“ジョーカー”小池百合子が握る衆院解散の行方。岸田首相は「4・28衆院補選」悪夢の3連敗に戦々恐々…

裏金問題が自民党を直撃するなかで始まった通常国会。岸田文雄首相は施政方針演説で「政治の信頼回復」を声高に叫んだが、派閥の解散や裏金議員の処分を巡っては、早くも自民党内で対立が生じている。そして、永田町では岸田首相が国会会期中に衆議院の解散に打って出るか否かに注目が集まる。その大きな判断材料となるのが、あの政治家の動きになりそうだ。
「岸田首相は焦っている」ある自民党関係者は、最近の岸田首相の動きについて、このように評価した。岸田首相と言えば、1月18日に自身が率いてきた宏池会(岸田派)の解散を検討していることを真っ先に表明し、世間を驚かせた。「裏金問題で矢面に立たされた安倍派は、安倍晋三氏亡き後、リーダー不在の状況で幹部たちの信頼も地に落ち、放っておいても解散していく流れができあがっていた。にもかかわらず、急に岸田派解散を明言してダメ押しをしたのは、首相が自民党の全派閥を解散させる流れを作りたかったからだ」(自民党関係者)実際に、岸田首相は派閥存続派の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長には一切相談せずに自派閥の解散に言及している。「派閥解消で自民党を“浄化した”と見せかけることによって、衆議院解散を打つ道筋を作りたかったのだろう」と関係者は語る。結局、岸田派と安倍派、二階派、森山派は雪崩を打ったように解散したわけだが、茂木派と麻生派は政策集団として存続する中途半端な結果になった。ただ、残った両派からは派閥離脱者も出ており、自民党内政局はかなり流動的になっている。
岸田文雄首相(本人Facebookより)
こうしたなかで焦点になるのが、実際に岸田首相が衆議院の解散に踏み切るかどうかだ。岸田政権の内閣支持率は今も低迷状態が続き、時事通信が1月に実施した世論調査では、自民党の政党支持率が14.6%となり、同社が1960年6月に調査を開始して以降、野党だった期間を除いて過去最低を記録した。現在の状態が続けば、9月の自民党総裁選で「岸田おろし」が起きる可能性もある。しかも、多くの派閥が解散をしてしまっただけに、その流れを作った岸田首相を麻生派や茂木派が支えてくれるとも限らない。このように先の読めない政局のなかで総裁選に臨むよりも、先に衆議院を解散して選挙をしてしまったほうが、岸田首相にとっては再選できる可能性が高くなるという打算もあるだろう。
仮に衆院選となった場合、相対する野党はうだつが上がらない状態が続いている。前出の時事通信の世論調査だと、政党支持率は日本維新の会が3.8%、立憲民主党が3.5%と続く。「身を切る改革」を全面に出して勢いづいていた維新は、2025年大阪・関西万博の建設費高騰などの批判を受けて減速気味。立憲は裏金問題で自民党に攻勢をかけるものの、そもそもの政策発信が国民に届いておらず、共感を得られていない状態だ。ただ、こうした現状を大きく変えるかもしれない政治家がいる。小池百合子東京都知事だ。安倍晋三氏が「ジョーカー」(『安倍晋三回顧録』)と評した小池氏は、2017年に民進党を巻き込んで希望の党を立ち上げ、一時は自民党を震撼させた。今年の7月7日には東京都知事選が予定されているが、まだ小池氏は出馬を表明していない。永田町関係者は「小池氏ももう71歳。さらに東京都知事の任期を重ねると、年齢的にも国政に戻ってくるのが難しくなる。野党再編という大義名分とともに、次の総選挙で仕掛けてくる可能性は十分にある」と語る。
小池百合子都知事(本人Facebookより)
2017年の希望の党騒動のときに、小池氏とともに民進党代表として動いていた前原誠司氏は現在、国民民主党を離党して新党「教育無償化を実現する会」を立ち上げ、野党結集による政権交代を唱えている。立憲とは違い、旧民主党勢力でありながら維新と統一会派を組み、馬場伸幸代表などと関係が良好なのもポイントだ。そのなかで小池氏がゲームの流れを大きく変える、まさに「切り札」として、現在の与野党の状況を一変させるかもしれないわけだ。ここで重要になるのが解散のタイミングだ。通常国会は6月23日に会期末を迎えるが、一方で東京都知事選の告示日は6月20日。「岸田首相は、小池氏が都知事選に出るかどうかを見極めたうえで、会期末に解散するか否かを判断することになるのではないか」と永田町関係者は語る。
ただ、そもそも岸田首相が衆議院を解散できる状況をつくれるのかという問題もある。4月28日には3つの衆院選挙区で補欠選挙が行われる見通しだ。そのうち1つは、昨年4月の江東区長選で区議などに現金を配り、公職選挙法違反の罪で起訴された柿沢未途議員の東京15区。もう1つは、自民党裏金問題について質問した記者に「頭悪いね」と言い放ち、政治資金規正法違反で罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を受けた谷川弥一衆院議員の長崎3区だ。この2選挙区は「政治とカネ」の問題が絡んでいるだけに、自民党にとっては逆風必至。岸田首相も苦戦を強いられると見られる。残る1つは昨年11月に多臓器不全で亡くなった細田博之前衆院議長の島根1区だが、細田氏も生前にセクハラ問題や旧統一教会との関係を巡りさまざまな批判を受けたため、与党有利の弔い合戦になるとは言い難い。野党関係者は「自民党が3タテを食らう可能性も十分にある。そうなった場合、岸田首相が解散に臨むのは極めて難しくなるだろう」と話す。1月31日、衆議院本会議の代表質問では、立憲が泉代表に続く2人目に、長崎3区補選に立候補予定の山田勝彦氏を登壇させ、早くも4月補選に対して攻勢を仕掛けている。
山田勝彦氏(本人Facebookより)
果たして4月補選の行方は。そして、衆院解散総選挙はあるのか。いずれにしても、各選挙区の国民に問われるのは、これからの国政を誰に委ねるかという選択だ。裏金問題については、安倍派が2018年から2022年にかけての5年間で、6億7654万円ものパーティー収入が収支報告書に不記載だったことが発表されており、その一部が直近3年間では国会議員91人に裏金として還流されていたことが明らかになっている。だが、多くの議員は裏金の金額が“基準”である4000万円に満たなかったため、立件が見送られて罪に問われていない。こうした状況に対して国民はどのような審判を下すのか。政治のあり方が我々国民にも問われている。取材・文/宮原健太集英社オンライン編集部ニュース班