言語学教授を目指す後輩、とった行動に耳を疑う… 「研究資料」が面白すぎると話題

世界的に見ても「難しい言語の1つ」に挙げられる日本語。日本人の我々ですら、思いもよらなかった活用やルールを知ると、つい「日本語って難しい…」と口にしてしまうほどである。
なお以前、ツイッター上では「言語学の教授を志す知人」が購入したトレーディングカードゲームに、驚きの声が寄せられていたのをご存知だろうか。
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今回注目したいのは、とあるツイッターユーザーの投稿した1件のツイート。
こちらの投稿には「大学の後輩が言語系の教授目指してるんだけど、MTGやってないのに英語と日本語の構造研究のために《浅瀬蟲》のカードを買ったらしい」と意味深な1文が綴られていたのだ。
世界的に人気のトレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」(以下、MTG)の話題のようだが、なぜ教授を目指すためにカードを購入したのだろうか…と思わず首を傾げてしまう。しかしツイートに添えられた2枚の画像を見て、即座に納得。
言語学教授を目指す後輩、とった行動に耳を疑う… 「研究資料」…の画像はこちら >>
こちらでは「浅瀬蟲」というカードの日本語版・英語版が確認でき、いずれも「何を言っているのかよく分からない」内容だったのだ。
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こちらの「浅瀬蟲」というカードの能力テキストは2種類存在し、初出となる2014年のカードセット「統率者2014」での文面は以下の通り。

「浅瀬蟲が死亡したとき、青の3/3の魚クリーチャー・トークンを1体生成する。それは『このクリーチャーが死亡したとき、青の6/6の鯨クリーチャー・トークンを1体生成する。それは「このクリーチャーが死亡したとき、青の9/9のクラーケン・クリーチャー・トークンを1体生成する。」を持つ。』を持つ」
「それは」と「このクリーチャーが死亡したとき」のオンパレードに加え、「~を1体生成する。を持つ。を持つ」といった表記など、非常に「ごちゃっと感」が強めな文章だが、記者はかつてMTGをプレイしていたため、多少戸惑いつつも能力が理解できた。
しかしMTG未経験であったり、今回このカードを初めて目にしたという人の大半は、一読しただけでは意味を理解できなかったことだろう。
前出のツイートは投稿から数日で3,000件以上ものRTを獲得しており、他のツイッターユーザーからは「これもっと分かりやすくできただろ」「結局これ、どういうことなの…?」「読解力が試されるカード」「このテキストもはや、もう芸術」などなど、疑問の声やツッコミが多数寄せられていたのだ。
そこで今回はこちらの事例を受け、MTGに対して「初心者が始めるにはハードルが高いカードゲーム」といったイメージを抱いてしまった人を安心させるべく、東京・高田馬場のカードショップ「晴れる屋 トーナメントセンター 東京」に直撃取材を実施することに。
その結果、驚きの事実が明らかになったのだ…。
今回の取材に応じてくれたのは、話題のツイート投稿主にして「トロピ大塚」の呼び名でお馴染みの、晴れる屋動画チーム責任者・大塚航さん。

以前よりMTGプレイヤーの中でも、件の「浅瀬蟲」に対しては「能力がめちゃくちゃ分かりづらい」「何だこのカード…」といった戸惑いの声が多数上がっていたそう。しかし「知人が研究のために『浅瀬蟲』を購入した」というエピソードを耳にした際は、「言語の構造の研究になるほどなのか…!」と驚き、今回のツイート投稿に至ったのだ。
ツイートがバズった件に関し、大塚さんは「ここまで話題になるとは思っていませんでしたが、もともと英語圏のゲームで、カードに表記するためのルールに則って翻訳されたものなので、色々な努力のもとでゲームが作られていることを改めて感じました」とも振り返っている。
「浅瀬蟲」の効果について説明する前に、MTGの基本用語を簡単におさらいしたい。
同ゲームには「パワー」と「タフネス」という概念が存在し、文中に書かれた「3/3」「6/6」といった数字はそれぞれ左がパワー、右がタフネスの値を示す。そして「トークン」はカードの代用として用いられる物体のことで、今回のケースでは「クリーチャー」タイプのカードと同等に扱われる。

これらの前提を踏まえ、大塚さんは「この『浅瀬蟲』が死亡して墓地に置かれると、3/3の魚クリーチャー・トークンが場に出現します。そしてこの魚が死亡すると、次は6/6の鯨クリーチャー・トークンが場に出現します。そして鯨が死亡すると、最後に9/9のクラーケン・クリーチャー・トークンが出現する…という能力になっています」と解説してくれたのだ。

