〈浅草・資産家夫婦が4歳児毒殺で逮捕〉「お父さんに言いつけてやる」と言い放ったボンボン息子は杜撰なホテル経営。その妻は放火にネグレクト、子どもは児相へ。姉は謎の死を遂げていた…

昨年3月、当時4歳だった次女に車の不凍液などを摂取させて中毒死させたとして警視庁捜査1課と浅草署は2月14日、東京都台東区の会社役員、細谷健一(43)と妻の志保(37)の両容疑者を殺人容疑で逮捕した。健一容疑者は「関与していません」と容疑を否認、志保容疑者は黙秘しているという。夫婦は観光名所の浅草・雷門近くで「浅草ホテル旅籠」を経営して人気を博しており、地元では資産家として知られていた。
夫婦は共謀して昨年3月、自宅マンションで保育園児の次女、美輝ちゃん(当時4歳)に有害な化学物質を摂取させて死なせた疑い。美輝ちゃんは意識のない状態で自宅で倒れ、搬送先の病院で死亡が確認された。警視庁が遺体を詳しく調べたところ、向精神薬「オランザピン」や車のエンジンの凍結防止用不凍液に含まれる「エチレングリコール」が検出されていた。また、2018年には健一容疑者の姉も不審死を遂げていたことがわかり、警視庁が関連を調べている。
うなだれた様子で警察署に入る志保容疑者(撮影/集英社オンライン)
容疑が事実なら毒親、いや鬼畜夫婦としか言いようがない。14日午前、2人の任意同行を待つ浅草署は物々しい雰囲気に包まれた。通りを挟んだ同署の裏口にカメラを構えた報道陣約20人が待機する中、午前9時50分、志保容疑者を乗せた捜査車両が入ってきた。しかし、敷地内に入っても車から一向に降りてくる気配がなく、捜査員が「志保さん」と促しても、なかなか降りてこない。そのまま5分ほど経ち、別の捜査員が説得を試みるが不発。ここで署内から車イスが運ばれ、複数の女性捜査員に抱きかかえられるように、ようやく車イスに乗せられ、署内に入った。白のダウンジャケットを膝にかけた志保容疑者は、うなだれた様子で視線をくれることなく報道陣の前を通り過ぎた。
警察署に入る細谷容疑者(右) 撮影/集英社オンライン
続いて同10時21分、夫の健一容疑者を乗せた車が浅草警察署の裏口に入ってきた。妻とは対照的に特段ゴネる様子も見せず、捜査員に続いて車から降りてきた健一容疑者は短髪でメガネをかけ、カーキ色のダウンジャケットに紺色のズボンという服装。恰幅がよく、報道陣を一瞬、睨みつけるような素振りを見せたが、落ち着いた足取りで署内に消えた。
登記簿などによると、健一容疑者が経営していたホテルは鉄骨造陸屋根9階建てで2012年に新築、2020年には1フロアあたり約100平方メートル増築しており、延べ床面積は2倍強になっている。所有者の健一容疑者が代表取締役、志保容疑者が取締役を務める会社だ。同社は1979年に健一容疑者の父親が創業し、浅草の地場産業である皮革加工・販売を手がけていたという。また、事件現場となった10階建てのマンションは2002年に新築し、父親が所有していたが、6年前に健一容疑者が相続。その最上階で妻と美輝ちゃんを含めた3人の子どもたちと暮らしていた。
健一容疑者が保有していたビル兼自宅(撮影/集英社オンライン)
社会部デスクが解説する。「美輝ちゃんの死について警視庁は当初から事件性が濃厚と判断し、司法解剖の結果、中毒死と断定し内偵捜査を進めていた。すると、その過程で健一容疑者の姉も2018年に薬物中毒死とみられる変死を遂げていることがわかった。ちょうどこの年には健一容疑者の両親が相次いで亡くなり、健一容疑者がマンションを相続。同時に会社の代表取締役にも就任しており、警視庁は姉の死についても事件性を調べ直すことになったのです。また、志保容疑者は数年前に自宅に火をつけてボヤ騒ぎを起こしたり、美輝ちゃんが虐待を疑われて児童相談所に一時保護されていたことも判明しました」健一容疑者の経営していたホテルの従業員がこう証言する。「社長(健一容疑者)に子どもが3人がいたのは知っていますが、ふだんからご家庭の話はされなかったので、どんな生活をされていたのかは知りません。社長と最後に会ったのは1月だったと思います。社長は奥さんと経営するホテルに泊まり、警察の事情聴取を受けに行っていました。昨年末から今年の初めの頃の話で、2週間くらい、朝出て行って夕方帰ってくる生活でした、1日中、取り調べを受けていたのだと思います」美輝ちゃんが亡くなった後、残された子どもたちは新宿区内の児童養護施設に保護され、健一容疑者の指示で経営するホテルの従業員が、教科書や文房具を届けにいっていたという。
