ロシアのウクライナ侵攻から1年が経過した。圧倒的な軍事力の差から、当初数週間で陥落するだろうとみられていたウクライナが、これだけ長く抵抗を続けることができたのは、食料とエネルギーを自給できていたからだ。
ウクライナは「欧州の穀倉地帯」と言われ、総輸出の3分の1を農産物が占めている。エネルギーに関しても、ロシアに多くを依存してきたが、天然ガスの25%、原油の15%を自給していた。ロシアとの戦争によってエネルギー事情は悪化したが、それでも最低限のエネルギーは確保している。
一方、日本の食料自給率は38%に過ぎず、天然ガスの98%、石油の100%を海外に依存している。こんな状態で日本が戦争に巻き込まれたら、国民生活は、あっという間に破綻する。だから、戦争の危機が迫るなか、日本がやるべきことは、まず食料とエネルギーの自給率を上げることだ。
不可能ではないと思う。1965年に日本の食料自給率は73%だった。だから当時のように麦とコメの二毛作を復活し、欧米のような手厚い農家に対する所得補償をすればよい。さらに、マイクロ農業を推進して、国民誰もが農業生産に携われるように仕組みを変えれば、自給率は上がるのだ。
エネルギーに関しても、屋根への太陽光パネル設置を義務づけ、家庭で使用する電力と電気自動車の電源をすべて太陽光でまかなうようにすればよい。政府が進めようとしている原子力発電拡大によるエネルギー自給化は、リスクが大きい。有事の際、敵軍に占拠されたり、最悪の場合攻撃のターゲットになってしまうからだ。農業も、エネルギーも可能な限り分散する。それが、日本が戦場になる可能性を考えた時に必要となる最良の安全保障戦略なのではないだろうか。(経済アナリスト・森永卓郎)