どれだけ知ってる? 教習所で教わらないバイクTips 第35回 やっぱり最強は「電熱アイテム」? 冬ツーリングを快適にする方法

寒い冬はバイクに乗りに厳しい季節ですが、澄んだ空気は見晴らしもよく、温かい鍋や脂の乗った海の幸を楽しめるなど、冬ならでは魅力があります。

しかし、あまりの寒さに体調を崩してしまうのも考えものですね。今回は冬の走行を快適にする対策方法をいくつか紹介します。
■定番のウィンターウエアと、最近流行の電熱アイテム

定番の防寒対策は「ウインター用ウエア」です。古くは羊毛や木綿、羽毛に始まり、その後はフリースやゴアテックスのような化学繊維や、アルミシートを織り込むなどの新素材が開発されました。スキーや登山用品を代用することもできますが、バイク用はライディングに最適な形状やプロテクターが装備されています。

防水と防風、蓄熱、透湿性能に優れた素材開発は現在も続いていますが、革新的な防寒装備として注目されているのが「電熱アイテム」です。一般的なウエアが体温を逃がさないようにするのに対し、電気でウエア自体が温まるため、その差は圧倒的。一度使ったら手放せないという人も少なくありません。

電熱ウエアはグローブから上下のアウター、インナー、靴下やブーツ、シューズタイプなど、あらゆるタイプが登場しており、大半は小型バッテリーから給電します。ライダーが装備するウエア以外にも、バイクのハンドルグリップやシートに取り付ける製品もあり、こちらの給電はバイクから行うのが一般的です。ただし、古いバイクや小排気量車では発電量不足でバッテリー上がりを起こすケースもあるので注意してください。

また、冬は吐いた息がヘルメットのシールドを曇らせて視界を悪化させます。シールドを少し開ければ外気で曇りは取れますが、顔に吹きつける冷たい風をガマンしなければなりません。近年は曇り止め加工をしたアンチフォグシールドや、二重サッシのような構造をしたシートも登場しています。クリアな視界は安全につながりますので、こちらもおすすめです。

■冷えやすい「指先」を守る防寒アイテム

バイクのコントロールは右手で行うブレーキやアクセルが重要ですが、走行風が当たる指先は冷えやすく、かじかんでしまえば正確な操作ができなくなります。また、金属製のブレーキレバーも氷のように冷えてしまいます。

転倒や事故のリスクを減らすためにも、手や指先の防寒対策はとても重要です。定番はウインターグローブですが、登山やスキー用はバイクのスロットルやレバー、スイッチ操作を想定していないため、フィーリングはバイク用品に劣ります。いつも使っているグローブの下に蓄熱や電熱のインナーグローブをつけるという方法もありますが、キツくなる場合は操作に支障が出たり、血行が悪くなるので注意してください。

ハンドル全体を軟質素材で覆った「ハンドルカバー」は昔から通勤・通学、配達用のバイクに使われてきた実用的な防寒アイテムです。これに電熱の「グリップヒーター」を組み合わせればグローブが不要なほど暖かくなりますが、『見た目がカッコ悪いから』と敬遠する人もいます。また、「スイッチの操作性が悪くなる」、「風圧でカバーが潰れてレバーが押される」などのデメリットもあります。

「ハンドルカバー」ほどではないものの、樹脂製の「ハンドガード」や「ナックルバイザー」も走行風が指に当たりにくくなります。もともとはオフロードで飛び石を防ぐための装備品でしたが、ワイルドで強靭なアルミバーが付いた大型ガードや、デザイン性の高い透明バイザーなど、メーカー純正から汎用までたくさんの製品が販売されています。

