「背の低いミニバン」今なら受け入れられる? ホンダの原点回帰は新しいのか、“時代に逆行”なのか

ホンダが新たなEVのラインアップ「0(ゼロ)シリーズ」を発表。そのコンセプトはまさに、日本でかつて流行った「背の低いミニバン」です。ホンダの原点回帰は、EVの時代に受け入れられるのでしょうか。
ホンダは2024年1月上旬にアメリカのラスベガスで開催された「CES 2024」において、新たなEVラインナップとなる「0(ゼロ)シリーズ」を発表しました。2026年の発売を予定しており、そのイメージを示す「SALOON(サルーン)」と「SPACE-HUB(スペース・ハブ)」という2台のコンセプトカーが登場しました。
「背の低いミニバン」今なら受け入れられる? ホンダの原点回帰…の画像はこちら >>2003年発売の3代目オデッセイ。ライバル車種よりも大幅に低い、全高1550mmのミニバンだった(画像:ホンダ)。
その特徴は「Thin(薄い)」「Light(軽い)」「Wise(賢い)」の3つのキーワードと、ホンダ伝統の「MM思想(マンマキシマム・メカミニマム:人のための空間を広く、機械の空間は狭く)」を掛け合わせたものです。「SALOON」は、4人乗りでありながらも、まるでスーパーカーのようなワイドで低い、迫力あるスタイルです。
そして、「SPACE-HUB」は、スライドドアを持つミニバンでありながらも、絶妙に背が低いように見えます。ちなみに今回の発表では、実際の寸法は明らかにされていません。
しかし、撮影などで近寄ってみると、明らかに人の背の高さと変わらないものでした。全高1935mmの「アルファード」のような見上げる高さではないのです。「SPACE-HUB」の全高は1800mmを切っているようにも思えます。
あれ? これって要するに“背の低いミニバン”、つまりは「オデッセイ」のEV版ということになるのではないでしょうか。
もともとホンダは「MM思想」を体現した製品を数多くヒットさせてきました。燃料タンクを、後輪まわりではなく、車体の真ん中の床下に置くことで、室内を広くしたのが「フィット」と「N-BOX」です。これも「MM思想」そのもの。
また、背の低いミニバンとしてヒット作となったのが「オデッセイ」でした。特に、現行モデルは、床を薄くすることで、低い背のまま室内空間を広くしています。これも「MM思想」と言えるでしょう。
そうしたホンダ独自のヒットの法則が「MM思想」です。EVに当てはめれば、全高を低くすることで、空気抵抗が小さくなるほか、機械が小さいので、クルマは軽くなります。軽く抵抗が少なければ、搭載する駆動用バッテリーが小さくても航続距離を稼ぐことができます。さらに、バッテリーが小さければ、価格は安くなり、充電にかかる時間も短くなります。薄く、軽くなれば、すべてが良い方向に転がり、まさに“賢い選択”というわけです。
ホンダは、EV時代も「MM思想」で勝負をかけるということでしょう。
しかし、現実社会は、理屈や理想だけでは通らぬもの。嗜好品という側面もあるクルマも、売れる理由は理屈や理想だけではありません。
具体的に言えばミニバンです。日本は世界屈指のミニバン人気市場。そこで、圧倒的な強者となっているのが「背が高く大きなミニバン」です。Lサイズクラスでいえば、トヨタの「アルファード」が席捲しています。全高1935mmの見上げるような高さ、圧倒的な存在感の強さで人気を集めているのです。
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現行オデッセイ。背は高くなったが大人の背丈ほどだ(画像:ホンダ)。
実のところ「背の低い」を売りにするホンダの「オデッセイ」も、時代の要請に合わせて、2013年に登場した現行モデルは、1500mm台であった先代や先々代より、100mm以上も背を高くしています。2023年に再販となった最新モデルは全高が1695mmあります。「アルファード」の1935mmと比べれば、十分に背が低いですが、ちょっと前の「オデッセイ」と比べれば、それでも背が高くなっています。
ミニバンの世界でも、理屈から言えば、背が低い方が、空気抵抗が小さくて軽くなり、運動性能的には有利。しかし、現実には理屈ではなく、背が高くて立派なクルマが好まれています。軽自動車のベストセラーカーであるホンダの「N-BOX」も、非常に背が高く、広い空間が売り。実際のところ、「N-BOX」の全高は1790mm(2WD車)もあって、「オデッセイ」よりも背が高いのです。
また、EVの世界でも、小さく賢いクルマよりも、大きくて立派で、バッテリーを大量に搭載した高額なクルマばかりというのが現実です。「小さくて賢い」を売りにした「ホンダe」は残念ながら、発売終了となってしまいました。
そういう意味で、ホンダの「0(ゼロ)シリーズ」は、EVにおいては、重くてデカイという「世界の潮流に逆行」しているという見方もできます。
しかし、ホンダの「MM思想」が間違っているわけではありません。過去に何度もヒットを生み出していますし、理屈的には、非常にまっとうで有用です。逆に、今のミニバン人気が少々いびつともいえるでしょう。
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「0シリーズ」にはEV専用の新しい「H」マークをあしらう。写真は「サルーン」(画像:ホンダ)。
ですから、本格的なEV時代が到来したときに、顧客がどのような価値を求めるかは、まだわかりません。小さく、軽く、賢く、そして「MM思想」がEVに通じるのか。それとも日本のミニバン市場のように、見栄えの良い、大きくて重いクルマが人気となるのか――そこで重要となってくるのが、新しい「0シリーズ」のスペック(性能や価格)です。そのスペックが、ユーザーのハートをつかめるかどうかに注目です。
※一部修正しました(1/28 18:37)