[社説]障がい事業所 休廃業 利用者への影響調査を

重い医療的ケアが必要な成人を受け入れる生活介護事業所の廃止や、新規受け入れの休止が名護市内で相次いでいる。
生活介護事業所は障害者自立支援法に基づく。常時介護を必要とする障がい者が通い、主に昼間、入浴や食事、排せつなどの介護を受ける。
社会福祉法人が2018年に開設した事業所は介護士の離職などで20年10月に休止。人材が集まらないまま21年9月に廃止となった。
別の社会福祉法人が運営する事業所も介護士や看護師不足を理由に、22年12月から新規受け入れを休止している。
背景にあるのは福祉現場で働く人材の慢性的な不足だ。それに新型コロナウイルス禍による負担増が拍車をかけた。
重度障がい者のケアは注意力と体力がいる仕事で、腰を痛めながら働く職員も少なくない。その上コロナ感染対策が必要となり、さらにきつくなった。
入所施設も運営している法人では、施設内の職員の感染や濃厚接触者の増加による欠勤を埋めるため、やむを得ず事業所から施設へ職員を派遣したこともあったという。
医療的ケアを必要とする成人を受け入れる生活介護事業所は少ない。県内では昨年4月1日時点で21カ所。そのうち本島北部は4カ所だった。
しかし現在、北部で実質的に稼働するのは、新規受け入れ休止中の事業所を含む2カ所だけだ。
必要としている人に、福祉サービスを提供できていない恐れがある。
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人材不足による障害者福祉事業の休廃業は全国でも増えている。2020年は過去最多の107件だった。

ほかの職に比べて低い賃金が要因となっており、岸田文雄政権は22年2月から9月まで、介護や保育、看護、障がい福祉で働く人たちの賃金を3%程度引き上げた。
22年10月からは、介護報酬や医療報酬の引き上げにより引き続き賃上げが維持されているとする。
しかし、折からの物価高の影響で光熱費などの諸経費が上がり、事業所や施設の運営は厳しい状況が続く。賃上げを維持するのであれば、さらなる報酬の引き上げが必要だ。
重い医療的ケアを実施する事業所が休廃業に追い込まれていることについては、重度の障がい者に手厚い支援体制を整えた場合に事業者への報酬が加算される「重度加算」が、実態に合っていないとの指摘もある。
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福祉職の専門性は高い。人間の体や、生活全般を介助するためさまざまな知識が求められる。携わる人の多くは使命感が強く、コロナ禍では特に医療や福祉の現場で働く人々の「頑張り」に社会が支えられた。
一方で、負担を抱えきれない事業所も出ている。県や自治体は、事業所の休廃業による福祉サービス利用者への影響を調査してほしい。
福祉職の賃金や報酬は法律で定められている。これを機に国も、制度の抜本的な見直しに着手すべきだ。