23年「裏流行語大賞」は岸田文雄首相の「増税メガネ」 明大・齋藤孝教授「国民のストレスぶつけるワード」

年末恒例となったスポーツ報知が選ぶ「裏流行語大賞」。今年はベストセラー「声に出して読みたい日本語」で知られる明大文学部の齋藤孝教授(63)と共に選考を行った。1位に輝いたのは、SNS上などで岸田文雄首相の呼称として定着した「増税メガネ」。いろいろあった2023年、スポーツなどの大イベントや謝罪会見などで飛び出した失言・迷言・珍言を振り返った。(構成・坂口 愛澄)
◆1位・増税メガネ
政府税制調査会が所得税改革を提言したことで、「サラリーマン増税だ」との世論が高まった。提言を受け入れるとみられた岸田氏は、SNS上でありがたくない“ニックネーム”を拝命することになり、国会でも話題に上がるほどに。
齋藤氏 「実質、増税なのではないだろうか」という国民の不安、ストレスをぶつけるワードとして生まれたのでは。「増税なんてしてほしくない」「勘弁してくれ」という思いを訴えるアピールだと受け取りました。メガネをかけている人は多いので、メガネというワードに「差別感」がほぼありませんよね。私も「おしゃべりメガネ」とか言われても別に気にはなりません。岸田さん本人も認識し、国民のアピールが届きました。公共性があったと思います。
◆2位・推し〇〇
イチオシの人やキャラクターを応援し、周囲に広める(消費を含む)行為を指す言葉。「推し活」や「推し事」、仲間と共通の“推し”を堪能すべく、誕生日などを祝う「推し会」というワードが若者を中心に広まった。
齋藤氏 本当に推し活や、推し会、推し事といった言葉が流行りましたね。推しという言葉は、もともとありましたが、一層、促進された気がします。アニメキャラなど推し活に力を入れすぎて、お金がないなんて話も聞きました。やり過ぎは問題ですが、多くの人が推しによって活力を得たとも言えます。生活に張り合いをもたせるという面もありますね
◆3位・ゴルフを愛する人への冒とく
自動車保険の保険金不正請求問題が発覚した中古車販売大手ビッグモーターの兼重宏行社長(当時)が会見で放った言葉。ゴルフボールを靴下に入れ、振り回して車を傷つける水増し請求をしていた現場を批判したが、ピントのズレた発言に「客への冒とくだろ」とのあきれ声が上がった。
齋藤氏 お客様、お客様の車に対してリスペクトを持つべきなのに、なぜか「ゴルフを愛する人への冒とく」と発言。皆さん「正気で言っているのか!?」と耳を疑ったと思います。「そこじゃないんだよ!」と漫才のようにツッコミを入れたくなりますよね。会見後は「〇〇に対する冒とくだ」とあえてピントがズレた使い方で引用するのが、私の周りでもはやりました。
◆齋藤 孝(さいとう・たかし)1960年10月31日、静岡県生まれ。63歳。東大法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、明大文学部の教授に。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。2001年刊行の著書「声に出して読みたい日本語」がシリーズ累計260万部を突破するベストセラーに。02年の新語・流行語大賞では「声に出して―」がトップテン入り。
◆齋藤氏の総括と来年の展望 流行語は、いかにそのワードが使われたかが重要だと思っているので、それを基準にトップ3を選考させていただきました。今年は旧ジャニーズ事務所の性加害問題や宝塚歌劇団のパワハラ問題、さらには日大アメフト部を巡る薬物事件など本当に暗いニュースが多かったですね。その一方で生成AIの発達などもあり、社会や人間の在り方に変化がもたらされた画期的な年だったともいえます。来年は、国民の皆さんがポジティブになれる流行語、癒やしを感じるような言葉を求めているような気がします。