〈京都タリウム殺人事件その後〉鬼畜“美食家”の悪業は「1億超のコロナ給付金詐欺が叔母にバレた」のがきっかけか。逮捕から9カ月、豪邸は取り壊され、劇物を盛られた叔母の元夫は「これだけ出てくるとまだ何か事件が出てくるんじゃないかって」

鬼畜の所業としか表現しようがない。劇物のタリウムを用いて、助成金詐欺を諌めた叔母の殺害を企て、さらに不倫相手の女子大生を毒殺した古都のボンボン息子。祖父が一代で築いた財産は、不祥の孫が瞬く間に食い潰した。次々にめくれる悪事に耐えかね、京都でも威容を誇った一族の豪邸は人目を忍ぶかのように消滅した。
殺人や殺人未遂などの罪で起訴されていた宮本一希被告(38)について、大阪地検は12月1日、新型コロナウイルス対策助成金を不正受給した詐欺罪で追起訴した。起訴状などによると宮本被告は2020年7月から2022年2月にかけ、親族が代表取締役を務めるイベント企画会社が、従業員54人に休業手当を支払ったとする虚偽の書類を京都労働局に計14回提出。コロナ対策の緊急雇用安定助成金計約1億1000万円を詐取したとみられている。
宮本被告(本人SNSより)
宮本被告は同社の取締役だったが、多額の使途不明金を理由に2020年2月、一族企業の実質権力者だった叔母のAさん(62)に解任されていた。宮本被告は親族の代理人を装ってコロナ助成金の書類を偽造しており、それが同年4月にAさんに発覚。それを叱責され、S N Sで謝罪するやり取りが宮本被告のスマートフォンに残されていた。社会部デスクが解説する。「Aさんは一代で財を成した父から不動産会社の経営を継承し、離婚を機にサラリーマンをしていた東京からUターンした甥の一希被告に目をかけて、『舞妓ディナー』などの事業をやらせていた。ところがこの補助金不正などを見抜いた時期に、周囲には『一希に事業を継がせようと思っていたけど、頼りない。他の親族に継がせるか廃業するしかない』と漏らしていたことがわかっています。頼みの綱であるAさんから切られることを察知した一希被告は、叔母から実権を奪おうと焦ったのでしょう。おそらくこの助成金詐欺が、一連の事件の入り口です」そしてこの3カ月後の同年7月、Aさんは重度の脳炎と診断され意識不明の重体に陥り、後に体内からタリウムが検出された。その「後継者」として同10月、不動産会社の社長に就任した一希被告は、不動産を次々に売り飛ばすなど会社を私物化していった。
社会部デスクが続ける。「そうして膨らました己の財産で、宮本被告は趣味の美食巡りに狂ったように精を出し、SNSにも自慢気にその様子をアップしていた。当時、宮本被告は再婚しており、娘までいたにも関わらず、美食ツアーに女子大生を同伴して連れ回すなど、放蕩の限りを尽くしていたのです」なかなかの放蕩っぷりだが、その女子大生というのが2022年10月15日、大阪市内の病院でタリウム中毒で死亡した浜野日菜子さん(当時立命館大3年生の21歳)だ。不審死事案として病院から通報を受けた大阪府警が今年3月3日、宮本容疑者を殺人容疑で逮捕。5月25日には叔母のAさんをタリウムで殺害しようとした殺人未遂容疑で再逮捕され、さらに11月22日にはコロナ助成金を詐取した詐欺容疑で再逮捕された。いずれの罪についても宮本被告は黙秘を貫き、いまだ動機などは語られていない。
死亡した浜野日菜子さん(本人SNSより)
その「入り口」の詐欺事件で再逮捕された11月ごろ、宮本一族が住んでいた京都市左京区の大邸宅の取り壊しが始まった。約250坪の敷地に3棟の住宅を擁する立派なお屋敷だ。近くに住む男性が近況を語る。「ちょうど一か月前くらいですかね、(宮本被告の)お母さんが『これから家を取り壊すことが決まりましたので、音やホコリのことなどご迷惑をおかけします』と挨拶に来られました。息子さんや事件のことは聞けませんでしたよ。挨拶だけですぐに帰っていきましたから。そもそも事件後はもうあの家には住んでいなかったと思いますよ。前にも荷物を運び出しているのを見かけましたから。立派なお宅でしたけどね。もう建物自体はほとんどなくなっているので、取り壊し作業もそろそろ終わるんじゃないですか。取り壊しの理由は聞いていませんが、息子さんがあんな事件を起こしてしまい、これまで通りには住みづらかったのかもしれませんね」
宮本一家が住んでいた豪邸(撮影/集英社オンライン)
宮本被告のことを幼いころから知るAさんの元夫は呆然とするばかりだった。「最後は詐欺でしたね……。なんだろ……。僕ももう気にもしてなかったんですが、ここまで次々と罪に問われてくると、まあ、腐ってたんやねって思います」会社での使途不明金が発覚して取締役を解任され、コロナウイルス助成金の不正受給を見抜かれたことについては、こう分析する。「それが結局は引き金になったという感じでしょうね。Aの性格からして、悪いことは絶対嫌がるしね。Aはお父さんが苦労して軌道にのせた事業を引き継いでそれを支え続けてきたわけですから。世の中には頭を使ってずる賢くやればいいんじゃないっていう人もいますけど、僕もそうだしAもそういうのは絶対に嫌がったでしょうね。実際に怒り狂ったかはわからないけど、きっと『いい加減にしいや』とは叱ったでしょう。でも一希はなんでそこまでしてお金が欲しかったんでしょうね。だって、給付金詐欺なんて絶対に見つかる話じゃないですか。5万、10万の金額じゃないんだから」
ビールを飲む宮本被告(本人facebookより)
罪を重ねた不祥の甥について、今の思いはいかばかりか。「一生(塀の中から)出てはこれないでしょうね、もう。これだけいろいろ出てくるとまだ何か事件が出てくるんじゃないかって思ってしまうし。もう、正直、どう思うとかそんなんは何もないですわ……」タガが外れ、底が抜けた樽にはもう何も残っていなかった。何事もなかったかのように、千年の古都がまた新しい年を迎えようとしている。