介護福祉士の未来を変えるキャリアアップ 専門性向上と活躍の場を広げるための方法とは

介護福祉士は、高齢者や障がい者の日常生活を支援する専門職であり、介護業界の中核を担う存在です。2021年9月時点で介護福祉士は約181万人で、年々増加しています。
しかし、少子高齢化の進展や社会情勢の変化により、介護業界を取り巻く環境は大きく変化しており、介護福祉士にはさらなるスキルアップが求められています。
内閣府の予測によると、2025年には65歳以上の高齢者が約3,677万人、総人口の30%に達する見込みです。また、厚生労働省は2040年には高齢者の5人に1人が認知症になると推計しています。
こうした中、認知症ケアや医療的ケアなど、より専門性の高いケアへのニーズが高まっています。
一方で、介護職員の離職率は他産業に比べて高い傾向にあります。離職の理由としては、「職場の人間関係」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方」「自分の将来の見込みが立たない」などが挙げられています。
こうした状況の中、介護福祉士がキャリアアップし、専門性を高めることは、利用者により質の高いサービスを提供するだけでなく、自身のやりがいや働きがいを高め、離職防止にもつながります。また、介護福祉士の社会的地位の向上や処遇改善にも寄与すると考えられます。
介護福祉士からステップアップできる代表的な上位資格として、認定介護福祉士や社会福祉士などがあります。これらの資格を取得することで、より専門的な知識とスキルを身につけ、キャリアアップを図ることができます。
認定介護福祉士になるには、介護福祉士の資格を取得後、5年以上の実務経験を積み、日本介護福祉士会が実施する認定介護福祉士認定審査に合格する必要があります。
認定介護福祉士には、チームケアのリーダー的存在として、他職種との連携や後進の指導・育成、認知症ケアや医療的ケアなどの専門的なケアの提供などが期待されています。
なお、認定介護福祉士の役割は多岐にわたります。例えば、認知症ケアの場面では、認知症の人の行動・心理症状(BPSD)に適切に対応し、その人らしさを尊重したケアを提供することが求められます。また、医療的ケアの場面では、喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアを安全かつ適切に実施することが期待されます。
さらに、チームケアの場面では、多職種とのコミュニケーションを円滑に行い、利用者の状態に応じた適切なケアプランを立案・実行することが求められます。
認定介護福祉士は、こうした高度な専門性を発揮することで、利用者の尊厳を守り、その人らしい生活の実現を支援することができます。また、介護現場のロールモデルとして、後進の指導・育成にも尽力することが期待されています。
認定介護福祉士の存在は、介護の質の向上と介護福祉士の地位向上に大きく寄与すると言えるでしょう。
社会福祉士になるには、国家試験に合格する必要があります。ただし、介護福祉士の資格を持っていれば、実務経験が一定期間認められ、受験資格を得られます。
社会福祉士は、相談援助を行う専門職として、地域包括支援センターや病院、施設などで幅広く活躍しています。虐待防止や権利擁護、退院支援、地域づくりなど、高齢者や障害者の生活を多角的にサポートする役割を担っています。
また、利用者やその家族との信頼関係を構築し、その思いに寄り添いながら、さまざまな社会資源を活用して問題解決を図ります。
例えば、虐待のケースでは、関係機関と連携して適切な保護の措置を講じたり、家族への支援を行ったりします。また、退院支援の場面では、利用者の心身の状況や生活環境をアセスメントし、在宅での生活が継続できるよう、必要なサービスの調整を行います。
介護福祉士が認定介護福祉士や社会福祉士の資格を取得することは、利用者により質の高いサービスを提供するためにも、自身のキャリアアップのためにも、非常に意義のあることと言えるでしょう。
上位資格の取得によって、介護福祉士は、自信とプライドを持って、より良いケアの実現に向けて専門性を発揮することができるのです。
介護福祉士がキャリアアップするためには、認知症ケアや医療的ケア、リハビリテーションなど、専門分野の知識と技術を習得することも重要です。こうした専門的なスキルを身につけることで、より質の高いケアを提供できるようになります。
認知症介護実践者研修は、2020年度で約30万人が修了しています。
この研修では、認知症ケアの理念や原則、アセスメントの方法、チームアプローチなどを学びます。修了者は、認知症の人の尊厳を守り、その人らしさを大切にしながら、適切なケアを提供することが求められます。
さらに、認知症介護実践リーダー研修を経て、認知症介護指導者を目指すこともできます。
認知症ケアの現場では、認知症の人の行動・心理症状(BPSD)への対応が大きな課題となっています。BPSDとは、認知症の人が示す、徘徊、暴言、暴力、不潔行為など、周囲の人を困らせる行動や、妄想、幻覚、不安、抑うつなどの心理症状のことを指します。介護福祉士には、こうしたBPSDの背景にある認知症の人の思いを理解し、その人らしさを尊重しながら、適切な対応を行うことが求められます。
例えば、徘徊のケースでは、認知症の人が徘徊する理由を探り、安全に歩ける環境を整えたり、一緒に散歩に出かけたりするなどの対応が考えられます。また、暴言や暴力のケースでは、認知症の人の不安や恐れを受け止め、安心感を与えるような声かけや対応を心がけることが大切です。
認知症介護実践者研修で学んだ知識とスキルを活かし、認知症の人の尊厳を守るケアを実践していくことが期待されています。
喀痰吸引等研修は、2020年度で約54万人が修了しています(厚生労働省)。
この研修を修了すると、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを実施できるようになります。医療的ケアのニーズが高まる中、喀痰吸引等研修を修了した介護福祉士は、専門性の高いケアを提供できる人材として注目されています。
特に、重度の要介護者や障がい者に対するケアの場面で、その力を発揮するでしょう。
医療的ケアを必要とする利用者は、呼吸器や胃ろう、腸ろうなどを使用していることが少なくありません。こうした利用者に対して、適切な医療的ケアを提供するためには、高度な知識とスキルが求められます。
例えば、たんの吸引の場面では、利用者の呼吸状態を的確にアセスメントし、適切なタイミングと手技で吸引を行うことが重要です。また、経管栄養の場面では、チューブの挿入状態や固定状態を確認し、注入する栄養剤の種類や量、スピードなどを利用者の状態に合わせて調整することが求められます。
喀痰吸引等研修を修了した介護福祉士は、医療職とも連携しながら、利用者の状態に応じた適切な医療的ケアを提供することができます。医療的ケアの提供を通じて、重度の要介護者や障害者の生活の質を高め、尊厳ある生活を支えることが期待されているのです。
このほか、褥瘡予防ケアや口腔ケア、リハビリテーションなど、様々な専門分野の研修が用意されています。介護福祉士は、自身の関心や強みに合わせて、これらの研修を積極的に受講し、専門的なスキルを磨いていくことが重要です。
専門的な知識と技術を習得することで、利用者のニーズに的確に応え、質の高いケアを提供することができるようになるでしょう。
介護職員のキャリアアップを支援する研修も各地で実施されています。これらの研修を活用することで、介護福祉士は自身のキャリアビジョンを明確にし、目標に向かって着実にステップアップすることができます。
キャリア段位制度は、介護職員の能力を評価し、キャリアアップを図る仕組みです。2021年3月末時点で、約19万人が対象となっています(厚生労働省)。
キャリア段位制度では、介護職員のスキルを「レベル1」から「レベル4」までの4段階で評価します。評価結果に基づき、介護職員は自身の強みと弱みを把握し、より高いレベルを目指して研鑽を積むことができます。
評価項目は多岐にわたり、「基本介護技術」の分野では、食事介助や入浴介助、排泄介助などの基本的な介護技術、「利用者視点での評価」の分野では、利用者とのコミュニケーションスキルや、介護過程の展開、事故防止対策など、「地域包括ケアの評価」の分野では、地域の社会資源との連携や、多職種協働のスキルなどが評価されます。
介護福祉士は、この評価項目を参考にしながら、自身のスキルアップの目標を設定し、日々の実践の中で専門性を高めていくことができます。
例えば、「基本介護技術」の分野で高い評価を得るためには、利用者の状態に応じた適切な介助技術を身につける必要があります。また、「利用者視点での評価」の分野で高い評価を得るためには、利用者の思いに寄り添い、その人らしい生活の実現を支援するためのスキルが求められます。
このように、キャリア段位制度を活用して自身のスキルアップの道筋を明確にし、より高いレベルのケアを目指すことができます。キャリア段位制度は、介護福祉士のキャリアアップを後押しする有効なツールと言えるでしょう。
介護福祉士会では、認定介護福祉士養成研修を実施しています。
この研修は、チームマネジメント、対人援助の知識と技術、自立に向けた介護過程の展開などを学ぶ内容で、受講者数は年々増加傾向にあります。
認定介護福祉士養成研修を修了することで、介護福祉士はチームのリーダーとして、あるいは専門職として、より高度な実践力を身につけることができます。
認定介護福祉士養成研修では、チームマネジメントに関する知識と技術を学ぶことができます。チームマネジメントとは、多職種からなるケアチームを効果的に運営し、利用者の状態に応じた最適なケアを提供するための手法です。
研修では、チームビルディングの方法や、チームメンバーの役割分担、コンフリクトの解決方法などを学びます。また、リーダーシップやコミュニケーションスキルを高めるための演習も行われます。
認定介護福祉士養成研修は、介護福祉士のリーダーシップ能力とマネジメント能力を高める上で、非常に有効な研修と言えるでしょう。
このほか、主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)研修や、介護支援専門員専門研修など、介護福祉士のキャリアアップを後押しする様々な研修が用意されています。
