初飛行から50年の節目を迎えたベストセラー戦闘機、F-16「ファイティングファルコン」。これを祝うため、試験機の聖地と呼ばれるカリフォルニアの空軍基地に様々な部隊のF-16が集まったそうです。
これまでに約5000機が生産され、いまなお最新モデルがデビューし続けているアメリカ生まれのベストセラー戦闘機F-16「ファイティングファルコン」。同機の初飛行は1974年であり、今年(2024年)はそれから50年の節目の年になります。そんな記念すべき年を祝おうと、アメリカ空軍主催の特別なイベントが1月25日に開催されました。
「F-16初飛行50周年」と呼ばれたこの記念式典は、アメリカ西海岸のカリフォルニア州にあるエドワーズ空軍基地内で行われ、会場にはその歴史を祝うかのように本物のF-16が複数展示されました。
F-16戦闘機50周年 アメリカ空軍の「大お誕生日会」がスゴ…の画像はこちら >>第416飛行試験隊の特別塗装機。尾翼のみの塗装だが手前の機体がYF-16の塗装を再現し、奥の機体が飛行隊の原点である第2次世界大戦期の爆撃飛行隊のインシグニアをオマージュしたもの(画像:アメリカ空軍)。
展示機はアメリカ空軍所属のものが多数を占めていましたが、その他にアメリカ本土でシンガポール空軍のパイロットを育成する第425戦闘飛行隊や、アメリカ海軍が海軍戦闘機兵器学校(NAWDC)でアドバーサリー(敵役)機として運用するF-16なども翼を並べており、この機体が持つ優れた多用途性や、採用国の多さによる高い国際性を象徴するような様相となっていました。
ちなみに、イベント中はF-16を運用するアメリカ空軍のアクロバット飛行隊「サンダーバーズ」が飛行展示も行ったそうです。
この記念式典の会場で注目を集めたのは、エドワーズ空軍基地に所在する第416飛行試験隊が用意した2機のF-16で、それぞれに50周年を記念した異なる特別塗装が施されていました。1機は垂直尾翼が赤、白、青のトリコロールカラーで彩られていましたが、これは50年前に初飛行したF-16戦闘機の試作機YF-16のカラーリングをオマージュしたものとのこと。
もう一機のF-16には黒地に弓を引く骸骨のエンブレムが描かれていますが、これは第416飛行試験隊の部隊番号の原点である第2次世界大戦時の第416爆撃飛行隊のエンブレムをモチーフにしたものになります。
これら2機の特別塗装機の内、特に話題となったのが、初飛行に成功したYF-16を模した前者でした。じつは、YF-16とエドワーズ空軍基地には深い繋がりがあるからです。
エドワーズ空軍基地は、F-16の試作機であるYF-16が初飛行を行った場所でした。もともと、ここは第2次世界大戦期より軍用機の試験場として使われていました。ちなみに、当時の名称はミューロック陸軍飛行場で、大戦後の1950年に事故死したパイロットの名前を冠して、現在の名称になりました。
なぜ、ここが試験場として選ばれたのか、その理由は基地の立地が大きく関係しています。ここは、カリフォルニア州内陸部のモハーヴェ砂漠にあるため1年を通じて天候が安定していて試験飛行に適していること。加えて、基地周辺に人口密集地がないことによる機密保全のしやすさなどから、公にしたくない軍用機の試験飛行を行うには最適な場所だったからです。
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第416飛行試験隊の特別塗装機の垂直尾翼のアップ。手前がYF-16の赤、白、青のトリコロールカラーを再現したもので、50周年のロゴや年数を示す数字も書かれている(画像:アメリカ空軍)。
YF-16が最初の初飛行をしたのは1974年ですが、じつは初飛行したと呼ばれる日は2つ存在します。
公的な初飛行は1974年2月2日で、その時は約90分間の飛行を行いました。しかし、それに先だって1月20日に行われた地上滑走試験において、試験機は予定になかった離陸を行った結果、6分間、空中を飛んでしまいました。
これは、高速滑走中に機体が異常な振動をはじめたことで翼端が滑走路と接触、機体の損傷を避けるための対処としてパイロット判断で機体を離陸させたものです。そのため、原則に従うとYF-16の初飛行は1月20日になりますが、本来の試験スケジュールに沿って予定通りに行った初飛行は2月2日の方であり、公式の記録としてはこちらが明記されています。
なお、初飛行後もF-16とエドワーズ空軍基地の関わりは続いています。F-16は最初のA型から改良が続けられており、逐次この基地へ各モデルの機体が飛来し試験飛行を行っています。昨年(2023年)3月には、最新モデルのF-16ブロック70が飛来し、バーレーン空軍に引き渡す前の試験飛行をここで行っています。
F-16は、冒頭に述べたとおり約5000機が生産された軍用機であり、ゆえに現用の西側製ジェット戦闘機としては最も成功した機種だといっても過言ではありません。現在では最新のステルス戦闘機F-35「ライトニングII」やフランス製のダッソー「ラファール」など、後発の戦闘機も登場しているため、性能面では相対的に負けている部分もあります。
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式典会場で飛行展示を行うアメリカ空軍の「サンダーバーズ」。下には地上展示されたF-16の列線が見える(画像:アメリカ空軍)。
しかし、F-16は絶え間ない改良によって、ステルス性こそ低いものの、いまだに第一線機として使用可能な優秀性を維持し続けており、だからこそ世界中で採用され、さまざまな作戦で多用されていると言えるでしょう。
F-16はこれまでに28か国で採用されています。アメリカ東海岸のサウスカロライナ州グリーンビルにある工場では新造機の生産が続いており、最新型のブロック70/72のバックオーダーは6か国で約130機もあるそうです。
母国アメリカでも空軍が今後約20年間はF-16を運用していく計画だそうで、新造機を購入した外国空軍ではもっと長く飛び続ける可能性が高いでしょう。F-16にとっての50周年とは、終わりへと向かう折り返し地点などではなく、たんなる通過点にしか過ぎず、これからも成長と発展が続くのは間違いありません。
※誤字を修正しました(2月2日19時40分)。