〈受刑者“さん付け”問題〉田代まさし「20歳も年下の刑務官を『先生』と呼ばされるのはずっと疑問だった」計8年の塀の中暮らしで受けた理不尽な仕打ちの数々を暴露

法務省は、今年4月から刑務官が刑務所などに収容される受刑者を「さん付け」で呼ぶことを発表した。賛否が渦巻くなか、実際に服役経験のある元タレントの田代まさしは何を思うのか。
2000年、盗撮による東京都迷惑防止条例違反での書類送検にはじまり、道路交通法違反や覚せい剤取締法違反容疑、大麻取締法違反などで3度の書類送検、5度の逮捕をされている田代まさし。2005年、2011年、2020年の逮捕ではそれぞれ刑務所に収監されており、計8年ほどを塀の中で過ごしている。その経験から、刑務官との関わりも深いであろう田代に、件の「さん付け」問題について話を聞くため、筆者は東京駅構内の地下グルメ街にある甘味喫茶「みはし」東京駅一番街店へと赴いた。「オレ、『みはし』のあんみつは芝浦工業大学工業高校に通ってたときから食べてるの。ここじゃなくて上野本店ね。両親は離婚してて、南浦和に住んでる父親に京浜東北線に乗って会いに行った帰りは必ず寄ってさ。青春の味なんです」
思い出のあんみつを食べる田代まさし(撮影/集英社オンライン)
と、おいしそうに白玉あんみつをほおばる田代。あんみつのような甘い人生どころか、苦渋に満ちた後半生を歩んでいる田代は、受刑者への「さん付け」問題について、こう持論を呈す。「さん付けは……少し違和感があるかもしれない。ある程度、刑務官にも威厳が大事だと思うしね。それよりも、受刑者のことを『お前』って呼ぶ刑務官があまりに多いから、名前で呼ぶことを徹底してほしいとは思ってたよ。それだけで、受刑者の刑務官への反発はだいぶなくなると思うんだよ」今回、「さん付け」と同時に、これまで受刑者から刑務官を呼ぶ際につかっていた「先生」という呼称も、上下関係を生みやすいとして廃止される。今後は「担当さん」や「職員さん」と呼ぶことになっているが、話がこの件に及ぶと、田代はやや複雑な表情となった。
「なんで60代の俺が、10歳も20歳も年下の刑務官を『先生』なんて呼ばなきゃいけないんだって、ずっと疑問に思ってたんだよ! 人生についてどうこう教わるわけでもないのにさ。だから、『先生』が『担当さん』や『職員さん』に変わることは賛成だね」そもそも、田代は服役中、元タレントで目立つこともあり、刑務官から理不尽なことでよく怒られていたそうだ。「ある朝、刑務所から作業場へ向かう行進で前の人につられて列からズレちゃったら、俺だけ名指しで『おい、お前! 列から外れてひとりで行進しろ!』って言われてさ。雪の中、20分間もひとりで行進させられたことがありましたね」またある日、ダルク(薬物依存症のリハビリ施設)の担当スタッフとの手紙のやりとりについてもお叱りを受けたという。
田代まさし(@marcys.official)がシェアした投稿
「定期的に開催される受刑者同士の綱引き大会について、『お縄になった僕たちが綱を引くってどうなんでしょう』と冗談を書いたら、刑務官が『刑務所にいるのにこんなふざけた文章を書くとはどういうつもりだ!』って。ダルクの方が『いつもの田代さんが戻ってきましたね』って返事をくれてるのにさ。そのことを言うと『口答えするな! お前はこんな規律さえ守れないから事件を起こすんだ』ですよ……」また、刑務所の謎ルールに首を傾げることも多かった。「俺、老眼になっちゃってるからメガネがないと全然見えないんですよ。だから、このうっすらブルーの偏光レンズが入った老眼鏡を使ってたんだけど、3度目の収監先である福島刑務所の刑務官は『サングラスだから許可できない』って言うんです。福島刑務所に移る前に入ってた宮城刑務所は大丈夫だったのに『ここでは色の入ったレンズは許可できない』の一点張り。妻に代わりのメガネを持ってきてもらうまで何も見えなかった。メガネすら貸してもくれないのに、重要な書類を渡されて『読め!』っていうから、『読めない』と答えると『顔を近づければいいだろ!』って。あのねえ、老眼は目を離さないと見えないんだよ……そんな説明する気も失せましたが」
さらに、点呼でも意味のわからない慣習があった。「毎朝の点呼では『4』は『ヨン』ではなく『シ』、『7はシチ』、『9はク』と言う決まりがあって、間違えるとやり直し。緊張からか何度も失敗する人がいると『何回言えばわかんだコラ!』と罵声が飛んでくる。『この刑務所にはヨン、ナナ、キュウという言葉はない!』って言ってたのに、その刑務官が電話で『はい、第ヨン工場です』って言うんだよ(笑)。そんなコントのような展開でもツッコむのは頭の中だけ。刑務官には逆らえないからね……」しかし、そのような態度をしてしまう刑務官の心理についても、一定の理解を示す。「刑務官も受刑者とほとんど同じ生活をするんですよ。宿直用の部屋に泊まって朝早く起きて、刑務所独特の閉鎖的なジメジメした空間で罪を犯したわけでもないのに罪人たちと同じリズムで一日を過ごす。そりゃイライラするし、ストレスも溜まるでしょう。刑務官の自死ってけっこう多いみたいですしね。そのストレスを受刑者に向けて発散しようってのはあると思うんです」
(撮影/集英社オンライン)
名古屋刑務所で昨年9月に発覚した刑務官による受刑者への暴行事件も、これらが要因の一端なのではと田代は推察する。「だからこそ……」と田代は続ける。「刑務官の定期的な面談や診察、検査、ストレスチェックをしてほしい。それだけじゃなく、受刑者への指導に関する行動観察なども大事だと思います」後編では、服役中の一番辛かった出来事と、田代の現在の生活について聞いた。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班