もう一度会いたい”と偽名を使い変装して予約をした5月5日に事件を起こしました」
事件現場となった「Y」
被害女性のAさんは、今井被告の変装に気づいた後も追い返すことなく個室内で今井被告と対話したという。「『何回も予約をキャンセルしたのによく来られましたね』と言ったAさんに今井被告は土下座したようです。そしてトイレに入り、Aさんを殺して自分も死ぬか、このまま店を出るかと考えた後、殺害を決めて隠し持っていた折りたたみナイフでAさんが後ろを向いた隙に刺した」(前出・社会部記者)今井被告は風呂場で倒れ出血するAさんを「10分間から15分間」見ていたという。初公判で明らかになったAさんの両親の供述調書によれば、母親は「6月には婚約者と顔合わせをする予定でした。これから結婚して幸せになるはずだったのに、こんなに残酷なことがあるのかと思います」と述べている。
ソープランド店「Y」の接客マニュアル
婚約者も「Aは40歳までに今の仕事を辞めて、下着のデザイナーになりたいと言っていた」と話し、Aさんの父親も「アルバムを見ては、娘が小さかったころのことを思い出している。なぜ娘が殺されなければならなかったのか」と、その死を嘆いた。
現場近くで店を構えるソープランド店のオーナーが語る。「事件直後、店に内装屋が入っていくのを見かけました。でも事件から四十九日も待たずに6月6日から営業再開していましたね。事件があった部屋がどうなったかはわからないです。でもあの事件以降、各店がセキュリティ対策をするようになり、うちでは室内に防犯ブザーを設置しました。うち以外にも、お客様の待機室にロッカーを作り、そこに手持ちの荷物をすべて入れて、接客を受ける個室には手ぶらで入るようにした店や、金属探知機のようなものを体に当てる店もあるようです」
被害者のAさん(本人SNSより)
吉原の街で風俗案内所的な役割を持つ「喫茶店」で働く元ソープランド従業員だった女性店員のBさん(47歳)にも話を聞いた。「事件が起きた『Y』は、2003年にも女性従業員C子が客にネクタイで首を絞められ殺された事件がありました。C子はかつての“同僚”で知人でした。事件直後、店内の待合所に祭壇が建てられ、お焼香に行ったのを覚えてます。C子が殺された部屋はその後、女の子の待機部屋にリフォームされていました。今回の事件が起きた部屋はどうなるんでしょうね。女の子の気持ちを考えたら、絶対にその部屋では接客したくないでしょうから…」でも、とBさんは振り返る。「C子が殺害されたときは『Y』は四十九日過ぎるのを待って営業再開したはずなんですよね。今回は『待たなかったんだな』と思いました。『Y』は今もほぼ連日のようにお客は入っていて『予約が取れなかった』なんて話も聞くので、もう事件があったことなんて忘れ去られてるような感じです」
年末年始の吉原の活気について、前出のソープランドのオーナーはこう期待しする。「ウチは大晦日も営業し、正月の休みは元日のみです。東京には家庭のない人や、帰る故郷のない人が多いですからね。吉原くらいは年中無休の心意気で開いてなきゃなって思いますよ」前出の喫茶店の従業員、Bさんも言う。「今、吉原では海外の観光客がものすごく増えてます。かつては外国人観光客を受け入れる店なんて1店舗くらいしかなかったけど、いまや外国人客頼りの店もあるほど。特に多いのは中国人かな。ガイドの方がうちに連れてくるんですが、マージンを10万円、20万円払ってでもいらっしゃるお客さまがいるくらいですから。最近はガイドを通さずフリーで入る中国人や韓国人、欧米の方もいらっしゃるようですよ」
外国人歓迎の店も増えたという(撮影/集英社オンライン)
現場周辺を歩くと。何軒かの店前には「FOREIGNERS WELCOM」(外国人大歓迎)という看板を出している店があった。被害女性Aさんのご冥福を祈りつつ、年末年始の吉原が平和であることを願うばかりである。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班