「工藤会トップへの死刑判決」「ETCカードとLINEが使えなくなった」ヤクザが振り返る2023年。町田市銃殺事件、神戸市ラーメン組長殺人などヤクザがらみの事件に暴力団関係者は何を思う?〈重大ニュース〉

2023年、ヤクザ界隈を騒がせた重大ニュースについて、現役暴力団幹部に話を聞いた。さらに世間を震撼させたヤクザがらみの「あの」殺人事件について、関係者の反応は?
ヤクザにとっての今年の重大ニュースを聞くために某指定暴力団の幹部K氏を訪ねた。「何だろう。何かあるかな」と言って、K氏は腕を組んでしばし考え込む。パッと思いつかないほど暴力団業界が穏やかだったかといえばそうでもない。「業界を揺るがすほどの大事件はなかったが、引きずっているのは工藤会の死刑判決だ」(K氏)北九州市を拠点とする工藤会の総裁、野村悟被告に福岡地裁で死刑判決が言い渡されたのは、2021年8月24日だ。工藤会は平成10年から26年にかけて、北九州市で漁業の元組合長を射殺するなど、4人の一般人を死傷させる4つの事件を起こした特定危険指定暴力団だ。「特定危険指定暴力団」は2012年に暴対法(暴力団対策法)が改正された際、市民や企業を危険にさらす暴力団を取り締まる制度として新設された。現在、これに指定されている暴力団は工藤会のみ。2012年に指定されて以後、福岡県公安委員会により毎年指定が延長され、今年12月に11回目の延長が決められた。2021年8月、福岡地裁で死刑判決が言い渡されると、野村被告は裁判長に向かって「公正な判断をお願いしたけど、全然、公正じゃないね」「アンタ、生涯このことを後悔するぞ!」と威嚇。裁判の行方を見守っていた各ネットニュースでこの発言が見出しとなって溢れた。
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この死刑判決に業界には衝撃が走ったと聞く。無期懲役を言い渡されたナンバー2の田上不美夫被告も足立勉裁判長に向かって、「ひどいなぁ、アンタ。足立さん!」と威圧ともとれる発言をした。2人が事件に関わったという直接的な証拠はなく、全面的に無罪を主張していたのだ。ところが2023年9月27日、控訴審第2回公判で田上被告は主張を一転させた。起訴された4つの事件のうち2つについて「独断で指示した」と関与を認めたのだ。これは、自ら罪を認めることで、親分である野村被告の死刑判決を食い止めようとしたとみられている。「野村被告の指示はない」と強調したというが、検察も引き下がらない。判決が言い渡されるのは2024年3月12日になる。この判決が業界に与える影響は大きいとK氏は解説する。「工藤会は俺たちから見ても危ない組だ。現役組員が一般人を狙うなどあってはならない。だが直接的な証拠もなく、推認で共謀したと死刑判決が出た。この判決がそのまま通れば、業界は一変する」過去には敵対する組を襲撃し、実行犯として身代わりを自首させることもあるといわれた暴力団組織。警察も襲撃が下っ端の組員の独断とするには無理があるが、「暴力団から情報を取るためには警察も目をつぶり、互いに落としどころを探る。そういう時代もあった」とK氏。しかし、今回の判決が通れば、仮に特殊詐欺に組員が関わっていたとしても組長は使用者責任を問われ、損害賠償を請求されるどころではすまなくなるのだ。
その他、彼らにインパクトを与えたニュースは何なのか。「ETCカードとLINEが使えなくなったこと」と語るのは、関東を拠点とする暴力団の古参幹部O氏だ。このことは暴力団組織や組員らに大きな痛手となった。他人名義のETCカードを使って高速道路を走行し、高速料金を数百円ほど詐取した電子計算機使用詐欺容疑で、今年に入って六代目山口組の直系組長らが次々と逮捕されたことで、業界は騒然とした。なかには身内まで逮捕されたケースもあった。ETCカードを持たないO氏も「今では高速に乗るなら現金払いか、ETCカードを持つ身内や友人を隣に乗せる。カードを持つ人間が隣に乗っていれば詐欺で捕まることはない。不便だが今はそれぐらいしか方法がない」と話す。反社会的勢力の人間にとってさらに痛かったのが、LINEとヤフーが合併し、LINEヤフーとなったことだろう。これによりLINEの規約が変更され、継続的に利用するにはプライバシーポリシーへの同意が求められるようになったのだが、ヤクザはこの“同意”に敏感だ。というのも、その規約に反社の排除条項があるのに同意してしまえば、詐欺容疑で逮捕されてしまう。同様のことはポイントカードの利用でも起こっていて、実際に六代目山口組傘下の幹部が、ポイントカードの詐欺容疑で逮捕されている。
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O氏も規約や提示される書面には必ず目を通すという。「規約とか、なんであんなに文字が小さく細かいのか。まるで嫌がらせだよな」これに関連してヤクザはLINEを使えなくなるという噂が10月に広まり、多くの組がLINEの使用をやめるよう通達を出し、組長らは次々とLINEを退会。O氏の周囲でも退会する組員が続出したというが、組員の中にはプライバシーポリシーに同意せず、LINEを使い続けている者もいるという。「11月から使えなくなる可能性があるといわれていたが、今のところはまだ使えているようだ。ただ“その猶予も3ヶ月”という噂もあって、いつ急に使えなくなるのか。俺の知り合いは『ある日突然、アカウントが消滅していたらと思うと恐ろしい』と嘆いていたよ」
これらは暴力団関係者にとっては大きなニュースだが、カタギの人間はピンとこないだろう。世間を震撼させた組員や元組員が関連する殺人事件を関係者はどう見ているのか。まずは5月に町田市の喫茶店で暴力団幹部が元組員の男に発砲され死亡した事件だ。拳銃で撃たれ、駅構内で血だらけで倒れている幹部の姿がネットやニュースで流れ、世間は騒然となった。「FX投資に失敗した元組員が金を借りた幹部を撃った。容疑者は余命宣告されていたという噂だが、昔からギャングのようなことをする人間だったようで、金に詰まっての犯行だったという見方が主流だね。この犯行映像はLINEで流れてきたな。幹部にしてみれば貸した金を鉛玉で返されたのでは、たまったもんじゃない」(O氏)
元組員による町田市銃撃事件。暴力団関係者の間で出回った事件直後の現場の様子
それでも「発砲事件があると、なぜかワクワクしてしまうのは性分なのかね」とO氏は笑った。10月、埼玉県戸田市の病院で発砲した後、蕨市の郵便局に立てこもって逮捕された86歳の元暴力団員の事件についても聞いてみたが、こちらは「暴力団員だったのはかなり昔の話だろう。おそらく元から危ないやつだったんじゃないのか」と関心は薄いようだった。一方、ヤクザ業界でも注目度が高かったのが、神戸市長田区のラーメン店で4月、六代目山口組傘下組織の組長が射殺された事件だ。というのも、被害者は自ら厨房に立っていた同店の店長であり、現役の組長だったからだ。O氏は「謎の多い事件だ。二次団体や力のある組長を狙うならまだわかるが、組員もいない名前だけの組長を殺害した理由はなんだったのか……」
神戸市で起こった山口組系組長殺害事件の防犯カメラの動画もヤクザ界隈で共有された
来年はどんなヤクザ関連のニュースが世間を騒がせるのか。すでにその火種はそこここでくすぶっているのかもしれない。取材・文/島田拓集英社オンライン編集部ニュース班