そのほか、レバーに取り付けるスポンジやラバー製の「レバーグリップ(ラップ)はレバーの冷たさを緩和します。数百円と安価なわりには効果の大きなアイテムです。

手軽な「使い捨てカイロ」や、嵩張らない予備の防寒グッズ
電熱ウエアが登場した現在でも「使い捨てカイロ」は手軽さやコスパに優れた防寒の定番アイテムです。持続時間は10時間以上あり、ポケットに入る小さなものから背中に貼れる大判タイプまでサイズも豊富に揃っています。ベンジンやオイルを使うカイロは手間がかかりますが、発熱量は使い捨てカイロの10倍以上もあり、『レトロな趣を楽しめる』とキャンプブームでは人気が再燃したアイテムです。

防寒ウエアといっても程度によってさまざまな種類があります。暑ければベンチレーションやファスナーを開けて調整できますが、寒ければどうにもなりません。そのため、不安なら荷物の中に予備のインナーやアウターをひとつ入れておくとよいでしょう。薄手のインナーでも、蓄熱素材を使った製品ならだいぶ暖かくなるはずです。中高年のベテランは知っている方も多いですが、女性用のストッキングも効果があります。レインウエアを携行していた場合、これを着ることで体温の低下を防ぐことができます。

また、災害時の防寒対策として、「ゴミ袋をベスト状に切ったものをアウターの下に着る」、「お腹が冷えないように新聞紙を胴体に巻く」、「ビニール袋を靴下とシューズの間に履く」、などが知られています。100均で手に入るアルミブランケットなら、さらに防寒効果が期待できます。

こういったものはツーリング中に立ち寄るコンビニでも調達できますが、人里離れた林道のようなルートを走る場合は、あらかじめ用意しておいた方がよいでしょう。
■細かなところで差が出る防寒効果

ツーリングは一度の走行で1時間以上走ることも多く、その間は冷たい走行風を受け続けることになります。小さなことですが、グローブと袖の間や、首、襟などを整えて冷気が入らないようにすれば身体の熱も奪われず、快適に走り続けることができます。走行中に手を離して直すのは危険ですので、特に停車ができない高速道路やバイパス道路を走りだす前はしっかりチェックしてください。

長時間の高速巡行では上体を伏せ気味にして、肘や膝を開かないようにすれば走行風が当たりにくくなります。つま先も指先同様、身体の末端なので冷えやすいところですが、車体に密着させるように閉じることでエンジンという熱源に近くなります。こういったことも長時間の走行ではじわじわと効いてきます。

また、寒いと感じたら無理に走り続けようとせず、なるべく早くバイクを止めて防寒対策をしてください。一度冷えてしまった身体はなかなか温まらず、体調を崩してしまうこともあります。

電熱ウエアなら細かいことを気にしないで済むかもしれませんが、冷えやすくなっているものを温めるにはそれだけ電気を消費することになります。電熱ウエアでもしっかりファスナーを閉め、休憩時は室内に持ち込んで冷えないようにすれば電池の持ちもよくなります。

■経験を積むほど面白くなる! 冬ツーリングは小さな冒険旅行

さまざまな防寒アイテムの登場によって冬のツーリングはとても快適になりました。しかし“過ぎたるは猶及ばざるが如し”ということわざもあるように、何事もやりすぎは禁物です。

例えば、ウエアを厚着しすぎれば身体の動きが阻害されてライディングに支障が出たり、汗をかいて身体を冷やしてしまいます。快適すぎれば路面やタイヤが滑りやすい低温だということが頭から抜けてしまうこともあるかもしれません。身体の熱は逃がさないようにしても、頭部は適度に冷やす方が外気温の感覚も分かりやすく、頭もハッキリします。

一言で「防寒対策」と言っても、走行する場所の気温や風の強さ、バイクの種類によって最適な装備の内容は変わってきます。そのため、初心者のうちは失敗するものですが、経験を積んでいけば徐々にコツがつかめてくるものです。

あらかじめツーリング当日をシミュレーションして準備した防寒対策が当たったときはうれしいものですが、たとえ失敗したとしても仲間内で笑える「楽しい思い出」になります。こんなアドベンチャー的な要素も冬ツーリングの魅力ではないでしょうか。

津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら