札幌・すすきの首切断事件の実行役で現在「殺人・死体損壊・死体領得・死体遺棄」の罪に問われている田村瑠奈被告(30)。瑠奈被告とともに殺人ほう助の罪などで父親の田村修被告(60)と、死体損壊ほう助の罪などで母親の田村浩子被告(61)が起訴された。世間を震撼させた衝撃的な事件の解明は法廷に舞台を移すことになるが、その一方、今も事件の影響で苦しむ人たちがいる。瑠奈被告の祖父と、“現場”となったホテルの関係者に話を聞いた。
刑事責任能力の有無の判断のために行なった親子3人の鑑定留置は、異例ともいえる長さの半年間に及んだ末、札幌地検は「罪を立証するだけの証拠が集まった」と親子3人を起訴した。これについては#11でも詳報している。親子3人を一番よく知るであろう瑠奈被告の祖父に今の心境について尋ねた。「(起訴されたことについて)何も感じない。もう、あとは裁判に任せる。裁判で本人たちが話すのを待つだけだ。どんな判決が出るかはわからんが、判決が出たあと支えるとしたら、もう俺しかいないとは思ってる。もちろん俺は修の親だし、育てたんだからそりゃ小さい頃から知ってるんだけどもさ。瑠奈のことだってよく知ってる。けど、俺が今さら何か言っても始まらんし、何も答えるつもりはない」
田村瑠奈被告(知人提供)
事件から8ヵ月、ようやく事件も進展したが、初公判までは長期化する可能性もあるという。社会部記者が語る。「瑠奈被告と修被告は裁判員裁判での審理になりますので、公判前整理手続きが必須となります。また、修、浩子両被告は否認していることもあり、初公判まで1年以上かかる可能性もあります」Aさんが殺害され、首を切断された現場である、すすきの地区のホテルは事件が発生した昨年7月2日以降、今も“対応”に追われている。第一発見者の従業員(♯2参照)をはじめ、ホテル関係者は何度も捜査に協力してきた。7月24日にホテルの営業が再開したことは♯6でも報じたが、営業再開から7カ月、客足は戻らず、部屋の改装もできていない状態だという。ホテルの施設管理者が肩を落とした。
事件当時のホテルと捜査員たち(撮影/集英社オンライン)
「今でも事件の起きた2階の部屋は使用しておりません。2階には全部で2部屋ありますが、両方とも使用しておらず、エレベーターも停まらないようにしています。事件のあった部屋はまだ特殊清掃をしただけで、これから浴室や壁紙も含めすべて修繕をしようとしています。浴室はリフォームというよりは丸ごと取り替えようと思っていまして、現在、業者と打ち合わせしています」
ホテルの部屋は全部で14部屋。そのうちの2部屋が使用できず、売り上げにもかなりの負担になっている。さらに追い打ちをかけるように人手不足も重なってきているという。「もともと8人の従業員がいましたが、2人を残して全員辞めました。事件がすべての原因ではないかもしれませんが、同じ条件で働けるなら、わざわざ殺人事件のあったホテルで働きたくないという思いがあるようです。遺体を発見した第一発見者の方はずっと働いてくれていたのですが、その後、別の理由で退職しました。やはり、ああいった事件があったので募集をかけてもスタッフが集まらないですね。今はスタッフが3人とか4人しかいないので、一般的にホテルではありえないのですが、定休日を作って週に2日はお休みにしています。もう人が足りなくて回らないんですよ」
現場となった部屋(ホテルHPより)
営業体制が万全ではないということに加え、事件後は客足そのものも減ってしまっているという。「警察からも起訴するまでは部屋はずっと開けないでくれとお願いされていました。『現場を保持したい』ということでしたが、うちは部屋も少ないので死活問題になるから早く開けさせてくださいと言い続けていました。結局、僕らが現場となった部屋に立ち入れたのは11月頃でした。浴室のタイルに血の跡が黒ずんでいるようなところが数か所ありましたが、それ以外は以前の部屋となんら変わりはありませんでした」11月以降、事件のあった部屋の修繕に動き出したというが、当時の様子をこう振り返る。「まず部屋に入れるようになってから神主さんに来ていただいてお祓いをしていただきました。賃貸マンションでも自殺された方などいた場合、オーナーさんが一度部屋を清めるというのはよくあって。その後に特殊清掃業者に入ってもらいました。立地も悪くない場所ですし、年月が経てばお客さんが戻ってくれるんじゃないかって願望はあります。事件後は『事件のあった部屋はもう泊まれますか?』という問い合わせの電話が定期的にかかってきています。怖いもの見たさなのかもしれないですし、SNSなどにあげるつもりなのかもしれません。時代を考えると仕方のないことかもしれませんが、本音で言えばそっとしておいてほしいんですけどね」北海道随一の繁華街、すすきので起きた事件の爪痕はいまだに深いままだ。
田村一家が暮らしていた自宅(撮影/集英社オンライン)