主任介護支援専門員研修では、地域包括ケアシステムの構築に向けた、ケアマネジメントリーダーとしての役割や、地域づくりの手法などを学びます。また、介護支援専門員専門研修では、ケアマネジメントの理論と実践、ケアプラン作成の技術などを学びます。

介護福祉士の研修イメージ
介護福祉士は、自身のキャリアビジョンや目標に合わせて、これらの研修を戦略的に活用していくことが重要です。研修で得た知識やスキルを、日々の実践の中で活かし、専門性を高めていくことが求められます。
また、研修で得た人脈を活かし、他の介護福祉士や多職種との連携を深めていくことも大切です。キャリアアップ研修を効果的に活用することで、介護福祉士は、より高度なケアの提供と、キャリアアップの実現を目指すことができるのです。
日々の業務の中で自己研鑽に努め、介護に関する最新情報を収集することも、介護福祉士のキャリアアップには欠かせません。自ら学ぶ姿勢を持ち、常に新しい知識や技術を吸収していくことが重要です。
介護・福祉分野の書籍を読んだり、セミナーやイベントに参加したりと、積極的にアンテナを張り、自身の関心領域の知識を深めていくことが大切です。その際に得た知識を、日々の実践の中で活かしていくことが求められます。
また、日々の業務の中で、利用者とのコミュニケーションを大切にし、ニーズを的確に把握することも重要です。利用者一人ひとりのストーリーに関心を持ち、その人らしい生活の実現を支援することが、介護福祉士の使命であると言えるでしょう。
利用者とのコミュニケーションを通じて、利用者の思いや価値観、ライフスタイルなどの理解につながります。こうした理解を深めることで、利用者の尊厳を大切にしたケアを提供することができるようになるでしょう。
また、利用者との信頼関係を築くことで、利用者の協力を得ながら、より効果的なケアを展開することもできます。
同僚や他職種との情報交換や意見交換も重要です。多職種間のコミュニケーションを活発に行い、互いの専門性を尊重し合いながら、協働してケアを提供することが求められます。
他職種から学ぶ姿勢を持ち、自身の視野を広げていくことが、介護福祉士のキャリアアップには欠かせません。
看護師との情報交換では、医療的ケアに関する知識や技術を学ぶことができます。また、理学療法士や作業療法士との意見交換を通じて、リハビリテーションの視点を取り入れたケアを提供することができます。
さらに、管理栄養士との連携を通じて、利用者の栄養状態に応じた食事の提供や、嚥下機能に配慮したケアを行うことができます。
多職種協働の中で、介護福祉士は自身の専門性を発揮しながら、他職種の知見を取り入れ、より質の高いケアを提供することが期待されています。
介護福祉士は常に学ぶ姿勢を持ち、新しい知識や技術を吸収し、実践に活かしていく。そして、利用者や多職種との関わりの中で、自身の専門性を高めていく。そうした地道な努力の積み重ねが、介護福祉士のキャリアアップにつながっていくのです。
介護福祉士がスキルアップすることで、リーダー的立場や専門職、経営者としてのキャリアを築くことも可能です。
キャリアインデックスの調査では、介護福祉士の平均年収は約320万円ですが、施設長になると約500万円になります。また、介護福祉士から起業する事例も増えており、年商1億円以上の事業所も存在します。
介護福祉士がスキルアップし、リーダーシップを発揮することで、こうしたキャリアアップの可能性が広がります。
例えば、認定介護福祉士や社会福祉士の資格を取得し、チームのリーダーや管理者として活躍することも可能です。
また、介護福祉士の経験を活かして、介護職員初任者研修や実務者研修の講師として活躍することもできるでしょう。自らの知識や経験を後進に伝え、介護の質の向上に貢献することは、介護福祉士にとって大きなやりがいにもなります。
さらに、自ら介護事業所を立ち上げ、経営者として介護業界を牽引していくことも期待されます。介護福祉士の経験と専門性を活かし、利用者本位のケアを提供する事業所を運営することで、地域の介護の質の向上に寄与することができます。
また、介護職員の処遇改善や働きやすい職場環境の整備にも取り組むことで、介護業界の発展に貢献することもできるでしょう。
介護福祉士がスキルアップし、キャリアアップすることは、介護業界全体の質の向上にもつながっています。一人ひとりが専門性を高め、リーダーシップを発揮することで、チームケアの充実や職場環境の改善、介護の社会的評価の向上などが期待されるのです。
介護福祉士を取り巻く環境が大きく変化する中、キャリアアップは喫緊の課題です。上位資格の取得、専門的な知識と技術の習得、キャリアアップ研修の活用、自己研鑽と情報収集など、さまざまな方法でスキルアップに取り組むことが求められています。
介護福祉士がその専門性を高め、活躍の場を広げることは、利用者の生活の質の向上につながります。
介護福祉士一人ひとりが、自身のキャリアビジョンを描き、スキルアップに向けて一歩一歩着実に努力を重ねていくことが、これからの介護業界を支える原動力となるでしょう。介護福祉士の皆さんには、その可能性を信じ、挑戦し続けていただきたいと思います。