名古屋市内、夜の大曽根駅前では、輪になった若者たちが音楽に合わせ、即興でラップを披露しています。若者たちは、なぜここに集まりラップで思いの丈を歌っているのでしょうか。彼らのラップにかける想いを取材しました。
心の叫びを“ラップ”で 「サイファー」参加の10代が”伝え…の画像はこちら >>
ラップを即興で披露する若者たちの輪は、ラップの世界で「サイファー」と呼ばれる集まり。大曽根駅前の盛り上がりを狙って、地元のライブハウスが毎月一回開催しています。誰でも参加できるのがルールです。
(「サイファー」を主催・前川浩昭さん)「うまいとか下手とかじゃなくて、『やってみたい』という人をウェルカムにしていて、世代とか年齢を超えて音の上でひとつになれるのがすごくいい」
参加者の中には、10代の若者の姿も。水野亞流さん(15歳)は、毎回このサイファーに参加していて、自分の思いをラップに込めています。
(水野亞流さん)「(参加しているのは)半年前くらいからです。もともと自己表現が苦手だったので、でも音楽(ラップ)をやっているときは、本音とかを言えるので。(サイファーは)一番自分が本音を言える所かなって思います」
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亞流さんが通うのは、名古屋市内にある芸術系の高等専修学校。漫画や声優などについて学ぶ6つの学科があり、一般教科の通信教育を受ければ高卒資格も得られます。亞流さんは2023年4月に音楽学科に入学し、作曲などを勉強しています。
ここで打ち込めるものと出会えた亞流さんですが、進路を決める際に親と激しく衝突したといいます。
(水野亞流さん)「お母さんはマジで『普通の高校行って』みたいな。ウチも嫌々勉強してたんですよ、塾とか行って。だけど結局、普通科の学校に行ってもやりたいことが音楽だから。それで何回もけんかしましたね。お互い泣いたりとかしてたし、めっちゃ否定されてましたね」
亞流さんは、岐阜県内で母親と2人暮らしをしています。
(母・正美さん)「(Qお母さんは普通科の高校に行ってほしかった?)行ってほしかったです。それこそ亞流の親友の子が進学校を目指して頑張っていたから、結局(亞流の親友は)進学校に行ったけど。亞流も頑張って本当は(進学校に)行ってほしかったです」
亞流さんの両親は、彼女が5歳の頃に離婚。母親は家計を支えるため、仕事で家にいないことが多かったといいます。
(水野亞流さん)「家に人がいないから話し相手がいないとか、学校に行っても転校とかしてたから、いじめられちゃったりして。誰とも話したくない、学校も行きたくないみたいな」
幼い頃から孤独を感じていた亞流さんが、中学3年生の時に出会ったのがラップでした。これなら自分の気持ちを伝えられると感じ、専修学校で音楽を学ぶことを決めました。今では、スマートフォンのアプリを使ってオリジナル曲を制作しています。曲は「あるん」というアーティスト名でYouTubeに投稿しているほか、ライブハウスなどでも披露しています。
(水野亞流さん)「他人に自分の思ったこととかを言うのがあんまり得意じゃなかったんですけど、その代わりに音楽をやっている時だけは、歌詞で自分の気持ちを言うことが自然とできた」
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あくる日、初めて大曽根駅前のサイファーに参加していたのは、愛場匠音さん(18歳)。
(愛場匠音さん)「やることがなくて、そうしたら友達が『ラップやってみない?』ってノリで言ってきてくれて。『やってみたい!』ってなって…。それでラップやり始めましたね。今もずっとやっています」
匠音さんは、愛知県一宮市で母親と祖父母の4人暮らし。2年前にラップと出会うまでは、すさんだ時期もあったといいます。
(愛場匠音さん)「けんかもそうですし、みんなでバイク乗って暴走行為っていうのもあれですけど、そういうのもあったし。このトイレの前ですね、トイレの前で集団リンチされて頭を蹴られて。気付いたらもう病院で…」
高校2年生の春にけんかの末、頭蓋骨陥没の大けがもしました。高額な治療費がかかり、母親を泣かせてしまう結果に。その後、高校を中退しました。劣等感にさいなまれる中、友人の誘いで始めたのがラップでした。
(愛場匠音さん)「その子たちは真面目に学校通っていて、ラップも好きでやっている子たちだったので。自分の言っていることに対して、みんなが『ワー!』って盛り上がってくれることがうれしくて」
今年8月には、名古屋で開かれたラップバトルの大会に挑戦し、見事優勝。初めて人に認められたことが自信につながりました。ラップと出会ったことで、頑張ろうと思えるものに出会えたのです。
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別の日、亞流さんは大曽根駅の近くにあるライブハウスにいました。
(水野亞流さん)「きょうは、お母さんが見に来ます。あんまり音楽をやっていることとかを良くは思ってなかったから、でも一回は見てほしいなという感じで。ちょっと緊張はするけど…という感じです」
ずっと音楽に反対していた母親を、ライブに自分のライブに誘ったのです。仕事を終えた母・正美さんは、不安をのぞかせながらライブハウスを訪れました。自分の思いを曲にのせて歌う亞流さんを見た母・正美さんは…。
(母・正美さん)「自分で曲を書いてそれを歌って、誰かに届けたいという気持ちは分からないけど、彼女にはその気持ちがあるんだなと。すごく反対したんだけど、今思えば歌うことで彼女は救われたんだろうと思います」
「ラップ」で伝えられた、亞流さん本当の気持ち。大曽根駅前の路上には、今日も自分の思いを伝えあう若者たちの輪が出来ています。
CBCテレビ「チャント!」2023年12月20日放送より