国産アサリは今や「高級食材」に 中国産は売れず… “産地偽装”の余波 食卓からアサリが消える?

2022年1月、CBCテレビの調査報道で、中国から輸入したアサリのほとんどが「熊本産」に偽装されていた実態が明らかになりました。偽装がなくなりアサリを取り巻く状況は大きく変化しています。現状を取材しました。
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愛知県美浜町にある貝の専門店。売り場には、この時期旬を迎えたアサリ。中国産と愛知産、見た目に大きな違いはありませんが、値段は実に「3倍」…この価格差が意味するのは。
(貝匠 木村光正さん)「20年30年と値段が変わらなかったアサリが偽装がなくなって、ちゃんとした適正評価を受けている」
CBC
2022年1月に発覚した熊本産アサリの大規模な産地偽装。警察はこれまでに偽装に関与した18人を摘発。
「中国産」と正しく表示されたアサリが店頭に並び始め、温暖化などを背景に激減している国産アサリの希少価値が見直されるきっかけになりました。
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産地偽装問題から2年。全国一のアサリの漁獲量を誇る愛知県では、本格的な漁のシーズンを迎えました。漁師歴35年の地元漁師は…
(愛知のアサリ漁師 細田光則さん)「単価は今が一番いいですね」
ことしは深刻な不漁で天然アサリの希少性はさらに高まり値段は高騰。喜ばしいことだと話す一方、戸惑いも。
(愛知のアサリ漁師 細田光則さん)「昔みたいに大量に食べたり安価で買える商品じゃなくなりつつある。今まで安かった商品が高くなるっていうのは、なかなか手が出しにくいとは思いますね」
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愛知県内のスーパー。愛知産のアサリは産地偽装問題が明らかになる前の倍以上に値上がりしています。
(買い物客)「小さくて少ないじゃん。それに高いじゃん、割と」「高くなったよね。昔はアサリなんて海に行けば”落ちていた”」
このスーパーでは、春先の旬の時期はアサリの特売スペースを設けていましたが、今は売れないため仕入れを大幅に減らしています。
(パワーズ東脇店 正木宏和店長)「お味噌汁の中に入ってたり副菜的な部分が強いものですから。なかなかこのお値段ですと、主食にはならないので値段的に厳しいところがありますかね」
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値段の高騰で食卓からは敬遠される一方、国産アサリを重宝するようになった店もあります。
(ワイン&イタリアン ロルト 森俊志さん)「他の産地のものとは比べものにならないくらいおいしいなと思います」
名古屋・錦の高級イタリアン。1年前から愛知・渥美産のアサリをメインにした料理を提供しています。
(ワイン&イタリアン ロルト 森俊志さん)「渥美半島のアサリのスパゲティです」
一皿2800円からと決して安くはありませんが、リピーターも多い人気メニューだといいます。
(ワイン&イタリアン ロルト 森俊志さん)「本物の味としっかりとしたおいしさがあるので、お値段以上にお客様には満足していただけると思いますので、値段が少々高くても渥美のアサリを仕入れたいなと思っています」

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庶民には手の届かない高級食材になりつつある国産アサリ。この日、愛知の渥美漁協を訪れたのは熊本県八代市のアサリ漁師たち。
八代市はかつてアサリの一大産地でしたが、近年はエイの食害などにより漁獲量が激減。そこで取り入れようとしているのが、渥美漁協が取り組んでいる「垂下式養殖」。アサリをかごに入れて海中につるす養殖方法で、砂の中で育つ天然アサリと違い食害にあう心配もありません。
(熊本の漁師)「干潟で生息していた天然アサリと垂下養殖だと味が違う?」(愛知の漁師)「泥に潜ってないから身が柔らかい、臭みがない。アサリの個体に当たり外れがない」
(熊本のアサリ漁師 宮田直樹さん)「漁師って秘密主義みたいなところがあるので、こうしてオープンに教えてもらえるとありがたい。産地偽装問題が起きて(熊本のアサリは)敬遠されているので『熊本のアサリはいいものなんだ』と分かってもらうためにも勉強をしてやっていかなきゃいけない」
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一方、中国産アサリを扱う業者は苦しい状況が続いています。福岡県柳川市でアサリなど海産物を販売している待鳥恭右さん(37)は2年前、アサリの産地偽装をなくす協議会の一員として大規模な熊本産アサリの偽装の実態を告発しました。
(待鳥恭右さん)「熊本産アサリの産地偽装を次の世代に続けさせるのか。それをさせたくないから」
他の業者に先駆けて、「中国産」と正しく表示したアサリを販売し始めましたが、今は…
(待鳥恭右さん)「注文が来ないです、アサリの注文が。(中国産)アサリを卸してくれという注文が来ないです」
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売れ行きはかつて”熊本産“を扱っていた時の「30分の1」ほどに。待鳥さんのような状況は全国で相次いでいて、中国からのアサリの輸入量は激減しています。
(待鳥恭右さん)Q産地偽装をなくす活動をしたことに後悔は?「全然後悔とかはしてないです。きつかったり批判を受けたりとかもあるかもしれんですけど、別に今はどうやって売っていこうかなということばっかりです」
待鳥さんは現在、中国産アサリをそのまま売るのではなく、国内の海で養殖し身を大きくしてから販売する取り組みを進め、再起を図っています。
(待鳥恭右さん)「2年前の産地偽装問題でも『熊本に偽装していた人』が悪いだけであって、中国産のアサリが悪いわけではない。国産は国産で売れて、中国産も中国産でみんな仕事をしないといけないから、大々的に発信していかないと」
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高騰する国産と売れない中国産。アサリはこのまま日本の食卓から消えてしまうのか。漁師や業者たちの模索が続いています。
CBCテレビ「チャント!」4月16日放送より