「後方へ撃てない戦艦」そもそもなぜ考案? 大和型でも検討された主砲の前部集中配置 実戦投入したら「ヤバ…」

主砲塔の配置を見ると、大和型戦艦やアイオワ級戦艦、長門型戦艦やビスマルク級戦艦とは異なり、ネルソン級戦艦やリシュリュー級戦艦は前部に集中しています。なぜこのように配置され、そして普及しなかったのでしょうか。
戦艦の主砲塔は、船体の前後部に分かれているのが一般的です。例えば大和型戦艦やアイオワ級戦艦は、主砲塔が前部に2基、後部に1基、分散配置されています。 その一方、主砲塔を前部に集中させた戦艦も見られます。イギリスのネルソン級戦艦やフランスのダンケルク級戦艦、リシュリュー級戦艦です。普通に考えると、後方に主砲が向けられない主砲配置ですが、不利益はなかったのでしょうか。また、なぜそうした戦艦が生まれたのでしょうか。
「後方へ撃てない戦艦」そもそもなぜ考案? 大和型でも検討され…の画像はこちら >>イギリス海軍の戦艦「ネルソン」。3連装主砲が3基とも前部甲板に集中している(画像:イギリス帝国戦争博物館, via Wikimedia Commons)。
主砲塔の前部集中案が初めて登場するのは、イギリスの計画案「M2」「M3」で、1920(大正9)年のことでした。両者の違いは艦橋を挟んで、連装砲塔が2基ずつあるのか、前部が3連装砲塔2基、後部が1基あるのかということです。基準排水量4万6000~4万8750t、45.7cm主砲、23~23.5ノット(43km/h前後)の計画でした。
主砲塔を集中させた理由は、主要防御区間の長さを4~5%短縮できる、機関部を後部に集約すれば推進軸を短くでき、機関重量を減らせるというものです。この案に対し、イギリス海軍からは「徹底した集中防御はよいが、非防御区画が長い」などの問題点も指摘されました。
それでもメリットの方が大きいとしてこの主砲配置を追求し、改良を加え「N3級戦艦」「G3級巡洋戦艦」として建造しようとしましたが、ワシントン海軍軍縮条約の制限で断念。1927(昭和2)年に、排水量を減らしたネルソン級戦艦を建造します。
ネルソン級戦艦は基準排水量3万3500t、406mm3連装砲塔3基9門(前甲板集中配置)、23ノット(43km/h)の性能ですが、弾薬庫部の舷側装甲は356mm傾斜、水平装甲は159mmありました。常備排水量3万3800tの長門型戦艦が、410mm連装砲塔4基8門、26.5ノット(49km/h)、舷側装甲305mm(299mm説も)、水平装甲70+75mmですから、徹底した集中防御を採用したネルソン級が防御力では上でした。
性能では「最強」のネルソン級ですが、問題点も多々ありました。弾薬庫部分の装甲は厚いものの装甲防御範囲が狭く、主砲配置が悪影響して水中防御も弱いこと、特異な船型ゆえ運動性能が劣悪、といった具合です。
特に運動性は、「問題を起こさぬよう、泊地への入港は最後にする」と配慮されるほどで、タンカー並みでした。主砲塔の集中配備も、後方に向けて発砲した場合、艦の上部構造物や甲板を破損しかねないとして、平時には艦後方への主砲発砲が禁止され、軍令部から「この主砲配置の戦艦は以後なし」と要望されたほどでした。
ネルソン級は各国に影響を与え、大和型戦艦でも主砲塔集中配置が検討されていますが、結局は通常型が採用されています。
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アメリカ海軍に残る戦艦「大和」の見取図。主砲は甲板の前後部に分散配置。なお竣工時のもののため、艦橋左右に副砲の15.5cm3連装砲塔が描かれている(画像:アメリカ海軍)。
続いて主砲塔前部集中を行ったのは、フランスが1937(昭和12)年より就役させたダンケルク級戦艦です。基準排水量2万6500t、33cm4連装砲塔2基8門、最大31.5ノット(58.3km/h)の高速戦艦でした。舷側装甲は225+16mm(傾斜)、水平装甲は125+15mmで、排水量から考えると重防御です。
基準排水量を拡大した2番艦「ストラスブール」ではさらに、舷側装甲が283mm+16mm傾斜となり、36cm砲に対抗できる重防御となっていました。
ダンケルク級で前部集中配置を採用したのは、既存フランス戦艦では捕捉困難な高速性能を持つ、ドイツのポケット戦艦(280mm砲6門、26ノット〈48.1km/h〉)を追撃するためでした。
フランスはさらにリシュリュー級戦艦を就役させます。基準排水量を3万5560tに増加させたことで、38cm4連装主砲2基8門、30ノット(55.6km/h)、舷側装甲330+18mm傾斜、水平装甲170+10mmの性能を持ち、排水量が近い同世代戦艦の中では最高の装甲厚を誇りました。
なお、興味深いのは計画時の主砲配置です。第5案と6案では艦橋の後ろ、艦中央部に4連装砲塔2基という配置でした。弾薬庫を艦中央部に集中でき重防御となる、対空砲の射界が広いといった利点はあるものの、前後に主砲が撃てないことは「あり得ない」として、採用には至りませんでした。
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フランス海軍の戦艦「リシュリュー」(画像:アメリカ海軍)。
主砲塔を2基に抑えたこともあり、ダンケルク級やリシュリュー級戦艦では、劣悪な運動性や爆風などが問題となることはなかったようです。しかし、フランス戦艦は実戦で主砲配置が問題視されます。1940(昭和15)年7月のメル・セル・ケビル海戦では、ダンケルク級2隻が艦首を陸地方面に向けて停泊していたため、後方から接近したイギリス艦隊に応戦できませんでした。「ストラスブール」は脱出したものの追撃され、ここでも後方に主砲が撃てなかったのです。
「リシュリュー」も同年9月のダカール沖海戦の際、艦首を北側に向けて停泊していたので、南側から迫るイギリス艦隊に対し“方向転換して”応戦することになりました。こうしたこともあり、フランスではリシュリュー級4番艦である「ガスコーニュ」より主砲配置を前後部とし、続くアルザス級戦艦では406mm3連装砲塔3基を、前部2基、後部1基に配置することとしました(どちらも未完成)。
なお、日本は利根型重巡洋艦で主砲塔前部集中配置を採用していますが、こちらは主砲塔が軽く爆風も小さいこともあり、特に問題はなかったようです。艦後部を航空設備にでき、航空巡洋艦として索敵にも活躍しています。