マツダのオープンカー「ロードスター」の取材をしていたら、開発陣から「走る温泉」なるワードが聞こえてきました。寒い日にロードスターの屋根を開けて走ると、暖房が効いて体はポカポカ、風が当たる頭はヒンヤリで、まるで温泉に入っているみたいという趣旨なのですが、ホントなのでしょうか? そもそも冬にオープンカーということ自体、あり得ないと思うのですが……。実際に乗って、開発責任者にお話を聞いてきました。
日本のオープンカーは冬が旬?
「ロードスター」はマツダが生産している人気のスポーツカーです。屋根を開けて走れるオープンカーで、馬車の幌(ホロ)のような布地の屋根が付いた「ソフトトップ」と金属の屋根が付いた「ハードトップ」があります。「ライトウェイトスポーツカー」というジャンルに属していて、車体の軽さをいかしたヒラヒラとした走りが多くの自動車ファンに愛されています。
なぜロードスターは「走る温泉」のようなクルマなのでしょうか。主査(開発責任者)を務めるマツダ 商品開発本部の齋藤茂樹さんはこう話します。
「冬の温泉は、頭は涼しいですが身体はポカポカですよね。ロードスターで、冬にオープンにして走ると、同じような状態になるんです。寒そうに思えるかもしれませんが、全身で真正面から風にあたるわけではないので、意外と暖かいんですよ。サイドウィンドウを上げていれば、さらにポカポカになります。オープンカーが好きな人からは、『日本のオープンカーの旬は冬!』と言われているんです」
オープンカーといえば、夏のまぶしい日差しを浴びながら海沿いを走る……というようなイメージが浮かんできますが、マツダの開発者に言わせると「オープンカーは冬が旬」だそうです。ちょっと行き過ぎ(?)なくらいのクルマ好きが集まる会社ですから、マツダの人が言うことを一般人が真に受けてはいけないような気もしますが……。
「だまされたと思って、ぜひ、やってみてください(笑)。逆に、真夏の昼間にオープンにしたら、日差しが強すぎて厳しいんです。一方で、冬は外気温が低いのもあり日差しが心地いいんですよ。コートを着て、マフラーをしてオープンで颯爽と走るのもおしゃれです」(齋藤さん)
とのことなので、ホントに冬のオープンカーは気持ちがいいのか、実際に乗って試してみることにしました。服装はシャツにセーターを重ね着してマフラーを巻くという、自分にとっては一般的な冬のスタイル(特に防寒対策に力を入れたわけでもない)です。慣れないマニュアルシフト(MT)車だったので、操作の邪魔になると困ると思って厚手のコートは脱いで運転席に乗り込みました。
なぜ冬でも寒くない? ロードスターの秘密
借りたのは幌の付いたソフトトップのロードスターです。この屋根、開閉は手動なのですが、開け閉めの作業は簡単。開けるときは車内(前席の頭上)にあるロックを外し、外に出て屋根を開け、「カチッ」というまで畳み込むだけです。
屋根を開けた状態でロードスターに乗っても、なぜそこまで寒くないのか。秘密は暖房の効き具合にあるようでした。まず、シート自体が温まる「シートヒーター」が付いていますし、エアコンは「AUTO」にして25度設定にしていたんですが、「ゴーッ!」という感じで温風が吹いてきて、運転中もしっかりと効いていました。屋根が開いているので車内全体が暖まるわけではありません。なのに寒くないという、不思議な体験でした。
「下と前から温風を出すと肩から下は温まりますが、顔は温まらないので、これが温泉のような状態で心地いいんです」と齋藤主査は話します。
温泉気分を高めてくれるのは、車内に入ってくる風です。高速で走ったらどうなのかはわかりませんが、横浜・みなとみらい周辺の一般道を法定速度内でドライブした感じだと、風は髪の毛と額にサラサラと当たるような感じで、寒風吹きすさぶといった雰囲気ではありません。確かに、体感としては冬の露天風呂のようだといってもいい気がします。
風の入り込み方は、マツダ技術陣がかなりこだわっている部分のようです。
「風が入りすぎると大変ですが、一方で、全く風が入ってこないというのもオープンカーらしくありません。そのいいバランスを見つけるため、試行錯誤を繰り返しながら開発しています。例えば、キャビンの後ろにある『エアロボード』という部品は、後ろからの風の巻き込みを低減させるためのものなのですが、風を完全に防ぐのではなく、形状や穴の数を試行錯誤しながら、ちょうどいい風の入り方を研究して作りこんでいます」(齋藤さん)
体はポカポカ、頭はヒンヤリで気持ちよく試乗できた冬のロードスター。久しぶりのMT車だったこともあり、ガソリンスタンド入り口の段差でエンストしたときはさすがに嫌な汗をかきましたが、それ以外は乗っていて気分がよく、「走る温泉」効果をしっかりと実感することができました。運転自体にもスポーツのような、体を温める効果があったような気がします。