大塚さんは「3つの独立した文章」に分けて説明したため非常に分かりやすかったのだが、オリジナルのテキストではこれらを「1つに纏めた文章」で表記しているため、べらぼうに難しいテキストが誕生してしまったものと思われる。

大塚さんは「虫を食べる魚がやって来て、次は魚を食べる鯨がやって来る…という、食物連鎖をイメージすると分かりやすいですね」「こちらのカードが初めて登場した『統率者2014』は3名以上のプレイヤーで対戦することを前提としていたため、大人数でワイワイ楽しめるような、こうした能力が誕生したのかもしれません」とも補足していた。
なお、こちらの「浅瀬蟲」にはまだまだ逸話が存在し…。
大学の後輩が言語系の教授目指してるんだけど、MTGやってないのに英語と日本語の構造研究のために《浅瀬蟲》のカードを買ったらしい pic.twitter.com/R1SQRQwILm
トロピ大塚晴れる屋MTG (@Tropi_Otsuka) January 5, 2023
前出の通り「浅瀬蟲」のテキストは2種類あるため「後に収録されたテキストの方が、分かりやすく修正されているのだな」と思いたくなるのが人情だが…大塚さんは「このカードに関しては(なぜか)後から出たテキストの方が分かりづらいです」とバッサリ。
また海外のバイヤー担当者も「英語のテキストで読んでも、この能力は少し混乱してしまいますね」とコメントしており、この分かりづらさは「万国共通」なようだ。
…と、ここまで「ネタカード」としての印象が強くなっている「浅瀬蟲」だが、決してカスレア(どうしようもなく弱いレアカード、同義語に紙レア)というワケではない。
MTGでは魔法カードをプレイする際に「マナコスト」を支払う必要があり、「浅瀬蟲」のコストは4マナ。最終的にとはいえ9/9サイズのクリーチャーが4マナで召喚できるのは、非常にコストパフォーマンスが良いのだ。
そうした前提を踏まえ、大塚さんは「『浅瀬蟲』の能力条件を満たすには、プレイヤーが自身の意思で『クリーチャーを生贄にする』カードが相性が良いですね」とも説明する。

例えば「ゴブリンの砲撃」は、場のクリーチャーを1体生贄に捧げることで対象に1点のダメージを与えるカード。クリーチャー1体と引き換えに1点のダメージを与えるワケだが、こちらの能力で浅瀬蟲を生贄に捧げ、現れた魚トークンを生贄に捧げ、それによって現れた鯨トークンを生贄に捧げれば、対象に計3点のダメージを与えつつ、9/9の巨大クリーチャーを呼び出せるのだ。

また、生贄に捧げたクリーチャーのパワーの数だけプレイヤーの山札を破壊するカード「狂気の祭壇」と組み合わせ、出現した全てのトークンを生贄に捧げれば、計18枚のカードを墓地に置くことが可能。

中でも記者が最も衝撃を受けたのが「倍増の季節」というカードとのコンボで、こちらは「フィールドにトークンが出現する際、その数を2倍にする」という豪快な効果を持つ。
すなわち1枚の「浅瀬蟲」から3/3の魚クリーチャー・トークンが2体出現し、これらが墓地に置かれれば6/6の鯨クリーチャー・トークンが4体出現。さらに鯨たちが墓地に置かれれば9/9の超巨大クリーチャー・トークンが8体出現することとなるのだ。また「倍増の季節」を複数セットすれば効果は重複(さらに倍増)するので、考えただけでも恐ろしい…。
こうした「一見謎なカード」をキーにしたコンボの考案こそ、トレーディングカードゲームにおける醍醐味の1つと言えるだろう。またMTGは決して難解でなく、今回の「浅瀬蟲」がかなり特殊なケースであることを強調しておきたい。

大塚さんも「『浅瀬蟲』は特殊な遊び方のために作られたカードで、基本的なルールを覚えてしまえば誰でも、MTGを簡単に楽しむことができます」「『晴れる屋』では毎日初心者体験会を開催していますので、興味がございましたら、ぜひお気軽にお越しください!」と、笑顔のコメントを寄せてくれたのだ。
言語学の関係者をも魅了してやまないMTG、改めて「奥深いゲーム」であることが感じられた。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)