〈ヒグマ注意報発令〉犬の散歩中に看護師が襲われ重傷…最凶ヒグマOSO18との関連は?「足跡を含め痕跡は見つかっていません」「次こそは…」地元猟師が狙う捕獲作戦【2023クマ記事 4位】

2023年度(1月~12月)に反響の大きかったクマ記事ベスト5をお届けする。第4位は、女性がクマに襲われた様子を伝えるニュース記事だった(初公開日:2023年4月6日)。4月1日午前8時30分ごろ、北海道東部の厚岸町で2匹の犬を散歩させていた看護師の女性(37)がクマに襲われ、女性は後頭部を噛まれたほか、ふとももやふくらはぎを引っかかれるなどして重症を負った。厚岸町では今年初の「ヒグマ注意報」を出して4月30日までの1か月間を目安に地域住民に注意を呼びかけているという。
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「クマ記事ベスト5」第4位の、北海道で発生したクマにまつわるニュース記事だ。(初公開日:2023年4月6日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
釧路市内から厚岸町の親戚の家へ遊びに訪れていた看護師の女性は、中型の日本犬を2匹連れて散歩に出かけていた。舗装もされていない牧草地や林が広がるエリアでクマと遭遇し、後頭部を噛みつかれ、ふとももなどを爪で引っかかれ重症を負った。女性は車で消防署に運ばれた後にドクターヘリで釧路市内の病院に搬送された。厚岸町環境林務課の担当者が語る。「襲われた女性は重症で入院していますが、意識はあり命に別状はないとのことです。まだ話を直接聞ける状態ではないので現場の詳しい状況はわかりませんが、外れた犬のリードが落ちていた沢の周辺でクマに襲われたと見られています。その後、犬は無事に保護されました。地元の人なら、木の生えてる場所であればどこにクマが現れてもおかしくないという認識を持っているので、まず 沢や森に無防備に入っていきません。ですが、観光客の方ですと『山には1人で入らない』『薄暗くなったら入らない』などクマが現われる危険性をお知らせしていても、行者にんにくなどの山菜を取りに行ったり、釣りをしに入っていってしまうんです」
ヒグマ(※写真はイメージです)
厚岸町は65頭もの牛を食い殺し、専門家の捕獲作戦の包囲網を幾度となくすり抜けてきた「忍者グマ」の異名をもつ“OSO18”という怪物ヒグマが潜んでいると言われる標茶町と隣接している。これまで人を襲ったことのなかったOSO18だが、今回「ついに人間を襲ったか」と近隣住民も一時騒然としたという。しかし、前出、厚岸町環境林務課の担当者が続ける。「今回女性を襲ったクマは中型と思われますし、現場もOSO18が出没したエリアからは遠く、違う個体の可能性が高いと思います。今年は雪解けが早くOSO18の追跡もすでに始まっていますが、今のところ足跡を含め痕跡は見つかっていません。現状は車を走らせ、足跡を見つけたら計測し、OSO18に酷似した足跡だったら集中的に人や監視カメラを投入してさらに追跡していこうということになっています。ヒグマの生態に詳しいNPOでつくる特別対策班とともに追跡し、地元のハンターの猟友会とも情報の連携をとり動いていますが、正直、捕獲できる可能性はわかりません。雪が完全にとけたら牛も放牧されるので、また檻に餌をしかけた『箱罠』や『ヘアトラップ』などの罠をしかけます」
木に有刺鉄線を巻いたヘアトラップ
ヘアトラップは、ヒグマの「背こすり」という立ち上がって木に背中をこすりつける習性を利用し、木に巻いた有刺鉄線で体毛が採取できる。また、クマが立ち上がっているため、撮影カメラをまわしておけばクマの大きさも測ることがこともできるし、体毛からDNAを採取し撮影に成功すればOSO18の移動経路の把握や外見的特徴を明確に掴める。実際、標茶町では設置されたヘアトラップでOSO18の体毛を採取することに成功している。しかし、残念ながら撮影カメラの不具合でこの時のOSO18について鮮明な映像は残っていない。ハンター歴60年の北海道猟友会標茶支部長の後藤勲氏が警鐘を鳴らす。「5月になれば放牧が始まるのでそろそろ姿を現わしてもおかしくない。ヤツは頭がいいから人に見えない沢を歩いたり、川の中を歩いたりして足跡を探させないように動きます。OSO18の追跡は足跡がなければ探しようがありません。データが集まってきてるとはいえ、そう簡単に獲れるとは思えません」OSO18はこれまで仕掛けてきた罠を一蹴し、監視カメラにもほとんど姿を捉えられていない。高度な学習能力と他の個体と比べて人間に対して強い警戒心を抱いているのが理由だ。「普通のクマなら一度牛を襲って食べたなら、必ず食べきれなかった分を後で食べに戻ってきます。春先は地面も凍ってるので、食べ残しを地面に埋める事もできないので、そこを狙って仕留めることもできる。だがヤツの場合は現場にハンターが向かうと、人間の匂いが漂っている間は姿を現わしません。クマは嗅覚が非常によく、2キロから3キロ先の匂いもわかるので捕獲は難航を極めます。さらにOSO18はカゴ付きの罠を仕掛けても、上手に半分だけ体を入れ、お尻をだして餌を取っていく知能も備わっています」(前出・後藤氏)
手負いの獣ほど怖い物はないとよく言ったものだが、熊においては確実に仕留める事が大切だと後藤氏は若手のハンターに指導を行っている。「クマを撃った経験のない若手のハンターには100メートルよりも近い距離で撃つように言っています。下手に半弓(弾が命中しても致死状態になっていない状態)にしてしまうと手がつけられなくなります。昔、厚岸町で猟師3人のうち1人がクマを撃ったのですが仕留めきれず、後日、同じ現場で、3人のうち撃った猟師だけがクマに襲われて殺されたという事例もあります。つまり、一度撃たれたクマはその人間に対して恨みを持つわけです」ヒグマは雑食動物とされているが、実際は草食傾向が強い。ではなぜ、OSO18は牛を襲うのか。後藤氏が解説する。「牛の飼育が増えて管理が難しくなり、牧場で放し飼いにするケースが増えたため牛を襲いやすい環境が生まれてしまったためだと思います。ただ、実は昨年にOSO18 を返り討ちにした牛がいて、その牛の角から採取された毛はOSO18だと特定されています。もしかしたら一度やられたことで警戒してもう牛を襲わない可能性もあります。そもそもOSO18も他のクマも基本的には人間を恐れているので近寄ってきません。ですが、これまでそうだったから今後も絶対に人間を襲わないと断言することはできません」
2019年8月13日、標茶町オソベツ地区で撮影されたOSO18と見られるクマ
何度もクマと対峙した事がある後藤氏も、「今年こそOSO18を獲れれば」と意気込む。「クマは威嚇する時、体を大きく広げて立ち上がるので、真正面から胸(心臓)を狙うしかない。警戒心の強いOSO18は1発、2発撃ち込んだところで死なないだろうし、そう簡単には仕留められないでしょう。獲れるかどうかは運ですね。猟友会は20人近くの猟師が在籍していて、OSO18の有力な目撃情報が入り次第、メンバーたちで囲い込みに向かう予定です。獲れたら剥製にする予定だと町長に伝えています」まもなく、雪解けが終わり牛が放牧される。OSO18が捕獲されない限り、牛が襲われる不安からは解放されない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班