沖縄の宮古島と橋でつながる下地島空港が、将来的に防衛利用されるかどうかで大きく揺れています。軍用機も条件次第で発着できる宮古島のメイン空港である宮古空港ではなく、なぜ、あえて下地島空港なのでしょうか。
沖縄特有の青い海と機体との距離感などから、「航空機見学の聖地」とされる国内屈指の航空機撮影スポット「17エンド」をもち、かつては航空会社の訓練空港だった沖縄県の下地島空港が、将来的に防衛利用されるかどうかで大きく揺れています。下地島と橋でつながる宮古島には、自衛隊機も条件次第で発着できる宮古空港がありますが、こちらを使うことはできないのでしょうか。
沖縄防衛利用で揺れる「下地島空港」 軍用機も発着可な宮古空港…の画像はこちら >>離陸のため、滑走路に平行する誘導路をタキシングする那覇空港行きのスカイマークの737。後方の駐機場に機体はない(2023年2月、清水次郎撮影)。
2022年暮れに決定された安保3文書の改訂は、空港や公共インフラの整備が掲げられ、台湾有事や石垣市の尖閣諸島の防衛に備えようとしています。宮古空港と下地島空港は那覇基地より台湾に近く、戦略的に重要な場所に位置しています。
しかし沖縄県が管理する下地島空港の利用法は、本土復帰の前年の1971年、琉球政府時代と日本政府が交わした、「屋良覚書」に定められています。
この屋良覚書には、下地島空港の使用方法は沖縄県が決め、民間航空以外の目的で使用させないことなどが記されます。沖縄県の了解がなければ、下地島空港を自衛隊が使うことはできないのです。このため2022年12月、航空自衛隊のブルーインパルスが宮古島で展示飛行をした際も、宮古空港が使われました。
また、島の面積も宮古島の方が広く、下地島・伊良部島と宮古島の陸路は、伊良部大橋の1本のみ。仮に伊良部大橋が使えなくなった場合は、補給の面などでは狭い下地島の方が難はあるかもしれません。
そのうえ、宮古空港は今も届け出を出せば自衛隊機も発着できます。筆者が訪れた日は、地域交流イベントのために、青森県から雪を届けた海上自衛隊のP-3C哨戒機が駐機していました。
ただし、そういった状況下でも、防衛省が下地島空港を活用したがっているのには、空港設備上の理由も大きいでしょう。
宮古空港の滑走路の全長が2000mなのに対して、下地島空港は3000mあります。ジェット戦闘機や貨物を満載した輸送機には、滑走路の全長は3000mほどが必要です。沖縄県の空港の多くは、離島などを結ぶコミューター路線の就航を前提につくられたことから、滑走路が短いのです。対し、下地島空港は、航空会社の乗員がジェット旅客機の離着陸訓練に使っていたため、同県の空港では珍しい3000mの長さで整備されました。それが結果として、現在、戦闘機や輸送機の発着に好都合な要因になっています。
また、宮古空港と異なり、下地島空港は滑走路に平行した誘導路を備えています。そのため、離着陸のたびに都度、滑走路の端まで行き転回する必要のある宮古空港と比べ、下地島空港は、発着機が滑走路を占有する時間は短くなります。こうしたことも編隊で行動するジェット戦闘機の運用に向いています。
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宮古空港でJTAのボーイング737の後ろを進む海上自衛隊のP-3C(2023年2月、清水次郎撮影)。
下地島空港の利用について、合併前の旧伊良部町の町議会は自衛隊の訓練の誘致決議を可決したことがありますが、後に撤回しています。これは、町民の反発や米軍の利用が警戒されたということです。
しかし現在、航空会社の訓練はシミュレーターが活用されるようになり、以前の訓練空港時代と比べると、下地島空港の便数は少なく静かになっています。しかし、沖縄県自体の観光人気も高いほか、軍事利用はこの地域の緊張を高めることになるとして、沖縄県は同空港を民間利用に徹していきたい考えです。
一方、2023年2月に米国内の気球撃墜で明らかになったように、中国は他国に軍事力を利用したプレッシャーをかけており、台湾有事の懸念は拭いきれません。日本を取り巻く安全保障環境が好転しない限り、下地島空港の利用は国と沖縄県、地元自治体にとって課題であり続けるでしょう。