浅草警察署(撮影/集英社オンライン)
「事情聴取は1番下の子に関することだとしか聞いてなくて、最初はお子さんが亡くなったことも知りませんでした。社長は『事件のこととホテルの経営のことは関係ないんであんまり心配しなくていいよ』と従業員たちに言ってたし、毎日事情聴取に出かけていても様子は普通でしたね。3人の子どもは1番上が男の子で小学校の高学年、その下が女の子で、亡くなったのは末っ子だったと思います」(前同)
細谷家は地元でも有名な資産家で、昨今は経営するホテルも予約がとれないなどで事業は順調に見えたが、実際は恒常的に資金繰りに苦しんでいたという。取引先の関係者が続ける。「社長はあまりホテル経営には向いてない感じでした。資金繰りは厳しくて、最近も銀行や旅行会社の業者などから支払いの滞りがあるとホテルに電話がかかってきていました。売上的には問題ないはずですが、増築に金をかけ過ぎて借金がかさんだようです。あとは料金設定もおかしくて、同じ部屋なのに安いときは2000円、高いときは3万円といった感じでめちゃくちゃでした」
健一容疑者が経営していたホテル(撮影/集英社オンライン)
要するに経営感覚に乏しい放蕩息子だったということだろう。ホテルには子どもたちを連れてくることもあったという。「ホテルの備品を社長が届けに来るときに子どもが一緒のことがありました。3人全員だったり1人だけだったりバラバラでしたが、決して虐待とか叱りつけていたようなイメージはないです。普通のお父さんのように子どもたちと話していましたから。奥さんは本当に話したこともないのでよくわからないです。ホテルはずっと予約で埋まっているので、この先どうなるかは心配ですけどね……」健一容疑者の父親と長年付き合いがあったという男性は、こう肩を落とした。「先代とウチの親父が仲良くて、健一くんのことも知ってますよ。20年前にはイタリアに革の展示会に行ったのですが、そのときも顔を合わせています。おとなしいというか人見知りというか、典型的な2代目って感じでしたね。どこか父親を怖がっているようでもありました。当時は父親の会社の従業員として働いていて、その前は婦人靴の会社に勤めていましたがクビになってます。まぁ、あまり仕事ができるイメージではありませんでしたから。イタリアにいるときも、展示会の関係者が健一くんにとって気にくわないことを言ったのですが、『お父さんに言いつけてやる』と言ってました。20代半ばにもなろうかという大人が言うことではないわ、と内心呆れましたね。あとはイタリアのホテルとかって日本人なら慣れてないこともあって、4つ星とか5つ星のホテルに泊まることが多いのですが、健一くんだけがひとりで1つ星のホテルに泊まっていました。ケチなのか『お金がもったいない』とか言ってましたね。性格はおとなしいんですが、何があったのか…」健一容疑者の父親の別の友人によると、父親は健一容疑者と志保容疑者の結婚を“反対”していたという。
逮捕され自宅から出る志保容疑者(撮影/集英社オンライン)
「俺が親父さんから聞いていたのは、健一の嫁さんが子どもの面倒をまったく見ない母親だったってことだな。幼稚園や保育園の送り迎えも全部健一がやっていて、だから親父は健一に『子どもを引き取って奥さんとは別れろ』と言ったとも聞いていた。でも、別れなかったみたいだな。親父は血液の難病にかかって亡くなってしまったんだけど、他の人たちには何があったのか…」事件の全容解明が待たれる。
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