吉本興業前会長の大﨑洋氏、大阪・関西万博は世界の課題を解決する出会いの場になって欲しい

大阪・夢洲(ゆめしま)で開催される2025年大阪・関西万博(来年4月13日~10月13日)の開幕まで、13日であと1年となった。費用高騰など逆風が吹く中、会期184日間を多彩に盛り上げるイベントの骨子は固まった。吉本興業前会長で、催事検討会議共同座長を務める大﨑洋氏(70)はスポーツ報知の単独インタビューで「お祭り」「共創」をキーワードに掲げ、「地球上の課題を解決する出会いの場に。それがレガシー(遺産)になる」と期待した。(筒井 政也、中村 卓)
70年大阪から55年、05年愛知から20年を経ての国内での万博開催が、残り1年と迫った。会場整備費は物価高の影響もあって1250億円(18年計画)から2350億円、運営費も809億円から1160億円へと上振れ。世間には逆風ムードが根強く漂うが、今月9日の外国特派員向け会見で協会側は161か国・地域の参加表明があり、パビリオンのうち協会建設の「タイプB・C」は約100か国・地域が7月頃に完成、会場シンボル「木のリング」は完成まであと2割と、着々と準備が進んでいると説明した。
大﨑氏(以下同)「予算オーバー、インフラの遅れはもちろんダメなんですが、お叱りを受けながらもやり切って、その後につなげる。『やめます』という選択肢はないですしね。6か月間、世界中の人が大阪に集まって出会い、いろんな社会課題を解決するための機運というか、共に創る『共創』という新しいレガシーをつくれれば、万博をやる意味になると思います」
パビリオン建設などの「ハード」は始動が遅れたが、「ソフト」の一部となるイベントは一般参加ですでに514件、公式参加国からも370件もの応募があり、多数の企画を提示する国々もある。
「今やキャパオーバーで、調整に、ありがたい悲鳴を上げていますよ。日本以外は盛り上がっているのかな?(苦笑)」
検討会議では日本の幅広い文化から英知が結集し、「多様性」を形にする議論を重ねている。
「催事で表現するとなると、広義での『お祭り』がキーワードとして出てきました。世界中どこにでもあって、老いも若きも全員参加できるもの。メタバース(ネット上の仮想空間)なら、ハンデキャップがあって現地まで行けない方も接することができますから」
9日に発表された催事では、踊りを通じて世界との交流を図る「にっぽんど真ん中祭り」(8月2、3日)のほか、徳島の阿波踊りや高知・よさこい祭りもラインナップされた。協会自体が企画する催事では、日没後に毎日実施される映像ショー「One World, One Planet.(仮称)」に水上ショー「アオと夜の虹のパレード」が決定。「機動戦士ガンダム」の民間パビリオンなど、「クールジャパン」の発信も注目される。
「柔道、生け花、漫画、すなわち伝統芸能にポップカルチャー…。日本のすごさは『全部が混ざっていること』だと思うんです。世界でも唯一無二。これを世界中のユーチューバーが体験してSNSで発信してくれれば、あっという間に世界の若者世代にもつながります。70年万博も最初は人気がなかったんですってね。それが、だんだん右肩上がりで大成功となった。今回は最初から、ちゃんと(成功と)行きたいですけども」
6400万人以上が来場した70年万博当時の自身は、今ならデジタルネイティブの17歳。多くの日本人にとっては、当時の呼称である「ガイジン(外国人)」すら、初めて目の当たりにする機会だった。
「見るもの聞くもの、すべて未知でしたが、『人間洗濯機』は後に介護に貢献。老人、障がい者に役立つ『動く歩道』は、今やどこにでもあります。時間が経って、問題解決につながった訳ですよね」
次期万博の会場は終了後は更地化して新たな都市開発が進められる流れだが、「木のリング」の一部保存案も浮上。70年万博の象徴「太陽の塔」も当初は取り壊される予定だったが、今も現地に残る。令和の万博で、後世につながるレガシーは何だろうか。
「フランスから来た家族が、日本のおばあちゃんと翻訳機を使ってしゃべって、帰国した後もつながったり。想像もできない夢のような出会いが、いっぱいあるんじゃないでしょうか。紛争、自然災害、貧困、差別…。地球上の課題を解決するスタートの場にするのが、万博をやる意味になる。終わった後の方が楽しみというか。一筋縄ではいかないし、長い年数がかかるかもしれませんが、持続可能性を担保するために、笑顔で楽しんでやっていきたいですね」
〇…昨年6月の吉本興業退社から約9か月。芸能界や放送局で築いた人脈とは全く無縁の世界で、大﨑氏は充実の日々を送っている。「45年サラリーマンをして、いろんな方と知り合ったけど、そこをゼロにして。新しい人との出会いばかりで濃密」。大阪滞在中はなじみの銭湯などへ足を運び、のんびりとした時間を過ごす。「ボーッとする時間も大事。効率的、合理的の物差しだけではエラい目に遭う」というのが信条だ。お笑いもその感覚の象徴だが、古巣の劇場鑑賞は「お金を払って見に行くのもシャクやしなあ…」と一線を引いている様子だ。
◆大﨑 洋(おおさき・ひろし)1953年7月28日、大阪・堺市生まれ。70歳。関西大卒業後の78年に吉本興業に入社し、同社の東京進出の先陣を切る。86年に「心斎橋筋2丁目劇場」(大阪)をプロデュースし、ダウンタウンら人気芸人を育成。01年から取締役、09年から社長、19年から会長を務め、沖縄国際映画祭、47都道府県「住みます芸人」などの地方創生事業に尽力する。昨年6月29日に吉本興業を退社。大阪・関西万博催事検討会議の共同座長のほか、社会貢献を目的とする一般社団法人「mother ha.ha」の代表理事を務める。