地域包括支援センターの3職種の人員配置基準が緩和か?自治体の運用が変わる可能性も

厚生労働省は、2023年12月に開催された社会保障審議会介護保険部会のなかで、地域包括支援センターの人員配置基準を緩和する案を示しました。
現行の制度では、主任ケアマネージャー、保健師、社会福祉士(3職種)を最低各1人配置することが義務づけられています。
3職種は、それぞれの自治体に在住する高齢者が3000~6000人ごとに最低限各1人ずつ配置しなければなりません。
しかし、近年はこうした有資格者を確保することが困難になっています。日本介護支援専門員協会の調査によると、主任ケアマネージャーの採用について、介護関連施設の68.1%が「困難になっている」と回答。その厳しさは年々増しているとも報告されています。
こうした現状を受け、厚労省では2022年から地域包括支援センターにおける人員配置基準の緩和について議論が進められ、2024年の介護報酬改定に向けて提案をしました。
この案によれば、各地域の実情に応じて、市内にある複数の地域包括支援センターで人材をやりくりして、配置を2職種のみにすることが可能になります。
例えば、市内に3つの地域包括支援センターがあれば、「3職種×3ヵ所=9人」といった柔軟な運用を認めるとしています。ただし、人材確保が困難な場合でも、1ヵ所について最低2職種を確保することは厳守を求める予定です。
地域包括支援センターは、政府が推進する地域包括ケアシステムの中心的役割を担う重要な機関です。その業務は次のように多岐にわたっています。
こうした支援サービスを継続的に提供するためには、行政機関や保健所、医療機関など多くの機関と連携しなければなりません。そのため、豊富な専門知識が必要になり、各分野の有資格者を配置しているのです。
いわば各機関への橋渡し役とも呼べる機関でもあるため、介護保険制度だけでなく各法令や制度にも対応する必要があります。少子高齢化が進展する今、その必要性は年々高まっています。
地域包括支援センターを設置するのは各市区町村ですが、運営については委託が認められています。
NTTデータ経営研究所の「地域包括支援センターにおける業務負担軽減に向けた取組に関する調査」によると、各市区町村が直営しているセンターは21.1%、委託しているセンターは78.5%。およそ8割が委託によって運営されています。
一方で、委託型センターについて、その委託料が不足しているという指摘があります。同調査によると、職員の人件費について受託している法人が持ち出しで支払っているケースが22~30%程度あることが明らかになっています。
つまり、市区町村が設定しているセンターの人員基準や委託料が、必要な人員配置を確保するうえで不十分な自治体が3割程度あると考えられます。
実際に直営センター職員の配置人数平均が合計9.5人なのに対し、委託センター職員の配置人数平均は6.9人と、低くなっています。
このようなセンターは、最低限の人員で運営しなければならず、3職種の確保だけで手いっぱいになっているとも考えられます。
地域包括支援センターへのアンケートで、約7割のセンターが介護予防ケアプランの作成業務が「過大になっている」と回答しています。
介護予防ケアプランとは、おもに要支援認定された高齢者を対象に、どのようなケアを提供していくかを決める計画書のようなものです。
地域包括支援センターの中心的な業務ではありますが、その作成については9割以上のセンターが、外部の居宅介護支援事業所に委託していることが明らかになっています。
介護予防ケアプランの外部委託は制度上で認められていますが、委託先となる居宅介護支援事業所の確保も難しくなっていることがわかっています。
上記のNTTデータ経営研究所の調査では、87.4%のセンターが委託先となる居宅介支援事業所の確保が困難だと回答。その理由として、「居宅介護支援事業所が多忙であるため(74.2%)」「事業所が委託料等の経済的理由で受託に積極的でないため(66.9%)」「地理的な課題があるため(17.5%)」が挙げられています。
そもそも居宅介支援事業所が不足し、ケアマネージャーの確保が困難になっており、そのうえで地域包括支援センターからの委託料が少ないとあれば、委託先を見つけるのが難しくなるのは当然です。
市区町村で柔軟な人員配置が可能になると、各市区町村で戦略的に人員を確保することができるようになります。
例えば、ある市の中で都市部にあるセンターA、山間部にあるセンターBがあったとしましょう。人員確保に比較的有利な都市部のセンターAではケアマネージャーを2人配置し、センターBには保健師と社会福祉士1人ずつ配置するといったことが可能になります。
つまり、市内の人員バランスを考慮して配置できるので、地理的条件などにも配慮することができるのです。
今回の緩和策の大きな目的は、人員確保の負担を軽減し、地域包括支援センターの柔軟な運営を実現することにあります。そのうえで日々の業務負担を軽減することも大切なポイントになります。
地域包括支援センターの業務のなかで、特に軽減効果が高いとされているのが専任事務員の配置です。
NTTデータ経営研究所の調査によれば、専任の事務職員を配置しているセンターでは、82.5%が業務負担の軽減を実感していると報告されています。特に、電話・来所対応(センター職員不在時の留守番対応、電話の一次受付など)、物品管理、データ入力、資料作成・印刷などで効果を感じているとしています。
一方で、事務職員の雇用に必要な費用を捻出できないセンターは5割を超えています。市区町村からの運営委託料が低いことなどが原因と考えられますが、今回の緩和策によって配置転換を行えば、事務職員を雇用する人事枠を開けることもできるでしょう。
地域包括支援センターは、超高齢化社会を迎えた現代において、適切な支援を届けるために必要不可欠な機関です。とはいえ人材不足はすぐに解決する問題ではありません。業務効率化とセットで対策して、効率の良い運営が求められます。
今後は、市区町村が業務効率化に向けた戦略的な運用ができるかがカギを握りそうです。