20代どころか、小中高生といった少年少女にまで広がるOD(オーバードーズ。薬の過剰摂取)。この社会問題の背景には子どもたちの心の闇につけこみ、自らの欲望を満たそうとする大人たちの醜悪な思惑が見受けられる。集英社オンラインはそんな“悪の薬売り”のひとりとコンタクトを取ることに成功した。
オーバードーズの低年齢化が著しい。総務省消防庁と厚生労働省によると、22年にOD疑いでの救急搬送者は全国52消防本部で計1万682人と、20年当時と比べると11%増。うち女性が75%を占めている。また、22年の搬送者を年代別に見ると10代は1494人で20年と比べて47%増。この増加率は20代(同21%増)や30代(同2%増)と比べて圧倒的に高くなっている。そんなODのメッカといえば新宿・歌舞伎町の、いわゆる“トー横”だ。昨今の状況を受け、警視庁は取り締まりを強化し、12月の週末に一斉補導を3回実施。10代の男女29名を補導したが、その中にはOD目的で市販薬を所持していたケースも確認されたという。また、武見敬三厚労相も12月19日の定例会見で、市販薬の乱用を防ぐため薬局などに対し、若者にかぜ薬などを売る際には名前や年齢を確認するといった法改正を検討する方針を示した。
ODがはびこる歌舞伎町の“トー横”
今後はOD目当てでの市販薬購入が難しくなるが、それに先んじて某ドラッグスストアはすでに複数箱の同時購入を制限している。同店店員は言う。「今年7月ごろに新型コロナが流行して、せき止め市販薬の需要が増えたことに加え、原材料のトラブルなどの問題が重なって一時的に品薄状態になっていたのもあり、複数箱はご購入できないようにしていました」このような過程で生まれた “OD難民”を食い物にしている大人たちがいる。都内在住の48歳会社員、Aもそのひとりだ。AはODのために市販薬を求めるツイートを見つけては「あげるよ」などと話を持ちかけているという。
Aは得意顔で言う。「私がコンタクトをとるのは主に女の子の『病み垢』(ネガティブな感情や希死念慮[自殺願望]をSNSで訴えるアカウント)。こうした病み垢で若者たちが精神安定剤や睡眠薬などの交換や売買、譲渡についてやり取りしているのを見かけるようになったのは2018年ごろ。私もそういったアカウントに『薬、タバコ、お酒、なんでも持ってるよ。会って渡せるよ』などとこちらからDMするようになり、何ターンかやりとりして会話が成り立つような子とは実際に会います。これまでに、下は中学1年生、上は22歳の子まで、10人くらいと会いました」
Aが病み垢女子たちに渡す市販薬。中身はサプリと入れ替えることでリスクを回避している
彼女たちへの薬の提供は無料。しかし、Aは彼らが求める市販薬をそのまま渡しているわけではないという。「私だって、自分のあげた薬で女の子に倒れられたら困る。だから、中身を健康的なサプリなどにすり替えて渡します。ついこの前も中学1年生の女の子に直接会って渡したんですけど、その子ったら飲んでるのはただのサプリなのにプラシーボ効果なのか、たちまち『気持ちいい~』と言い出して服を胸までめくってくれました」
「こんな感じで服をめくって見せてくれました」(A)
ちなみに、離婚して親権がないとはいえ、Aには中学3年生の息子がいる。「罪悪感はありませんよ。ODなんてやめたほうがいいと言ったって、女の子は『あなたに私の気持ちがわかるわけない!』とキレられますからね。私もこれまでそうやって何人もの女の子にブロックされたし、言うだけムダです」
病み垢女子との実際のやりとり
関西地方までわざわざ渡しに行くこともあるというA。では、どんな目的で女の子と会っているのか。「さっきも言ったように女の子が半裸を見せてくれるというラッキーに巡り合えるかもしれないし、“その先”の話ができることもある。それに、今は14歳、15歳の女の子も、あと3、4年見守って18歳になれば、大人の関係になれるかもしれないじゃないですか」
しかし、Aはスケベ心のために警戒心を完全に失っているわけではない。「最近はXやインスタグラムのやりとりをチェックする親は多いと思いますが、某コミュニケーションサービスはノーマーク。多くの病み垢の女の子はこのアプリのアカウントも持っているので、ここでやりとりするのがほとんどです。
Aが病み垢女子とのコンタクトに使う某コミュニケーションサービス
また、未成年をカラオケなどに連れ込むと誘拐罪に該当してしまうので、私は代々木公園などの広い公園の人気のないベンチなどに座っておしゃべりします」また、病み垢の女の子が「パキスペ」(※1)にも、Aはわざわざリスナーとして参加することもあるという。※1……パキった状態で行うXの音声配信機能「スペース」。「パキった」とはODでキマった状態のこと。「配信する女の子がODで意識朦朧としてくると、リスナーの男たちが自慰行為のリクエストするんです。女の子は正常な判断能力がなくなってるので言われるがままに自慰を始めるのですが、その喘ぎ声などをリスナーの男たちは録音するんです。私ですか? 私は聞きにはいきますが、録音はしませんよ」
Aがやりとりする中学2年生の女の子が送ってきた自撮り
聞けば聞くほどゲスすぎるAだが、彼なりにODにハマる病み垢少女たちをこう分析する。「彼女たちとは毎晩のように通話をしますが、親が飲んだくれだったり、暴力を振るってきたり。他にも、親自身もODしている、シングルマザーが連れてきた彼氏に乱暴をされるといった悩みを聞きます。ODにハマる子たちは概して家庭環境が悪いことが多いですね」市販薬の購入を制限するだけでは、このOD問題は解決しそうもない。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班