ショートステイでの長期利用の報酬水準が入所施設並みへと切り下げられる見込み。利用形態の是正なるか

2023年12月11日、社会保障審議会・介護給付費分科会の場で、来年度の介護報酬改定において、ショートステイを長期利用した場合の報酬単位を適正化することが取り決められました。
ショートステイは本来、その名の通り短期間だけ入所して利用するサービス形態。しかし実際には、特別養護老人ホーム(特養)などの入所施設と変わらないような、長期的に利用し続ける利用者が少なくありません。
現行制度では、ショートステイは入所期間が数日~30日程度と短いこともあり、長期入所を前提とした特養などよりも基本サービスの介護報酬が高めに設定されています。そんなショートステイで特養と変わらない利用形態が続けられた場合、ショートステイが報酬面で有利です。
そうなるとショートステイを運営する施設においても、「利用者に長期利用してもらおう」との動機を引き起こすとも考えられます。つまり、本来の利用形態とは異なるサービス提供が行われやすくなるわけです。
こうした状況を改善すべく導入が決まったのが、ショートステイを長期利用した場合の報酬水準の適正化です。具体的には、ショートステイの報酬を「特養並みの水準」に切り下げることを意味します。
この導入により、利用者が長期利用しても以前と同等の報酬を得られないので、ショートステイを運営する施設に本来の利用形態への是正を促す効果がある、と厚生労働省は考えているようです。
ショートステイとは、利用者が短期間のみ施設に入所し、日常生活上必要となる介護を受ける介護保険サービスのことです。65歳以上で要介護・要支援の認定を受けた方、40~64歳で特定疾病により要介護認定を受けた方が利用できます。
ショートステイには大きく分けて、短期入所生活介護(一般的なショートステイ)と、医療ケアを必要とする人向けの短期入所療養介護(医療型ショートステイ)の2種類があります。利用により最大で30日間、施設入所と同様のサービスを受けることができ、30日を超えて利用すると全額自己負担です。
また運営タイプとして「単独型」と「併設型」の2種類があります。単独型はショートステイ専門の施設を利用するタイプで、併設型は特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)に併設されているタイプです。単独型として運営できるのは短期入所療養介護のみとされています。
ショートステイは普段自宅で生活している人・在宅介護を受けている人が提供対象です。家族介護者が旅行や仕事の出張など、しばらく介護が出来なくなった場合に利用されるのが一般的と言えます。また、家族介護者が介護疲れを癒すレスパイト(休息)目的で利用されることも多いです。
先述の通り、ショートステイの利用は原則として30日以内です。もし30日を超えて利用された場合は、「介護保険の短期入所生活介護費を算定することができない」と規定されています。
30日を超えると利用者側の全額自己負担となり、利用者にとっては負担が大きくなるため、普通に考えると30日以内に退去して自宅などに戻ると考えられます。
しかしこのルールでは、「自費利用を挟む」という利用方法が可能となります。
つまり「30日連続利用→全額自己負担の1日を挟む(あるいは1日だけ自宅に戻る)→さらに30日連続利用」と続けることで、実質的に31日以上にわたって保険適用での長期利用ができるわけです。これにより「ロングショートステイ」という、語義矛盾しているような利用状態も生じ得ます。
現行制度では、こうした実質30日を超えた長期利用が行われている場合に、介護報酬が減算されるルールが定められています。減算額は1日30単位とされ、これにより上記のような本来のショートステイとは異なる利用状況の是正を図ろうとしているわけです。
例えば、ユニット型特養併設型のショートステイの場合、利用者が要介護3であれば、「最初の30日利用の基本報酬は838単位」ですが、1日の全額自己負担を挟んだあとの32日以降の利用における報酬額は、1日あたり808単位とされています。
30日を超えた分については1日30単位の減算とされるショートステイの基本報酬ですが、現行制度だと、「本来のショートステイ利用形態へ促す」との減算理由が意味をなさない状態も生じています。というのも、30単位減算しても、特養よりもショートステイの方がなお報酬額は高いケースもあるからです。
例えばユニット型特養併設型のショートステイの場合、30単位減算してもなおショートステイの方が報酬額は高くなっています。同サービスの基本報酬額は以下の通りです。
一方、ユニット型特養に普通に入所した場合の基本報酬額は以下の通りです。
単純に引き算すると分かる通り、ショートステイの報酬額から30単位を減算しても、なお基本報酬額は特養よりもショートステイの方が高いのです。
この状況だと、特養側にとっては、普通に入所してもらうよりもショートステイで長期利用してもらった方が収益は大きいです。「ショートステイにより長くいてもらいたい」と考えるようにもなり得ます。
ショートステイの方が特養よりも報酬が高いことによる影響は、データにも表れています。
厚生労働省の資料によると、ショートステイにおける長期利用減算(30日を超えた利用によって1日あたり30単位減算された報酬額)の算定割合は、2016年当時は23.3%でしたが、2022年には37%まで増えています。ショートステイを長期利用してもらって、その報酬を得ている施設が増加しつつあるわけです。
ショートステイの長期利用を減らす目的で導入された長期利用減算(2015年に創設)でしたが、減算されても損失を感じにくいケースがあるため、「算定率が年々増えている=長期利用が増えている」事態が起こっているのです。

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この状態を改善する目的で提案されたのが、冒頭で紹介した「長期利用の報酬水準を施設入所と同じにする」との改定案です。つまり、長期量減算の報酬額と、施設入所の報酬額を同じ水準にすることで、施設側にショートステイの長期利用を控えさせようとするのがそのねらいです。
しかし、これはあくまでホーム側に対する対処であり、肝心の利用者側への対応ではありません。利用者側にはショートステイを長期利用せざるを得ない理由があり、そのことを踏まえた改善策を取らない限り、長期利用の傾向は減りにくいと言えます。
利用者が31日以上連続でショートステイを利用する理由を調べるアンケート調査が行われています。
令和4年度の厚生労働省の研究事業で行われた三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケート調査によると、31日以上連続利用の利用者にその目的を訪ねたところ(回答者数=121・複数回答可)、最多回答は「介護者や家族の心身負担の軽減のため」(82.4%)、次が「特養の入所待機のため」(71.1%)でした。この2つの回答割合が、突出して多い結果となっています。
ショートステイの長期利用を是正する施策を進めるなら、施設側への対策としての報酬額改定だけでなく、利用者のニーズへの配慮も必要です。長期利用しなくても済むような施策も同時に求められます。
今回は、ショートステイでの長期利用の報酬水準を入所施設並みに切り下げるとのニュースについて考えてきました。長期利用を是正する場合、施設側、利用者側の双方に対するバランスの取れた施策が必要。その点の配慮も含めた行政側の対策を今後期待したいところです。