ロシアの民間航空業界は、ウクライナとの戦争における欧米側の制裁により、旅客機のパーツなどが入手できない状況にあります。2024年はどうなるのでしょうか。
2023年もウクライナとの交戦状態が続いていたロシア。軍事侵攻の制裁によって、西側諸国から航空機パーツを手に入れられなくなってしまったため、ロシアの民間航空業界は国内で運用している旅客機間でパーツをやりくりする「共食い整備」で対応するなどして、運航を続けてきました。
このため2023年は、衝撃的な事件とともに“脱西側”の傾向を見せています。2024年はどうなるのか、代表的な動きをまとめました。
「共食い整備」は今年解消? 窮地のロシア民間航空 制裁でパー…の画像はこちら >>イルクートMS(MC)-21(画像:ロステック)。
9月、ロシアのウラル航空で国内線旅客便に機体トラブルが発生した結果、シベリア南部の畑へ緊急着陸しました。その後、当該機を畑から撤去する手法として「修理や機体の軽量化を実施したうえ、当該機をその畑から離陸させる」という、驚きのアイデアを検討していることが、複数の海外メディアにより報じられました。
しかし、12月末にもこの機は畑に留め置かれたままの状態です。一部では「畑から離陸」を断念する方針であるとも報道されているなど、この機の今後についての情報が錯綜していますが、現地メディアは「冬季期間は機体を畑に置いたままにしておく」方針と報道しており、後者の見立てが濃厚です。
翌10月、ロシア国営企業であるロステック傘下のKRETが、双発中短距離ジェット旅客機イルクート MS-21(ロシアでの型番はMC-21)のアビオニクス(電装部品)を、純ロシア製にした最初のセットを出荷したと発表しています。
新たな出荷分は、油圧、燃料、慣性、防氷システムおよび防火システム、空調、速度測定、その他のアクチュエーターを制御できるリモートコントロールを国産化。また、操縦室内の照明設備も、床照明や一般照明、信号表示器などまで完全国産化しました。旅客機パーツを国産化することで、他国に頼らない体制の構築を進めているといえるでしょう。
11月1日にはロシア製の大型旅客機「イリューシンIl-96-400M」が初飛行に成功。この機は370席を配する大型機ですが、大型市場でも双発機(エンジン2基の旅客機)が主流のなか、珍しい4発機となっています。
Il-96-400Mは、1988年に初飛行した旧ソ連・イリューシン設計局「Il-96」シリーズの最新派生型です。先代の「IL96-300」を設計のベースとしながら、胴体を約9.3m延長して全長63.9mにしたことで定員を増加させたほか、新エンジンを搭載し、新型のナビゲーションシステムや通信装置を備えるとのことです。
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初飛行した「イリューシンIl-96-400M」(画像:OAK)。
そして、2024年もロシアの民間航空業界は、「西側に依存しない旅客機」を生み出す方針を、さらに強化すると見られます。
2023年8月、同国のUAC(ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション)は、リージョナル・ジェット(100席以下のジェット旅客機)「SSJ(スホーイ・スーパージェット)100」に、新型の国産エンジンPD-8を搭載した新モデルの開発を発表しました。
当初、SSJ100はフランスとロシアの合弁企業であるパワージェットが開発生産する「SaM146」ターボファンエンジンを搭載していました。しかしウクライナ侵攻後は、同エンジンを新造機へ搭載するのはおろか、既存機のエンジン整備についても部品供給が難しい状況に。そこで、UACは自国内で開発した別エンジンをSSJに搭載することを模索し、このたびのエンジン換装に至った模様です。
PD-8を搭載したSSJ100の初飛行は2024年の予定で、納入も同年内とされています。また、エンジン以外の各種パーツについても国内生産がすでに進行しており、一部パーツはすでに国産品へ付け替えられているそうです。