[社説]芸術従事者の実態調査 業界の人権意識を問う

文化芸術に関わる人材(アートワーカー)が、不当に低い報酬やハラスメントに苦しんでいる実態が浮き彫りになった。
フリーランスで活動する人は契約でも不利な状況に置かれ、もはや個人での対応は厳しい。官民を挙げた環境整備が必要だ。
那覇文化芸術劇場なはーとが、県出身や沖縄を拠点に活動するアートワーカーを対象に実施したアンケート結果を公表した。
今年1~2月、「仕事と収入」「契約」「ハラスメント」の三つのテーマについてオンラインで質問。音楽、美術、演劇、写真、伝統芸能などさまざまな分野の117人が回答した。
特に深刻なのがハラスメントだ。「これまでにハラスメント行為をされた、あるいは見たことがある」との回答は80%に上った。
最も多かったのは脅迫や暴言などの「精神的な攻撃」。無視や過大な要求、性的嫌がらせなどが続く。
指導など技術の伝達や、事業の受発注などの現場でハラスメントが横行している。「レイプされた」との回答も複数あり大変な問題だ。
ハラスメントの行為者は「上司・先輩・マネジャー」との回答が35人で最多。「監督・演出家・スタッフ」「教員」が各30人で並び、いずれも立場が上の人から受けていることが分かる。
一方、所属する会社や自治体などの相談窓口を利用したのは数人にとどまった。
地域の文化芸術という狭い人間関係で被害を訴える難しさの表れだ。人権感覚が問われる。
■ ■
こうした立場の弱さは収入面にも影響を与えている。
仕事上のトラブルで最も多かった回答は「不当に低い報酬額」(41人)だった。「支払いの遅延」「一方的な仕事内容の変更」「報酬の不払いや過小払い」が続く。
発注者との権力のアンバランスが背景にある。
まずは「口約束で確認を取る」といったあいまいな契約を書面に変更するなど、受発注者が共に契約の在り方を見直す必要があるだろう。
アーティストの労働環境を巡っては2021年に現代美術作家らが全国の美術や演劇、映像に関わる人たちを対象にしたウェブ調査の結果を公表。そこでも深刻なハラスメントや低い報酬、過重労働などが明らかになった。
全国で起きている構造的な問題だ。公的な対策を視野に国や県も詳細な実態把握を検討すべきだ。
■ ■
厳しい指導や教育に耐えて技術を磨く-。そうした特有の慣習を背景に、世界でもハラスメントなどがのさばってきた。米俳優の性被害告白を機に次々と当事者が声を上げた「#MeToo」運動は記憶に新しい。
沖縄にとって文化芸術は戦後復興のよりどころとなってきた。独自の伝統文化は、地域を支える重要な役目も担っている。
次代に継承するためにも文化の担い手たちが不当な扱いを受ける現状を変える取り組みが必要だ。