紅海通ればミサイルが…世界の物流「スエズ運河回避」の深刻さ 日本にも影響ジワリ

世界の物流を担う貨物船が、スエズ運河を回避し、アフリカの喜望峰へと軒並み大迂回しています。商船がミサイルなどで狙われる事態となっている紅海周辺の治安悪化、その影響は、どれほど大きいのでしょうか。
紅海周辺でイエメンの武装組織フーシ派などによる船舶への攻撃が増加し、欧州とアジアを結ぶ海上物流に大きな影響が出ています。アメリカ連邦海事局も2024年1月15日、米国船籍と米国企業の商船に対して紅海での運航停止を推奨。米英軍などによるフーシ派の支配地域への空爆が実行される中、商船はスエズ運河経由からアフリカ大陸の喜望峰回りへと迂回を強いられる状況となっています。
紅海通ればミサイルが…世界の物流「スエズ運河回避」の深刻さ …の画像はこちら >>スエズ運河を航行するコンテナ船(画像:スエズ運河庁)。
海運大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は2024年1月に入り、紅海を通過する全船舶の運航を停止しました。自動車船大手の北欧ワレニウス・ヴィルヘルムセンやイギリスの石油大手BPも同海域での運航取り止めを明らかにしています。
アジア~欧州航路に大型コンテナ船を就航させているコンテナ船社3大アライアンス、2M(MSC、APモラー・マースク)、オーシャンアライアンス(CMA―CGM、エバーグリーン)、ザ・アライアンス(オーシャンネットワークエクスプレス、ハパックロイド、陽明海運、HMM)の各社も、2023年12月ごろから喜望峰経由に切り替えており、攻撃リスクが低いとされている中国COSCOもイスラエル寄港を取り止めたようです。
実際、11月には日本郵船が用船する自動車船「GALAXY LEADER」が紅海で拿捕されたのをはじめ、MSCのコンテナ船「MSC UNITED VIII」へのミサイル攻撃や、マースクのコンテナ船「MAERSK HANGZHOU」への小型ボートによる襲撃といった事態が発生しています。「MAERSK HANGZHOU」の襲撃では米海軍の艦載ヘリコプターが救援に駆け付け、小型ボートへの攻撃を行いました。
MSCは「我々の最優先事項は船員の生命と安全を守ることにある。船員の安全が確保されるまで、船舶は喜望峰経由で迂回させる」と発表。マースクも「安全保障上のリスクは引き続き著しく高いレベルにあることが確認されているため、紅海・アデン湾を通過する予定の全船舶は、当面の間、喜望峰周辺を南に迂回する」としています。
こうした事態により、世界の物流はスケジュールの混乱だけでなく、輸送費の大幅上昇に直面しています。
スエズ運河経由から喜望峰経由への航路変更は各社の運航効率に影響し、航海日数が10日から14日余計にかかることになります。船舶が海上を航行する時間が長くなるということは、燃料代など追加コストが発生します。
さらに紅海での運航を前提としていたスケジュールが崩れ、メガコンテナ船が寄港するコンテナターミナルでは混雑がさらに悪化すると予想されます。トランジットタイムが長期化する中で、必要な船舶の不足や、欧州~アジア間の海上貿易のスケジュールを維持するために船舶の追加を投入することが考えられ、コスト増に備えてMSCもマースクも割増料金の導入を明らかにしています。
他方、太平洋と大西洋をつなぐ中米のパナマ運河も、渇水の影響で船舶の通航隻数を制限しており、各社は紅海の運航停止と合わせて調整に頭を悩ませているようです。
この事態は日本にとっても無関係ではありません。海に囲まれた島国の日本は輸出入のほぼ100%を海上輸送が担っており、日本の船会社が実質保有する外航船は約2200隻で、船腹量(船の総トン数の合計)は世界第3位を誇っています。
Large 240120 suez 02
ONEのコンテナ船(画像:ONE)。
このうち日本郵船は818隻、商船三井は818隻、川崎汽船は432隻と、このたび紅海での運航停止を決めた大手3社だけで2068隻を運航しています。3社のコンテナ事業を分離して誕生したオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)のコンテナ船だけでなく、大手3社の自動車船やLNG(液化天然ガス)船なども紅海へ入らないため、国際間の取引を手掛ける企業や荷主への影響が出てくると考えられます。
例えば日本は輸入する原油の9割を中東諸国に頼っていますが、積み出し港の一つであるサウジアラビアのヤンブーは紅海に面しており、フーシ派による攻撃のリスクにさらされています。海外報道によればヤンブーへ向かっていた日本郵船のVLCC(大型原油タンカー)「土佐」(30万2159重量トン)が運航をキャンセルしており、原油価格への影響が日本にも及びつつあります。