かつて香港名物とも言われた啓徳空港着陸時の「香港カーブ」。低空で空港へと近づき、急カーブするための目安となっていた巨大な赤白の市松模様が、今も残っています。現地で見てきました。
2023年は香港国際空港の開港25周年でしたが、同空港が1998年7月に運用を開始するまで、香港の空の玄関口として機能していたのが啓徳空港です。香港の中心といえる九龍半島側の市街地にあったことから、とても便利な空港でした。海に突き出した突堤のような形状の狭い敷地の中に、長さ3390mの滑走路が一本設けられていました。
ただ、空港の北西側には密集したビル街が広がり、おまけに標高98mの格仔山があるため、西側からの進入路は丘を避けるようにカーブして設定されていました。最終進入の途中でカーブする進入コースは珍しくはありませんが、密集したビル群の上をかすめるように低空で飛行し、旋回しながら滑走路に滑り込む様子は当時の香港名物で、「香港カーブ」と呼ばれていました。
ビル群スレスレ急旋回!! 伝説の「香港カーブ」をご存知か パ…の画像はこちら >>啓徳空港に着陸しようと香港の市街地を低空でかすめる旅客機。このような風景は香港名物となっていた(パブリックドメイン)。
当時、国際線の主役だったボーインク747やロッキードL-1011「トライスター」などの大型機が、低空で摩天楼に接近しながら飛行する様子は、飛行機マニアでなくても興味をそそる風景でした。
一方、機内からの景色もスリル満点で、特に夜間の場合、眼下に広がるビル群の夜景は絶景というに相応しいものでした。筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)自身、飛行機で香港に行った際、空港への着陸ルートが海からのコースだとわかると、残念に感じた記憶があります。
この香港カーブには、電波で航空機を誘導する地上の無線局以外にもパイロットが目視で視認しながら右旋回を行うタイミングを判断するための標識が設けられていました。それは、空港近傍にそびえたつ格仔山の頂上付近にあった、赤と白のチェック柄の巨大な標識です。
この赤白の標識は頂上付近の西側と南側の二面に設けられ、通称「チェッカーボード」と呼ばれたことから、格仔山は別名「チェッカーボードヒル」とも呼ばれていました。香港空港に西側から着陸する場合、パイロットはこのチェッカーボードを目標に降下を続け、チェッカーボード上空で右に旋回、啓徳空港の13番滑走路に向かって最終進入する経路を採っていました。
ただ、この目立つチェッカーボードも啓徳空港の廃止とともに使われなくなります。その後、年とともに塗装が剥げていきましたが、歴史的にも重要な施設であったことから、現在でも訪れる香港市民は絶えません。さらに、啓徳空港を記念する施設として保存する機運も高まったことで、新型コロナが蔓延していた時期にも関わらず、2020年から2021年にかけて復元作業が行われています。
チェッカーボードの模様は新しく塗り替えられ、現役当時の状態に復元されました。格仔山に近い九龍仔公園からは、鮮やかに塗りなおされたチェッカーボードを見ることができますが、その前に生えている木々の高さが25年の歳月を物語っていると言えるでしょう。
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格仔山の頂上付近に設けられていたチェッカーボード。その前に生えている木々の高さが25年の歳月を物語っている(細谷泰正撮影)。
啓徳空港が現役だった時代は、進入路に沿ってビルの高さ制限が設定されていましたが、今では香港のどこでも見られるような高層ビル街に変貌してしまいました。しかし、着陸進入で目安とされたチェッカーボードは塗り直されて往時の姿を今に伝えています。
香港を訪れた際は、この歴史的遺産を眺めながら当時の「香港カーブ」を思い出してみるのもよいのではないでしょうか。なお、九龍仔公園はMTRと呼ばれる香港地下鉄の楽富駅から徒歩で訪れることができます。