自衛隊内のセクハラ被害を巡る国家賠償請求訴訟が相次いでいる。組織としてセクハラ被害に対処できていない証しではないか。国は重く受け止めるべきだ。
航空自衛隊那覇基地でのセクハラ被害に、自衛隊が適切に対応せず不利益を被ったとして、女性自衛官が国に約1168万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
女性は入隊時から、先輩隊員の男性に「ごついな」「子どもをズドンと産みそうだな」など繰り返しセクハラ発言を受けていた。
我慢していたが3年後、業務中の電話で、交際相手をやり玉に「やりまくって業務をおろそかにするんじゃねえよ」などとやゆされた。
女性は、それをきっかけに上司やセクハラ相談員に報告したが、適切な対応はなされなかったという。
そればかりか、基地内のセクハラ教育で先輩隊員を匿名としながら、女性だけ実名を明かされる「二次被害」を受けた。
女性が先輩隊員への損害賠償請求を提訴したことを巡っては、裁判で組織内の調査資料を証拠として提出したことが情報流出に当たるとして訓戒処分も受けた。
女性は再処分を恐れ記者会見の場には姿を見せなかった。弁護団を通じ「組織はセクハラを隠蔽(いんぺい)し、私を悪者かのように扱ってきた」とのコメントを発表している。
自衛隊の対応は著しく不適切で疑問を抱く。訴訟で経緯を明らかにすべきだ。
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今回の提訴で明らかになったのは組織の隠蔽体質と、自浄作用の欠如である。
女性が自衛隊に初めてセクハラ被害を報告して10年間、部隊の法務班から特別防衛監察まで相談した先は計12カ所に上る。
ようやく先輩隊員が訓戒処分を受けたのは相談から6年後のことだ。一方、隠蔽に加担したとして女性が処分を申し立てた20人については昨年、不処分が決定した。
問題を解決したというには程遠い状況である。
自衛隊内のセクハラを巡っては、陸上自衛隊の性被害を実名で訴えた元自衛官の五ノ井里奈さんも、国に対し200万円の損害賠償を求めて横浜地裁に提訴した。
組織内のハラスメント防止策が不十分で、セクハラ被害相談に対する調査がおろそかだったと指摘している。
五ノ井さんは会見で「一人一人が大切にされる正しい正義感を持った組織になってほしい」と訴えた。
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被害は氷山の一角だ。
全自衛隊でハラスメントの実態を調べる特別防衛監察では昨年、1414件の被害申告があった。
申し出た動機の3割超は、被害への対応が不十分なまま終わったことを理由にしており、実態はさらに深刻である可能性が高い。
被害があれば調査し、厳正に処分するという当たり前のことができていないのではないか。まずは、きちんとした相談体制の整備を急ぎ、それに関わる人材の再教育を徹底すべきだ。