「撃つ前にドカン」ロシア砲兵が恐れる「腔発」のリスクとは 北朝鮮の粗悪砲弾が原因?

ロシア軍ではロケット砲の「腔発」が起きているようで、一部報道では北朝鮮製の低品質な砲弾が原因と指摘されています。この「腔発」は砲兵が最も恐れる事故ですが、似たようなことは兵器以外でも起こり得ます。
北朝鮮がロシアに兵器の供給を始めたと伝えられていますが、ウクライナの軍事メディア「ディフェンス・エクスプレス」やポーランドのメディア「エッサニュース」などは、ロシア砲兵に事故が相次いでいるとして、品質の悪い北朝鮮製砲弾との関連を報じています。
ウクライナ軍のSNS「テレグラム」には、一風変わったロシア軍兵器の残骸が投稿されました。一見すると玉ねぎを丸ごと揚げた「オニオンブロッサム」のようにも見えますが、これは多連装ロケット砲「BM-21」の残骸で、ロケット弾が発射筒内で腔発(こうはつ)したもののようです。腔発とは砲弾が砲身内で破裂することで、砲兵が最も恐れる事故です。
「撃つ前にドカン」ロシア砲兵が恐れる「腔発」のリスクとは 北…の画像はこちら >>主に第二次世界大戦時、ドイツ軍が用いた105mm榴弾砲leFH18。しばしば腔発を起こしたという(画像:新日本鉄道ZA, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)。
原因がウクライナ軍の攻撃によるものか、品質の悪い北朝鮮製ロケット弾によるものなのかは分かりませんが、映像を見る限り射撃陣地で発射筒内にロケット弾を装填済みの状態で引火爆発したようです。
ロシア・ウクライナ戦争では、砲兵が最も威力を発揮しています。自爆ドローンやドローンから投下される爆弾も活躍している印象ですが、こちらは搭載できる爆弾が小型で威力も限定的です。しかし砲兵が撃ち出す重さ数十キロの砲弾の威力は絶大で、戦車でも直撃されれば日傘装甲や反応装甲を付けていようが関係なく文字通り粉砕されます。敵のドローンが本当に怖いのは、自爆されるより砲撃を誘導してくることです。
ロシア軍は1日1万2000発~3万8000発もの砲弾を発射しているとされています。砲弾の枯渇も問題ですが、火砲は酷使されると耐用命数が早く切れ、損耗してしまいます。
ウクライナ軍でも砲兵装備の損耗は問題になっています。西側がウクライナに供給したドイツ製のPzH2000自走榴弾砲は優れていますが、酷使されすぎて故障が頻発し、稼働率が急激に下がっているといわれます。
SNSには、自動装填装置が故障したものの修理ができず、ウクライナ兵が必死に手動装填して使い続ける様子が投稿されたこともあります。屈強な砲員が簡単そうに砲弾を持ち上げていますが、155mm砲弾は約40kgもあり、むしろ大柄な砲員が狭い車内で作業するのは大変な重労働です。連続射撃ともなれば砲員の筋肉頼りで発射速度はがた落ちです。
火砲は重い砲弾を何十kmも飛ばすための装薬(弾丸を飛ばすため砲の薬室に詰める火薬)を扱います。可燃性の危険物であり、安全管理には万全を期さなければなりません。装備の不具合で重労働になるのも嫌ですが、疲労が溜まってくと取扱いも雑になりがちです。製品不良や取扱不良による腔発事故は最悪です。品質管理や安全管理は古今東西どの軍隊で頭の痛い問題です。
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90式戦車が2010年の総火演の際、砲身を横向きにして前進中に砲口が土手に接触し土片が砲身に入り、そのまま射撃したことで破裂事故を起こした(2009年、月刊PANZER編集部撮影)。
日本でも2010(平成22)年8月20日、富士総合火力演習の訓練中に陸上自衛隊の90式戦車が、畑岡射場で砲身破裂事故を起こしています。腔発したわけではありませんが、砲身の先端40cmが吹き飛びました。1個小隊4両の行進射の際、砲身を左斜め前方に指向しながら前進中に、最後尾の戦車の砲口が土手に接触し、砲口内に土が入ったまま砲弾を発射したことが原因とされています。
この時、統裁部では砲口に草が付いているのに気が付いて、射撃中止を無線で命令しましたが、統裁部からの無線は当該車が直接受信できず、そのまま射撃に至りました。幸いけが人はありませんでしたが、その年の90式戦車の主砲射撃は中止されています。日本の自衛隊の安全管理は神経質すぎるという声もありますが、それでも事故はなくなりません。
「オニオンブロッサム」と化した兵器は腔発事故の怖さを伝えていますが、かつては蒸気機関車でもボイラーの爆発事故が起こり、ショッキングな姿を見せました。蒸気機関車のボイラーが爆発すると煙管がバラバラに露出し、「触手」が生えたような異形をさらすことがあります。現代では考えられませんが、蒸気機関車の黎明期の19世紀末~20世紀初めには頻発し、多くの写真が残されています。水蒸気が、戦車にも劣らない強靭な蒸気機関車のボイラーを引き裂く力を秘めていることに驚かされます。
筒内に圧力をかけ、火薬の威力で中に詰めた砲弾を飛ばすのが大砲、火力で水蒸気を発生させ、その力で動くのが蒸気機関車。機能は別物ですが基本原理は同じで、どちらも圧力が高いほど強い出力を発揮できます。しかし爆発リスクと裏腹であり、高性能と安全性は常に危うい技術的バランスをとってきました。
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腔発したオーストリア=ハンガリー軍の10cmM14野戦榴弾砲1914型(画像:Kriegsarchiv Wien, Public domain, via Wikimedia Commons)。
とはいえ火砲や蒸気機関車に限ったことではなく、現代の安全や安心は、過去の事故や犠牲の経験を重ねたトライアンドエラーの繰り返しで成り立っています。規制や規則は煩く感じるかもしれませんが、その背景があることを忘れないようにしたいものです。矛盾するようですが戦時だからこそ「安全第一」なのです。