「今でも地元の仲間たちは翔也はやっていないと信じています」――奈良県橿原市で今年6月、4歳(当時)の田川星華ちゃんが虐待を受けた末に死亡した事件は、単なる児童虐待死とは異なる経過をたどっている。傷害致死の罪で逮捕、起訴された母親の交際相手だった建設作業員、山下翔也被告(27)=大阪府門真市=は取り調べ段階から否認、黙秘を貫いている。
まず、事件の経緯をおさらいしよう。星華ちゃんは6月18日未明から早朝にかけて腹部を圧迫されるなどの暴行を受けたとされ、翌日の19日に嘔吐を繰り返して意識を失い、母親のAさんと山下被告が病院に搬送したが死亡した。腹膜炎が悪化して十二指腸に穴が開いていたことなどから同病院から虐待の可能性があると通報を受けていた奈良県警が捜査を開始した。県警は死亡以前の5月に星華ちゃんの顔を殴ってけがをさせたとして8月に山下容疑者を傷害容疑で逮捕、9月6日に傷害致死容疑で再逮捕した。このあたりの経緯は#1と#2に詳しいが、山下被告は「全く身に覚えがありません」と否認してからのちに黙秘を続けている。Aさんはこの後、連絡を取り合っていた山下被告の友人らと音信が途絶えた。こうした状況下で同26日、奈良地検が山下被告を傷害致死罪で起訴した。
星華ちゃん(知人提供)
冒頭の言葉は、山下被告とAさん、星華ちゃんの関係を間近で見てきた山下被告の友人が発したものだ。彼を含めて門真市の「仲間」たちは一様に起訴に「納得がいかない」という。「起訴されたと聞いて驚きました。セイちゃんに暴力を振るっていた別の人物のことや、その暴力を翔也が止めていたことなど、証言できることはすべて証言しました。僕らは友達だから証拠能力に問題があるのかもしれませんが、嘘の証拠を集めたり、嘘の証言をするようなことは一切していません」友人らは親族を通して山下被告の様子を伝え聞いていたが、最近はそれも減ってきたという。
山下被告(本人SNSより)
「起訴されてからは、翔也も気持ちがまいってしまっているとも聞いてます。でも起訴事実については今でも『やっていない』と認めていません。そのせいか2回保釈申請をしても通らなかったそうです。僕たちも翔也のために動いていたので、供述調書の内容についても知っていますが、Aさんは供述が本当にコロコロ変わっていました。『私が(セイちゃんの)腹部を押してしまった』などと言っていたかと思うと『翔也を星華と同じ目に合わせてやりたい』『一生許さない』などの証言もありました」
反対に山下被告の否認の主張は揺るいでいないという。仲間たちはそれを信じ、年明けに予定されている初公判を心待ちにしているという。「翔也が『やっていない』ことが証明される場になるという思いで裁判が始まるのを待っています。それに僕らが今思うのは早く翔也に会いたいってことですね。まだ接見禁止がついていて僕らは会えないので元気かどうかもわかりません。あいつ食い物の好き嫌いも多いし、体調大丈夫なんか?とみんな心配しています」
山下被告と星華ちゃん(知人提供)
星華ちゃんとAさんは2020年9月、三重県から事件現場となった橿原市のアパートに引っ越してきた。翌10月には虐待を疑う通報が県の児童相談所に相次ぎ、11月に橿原市の要保護児童対策地域協議会が星華ちゃんを「要支援児童」に登録した。山下被告がSNSを通してAさんと知り合ったのはそれから2年以上も後のことで、部屋を行き来するなど交際に発展したのは今年4月になってからだ。この空白期間も含めて、解明されなければならない事実は山のようにある。
現場となったアパート(撮影/集英社オンライン)
この事件を受けた奈良県と橿原市は合同検証チーム(座長、西田尚造弁護士)を立ち上げ、10月には非公式で初会合を開いて組織の再構築についての意見を求めたという。会合後に西田座長は「市と児相が関わりながら痛ましい事件を防げなかった。二度と起きないためにしっかり検証していく」と語り、検証結果の取りまとめを約束している。事件から半年。アパート近くに住む20代の女性はこう語った。「事件の後、母親のAさんが帰ってきてる様子は全くありません。ただ、おそらくまだ引っ越しはされていないかと思います。カーテンが事件後もずっと変わらずひかれたままになっているので。このアパートで事件があったわけですから、帰る気にはなれないのかもしれませんね」起訴され黙秘を続ける山下被告は友人が証言するとおり本当に“やっていない”のか、それとも…。初公判が待たれる。