〈政倫審・野田VS岸田〉「総理の指導力の問題だ」野田元首相の口撃に岸田首相が豹変。安倍元首相が乗り移ったかのような“民主党ディス”を繰り出すも…

2月29日午後に開かれた政治倫理審査会(政倫審)。過去にはロッキード事件や日歯連ヤミ献金事件など、「政治とカネ」にまつわる数々の問題をめぐって開かれてきた「審判の場」に現役首相として初めて岸田文雄首相が出席した。
「自民党の派閥の政治資金問題をめぐり、国民のみなさまに大きな疑念を招き、そして政治不信を引き起こしていることに対して、自民党総裁として心からお詫び申し上げる」岸田首相は冒頭、謝罪の言葉を連ねた。幕末の志士、吉田松陰が遺したとされる、「志を継ぐ者がいれば、まいた種は絶えない」という意味を示す、「後来の種子、いまだ絶えず」との言葉も引用して政治不信の払拭に向ける意欲を示した。テレビカメラによる中継も入る「マスコミフルオープン」の形式で行われた政倫審で 、反省姿勢をアピールした格好だが、肝心の答弁の中身はスカスカだった。これまでの国会での答弁を超える踏み込んだ発言はなく、野党が狙った「新事実」が明らかになることもなかった。記者団から感想を問われた立憲民主党の泉健太代表が、「岸田総理の出席は無意味だった」と酷評するなど、国民の怒りを鎮めるにはほど遠い内容となった。
政倫審に出席した岸田文雄首相(写真/共同通信社)
政倫審では、当選同期でもある立憲民主党の野田佳彦元首相から厳しく追及を受けた岸田首相だったが、様相が一変したのは、「宰相」としての資質を問われたときだった。野田氏は、首相が「安倍派五人衆」ら野党から政倫審への出席を求められていた議員に出席を命じることなく、自らが政倫審に出席したことに「強烈な違和感を覚える」とバッサリ。「後手に回って的外れな対応をしなければいけない事態になった。総理の指導力の問題だ」と厳しく指摘した。この指摘にむっとしたような表情を浮かべた岸田首相は、すかさず挙手し、次のように反論した。「政倫審の規則の中で、本人の意思を尊重するとある。出席、形式についても本人の意思を尊重すると明記されている。私はそのことを申し上げ続けてきた」そして、さらに語気を強めてこう続けた。「だから例えば、御党のルーツである政党の元党首も政倫審に招かれた際に出席しなかった。こういった歴史があった」
ここで岸田首相が持ち出した「歴史」とは、民主党政権時代の2009年7月に開かれた政倫審のことを指す。当時の首相である鳩山由紀夫氏の資金管理団体の政治資金収支報告書に個人からの献金が記載されていることが発覚。政治資金規正法違反となる「虚偽記載」との指摘を受けたことで開かれたものだ。鳩山氏は当時、政倫審への出席を見合わせており、この件を岸田首相は揶揄した形だ。言うまでもなく、野田氏は旧民主党の所属であり、同党が政権与党にあった時代に首相を務めた。岸田首相は「人のことを言えるのか」とばかりにチクリとやり返したわけである。まるで、「悪夢の民主党政権」のフレーズを広め、民主党政権のネガティブキャンペーンを繰り広げて権力基盤を固めた安倍晋三元首相を彷彿とさせる“反撃”を見せた岸田首相は、さらにこう付け加えた。
野田佳彦元首相(本人Facebookより)
「私はそれを決して非難しているわけではなくて、政倫審というのはそういうルールに基づいて行われるものだという風に認識をしてきた。このように思っている」その後も、安倍元首相の亡霊が乗り移ったかのような「民主党ディス」を用いた反撃は続いた。野田氏から岸田首相自身が、首相就任後も続けていた「勉強会」と称する事実上の集金パーティーについてとがめられた場面。野田氏は「法令上パーティーだ。そのパーティーを開いて勉強会と言い換えるようなやり方はごまかしだ」と指摘し、大臣規範に反すると岸田首相の政治姿勢をただした。岸田首相は、「従来から答弁させていただいているように、総理就任前から続けている勉強会を引き続き、継続するというものだ」「大臣規範に対する政府の解釈だが、これについては、国民の疑念を招かない、これは各国務大臣が判断するというのが、従来の政府の答弁であった」と反論した上で、今度は野田氏にこうぶつけたのである。
「歴代内閣においてもそういった考え方に基づいて、各大臣はそれぞれの政治資金パーティーについて取り扱っていると承知している。野田内閣の際も、何人かの大臣がこの政治資金パーティーを開催しているが、その際にそれぞれの大臣が『従来から続けていたものである』とか、『大臣規範にはふれるものではない』と、そういった説明を行いながらそうしたパーティーを開催していると承知している。要は大事なのは説明であると思う」野田氏は、この反撃をスルーしつつ、「大臣規範には反しないというが、内閣総理大臣としての心の中の規範はないのか」と迫った。さらに、「内閣総理大臣としては政治資金パーティーはやらないと明言できないか」と畳みかけ、岸田首相から「在任中はやることはない」との答弁を引き出している。やり取りの一部始終を見ていた政治部記者はこう振り返る。
「野田さんが首相の“口撃”をかわして的確に問題をついた印象です。国会答弁には定評のある野田さんが一枚上手だったと見るべきでしょう。驚いたのは、首相が『民主党批判』を繰り広げたことです。これまで『聞く力』を強調し、融和姿勢を全面に出して攻撃的な『安倍カラー』を排除してきた首相としては珍しい場面でした。逆に言えば、そうした禁じ手を出さざるを得ないほどに追い込まれているともいえるでしょう」政倫審へのサプライズ登壇で、意外な顔を見せた岸田首相。「窮鼠猫を噛む」の心境だったのか、それとも隠していた攻撃性が露呈したのか…。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班