“バズる大使”レジャバさん「皇室の方々とお会いして感じるのは奥ゆかしさと品格」“日本文化大好き”の理由を明かした

皇室や日本文化の奥深さを語った――。
2019年8月、駐日特命全権公使兼臨時代理大使という大役を背負い、レジャバさんは、また日本にやってきた。
当時、日本は平成から令和へ改元したばかり。レジャバさんにとって着任して最初の大仕事となったのは天皇陛下の即位の礼への対応だった。なかでも重要な儀式である即位礼正殿の儀には、大統領とともに参列した。
「ジョージア代表として、おめでたいときに着ようと作っておいた、民族衣装の白いチョハを着て出席しました」
このときの写真の投稿がきっかけで、レジャバさんは“バズる大使”となる。
「皇居内に設けられた式典会場の前で車を降りると、待ち受けていたカメラのフラッシュが一斉にたかれたんですね。だから“もしかしたら民族衣装がかなり注目されるんじゃないか”という期待はあったんです。
それで儀式終了後に“誰かネットで話題にしているかな”と、《民族衣装》《正殿の儀》《海外》などと検索してみると、《ジェダイの騎士ぽくて凄いカッコいいなーと印象に残ってるんだけど、どちらのお国の方なんだろう》というXの投稿を発見。うれしくて《ジョージアに一票》と書き込んだところ、“ジョージア大使本人がリプライしている”と話題になったのです。“人生初バズり”でした」
前任者のころから、在日ジョージア大使館はSNSを利用していたものの、当たりさわりのないお知らせばかりだった。そのためレジャバさんは自分のコメントが世間からどのように受け止められるのか、不安も感じていた。
「でも私の投稿が話題になったことで、大統領も『おー、いいじゃないか。とことんやりなさい』と後押ししてくれたんです」
以来、レジャバさんはXに日々のつぶやきを投稿することに。特に大きな反響を呼んだのはシュクメルリという鶏肉をガーリックソースで煮込んだ伝統的なジョージア料理にまつわる発信だ。
「牛丼チェーンの『松屋』で、シュクメルリを限定メニューとして販売していたんです。そのことを日本の友人から聞いたというジョージアに住む友人から伝え聞きました」
すぐに大使館近くの店舗に行くと、ジョージアの国旗が印刷されたシュクメルリのポスターが。“松屋に何が起きたのか”と仰天した一連の出来事をXで発信すると、みるみるうちに拡散され、メディアで取り上げられることに。ついには街中で“シュクメルリの人!”と呼ばれるまでになった。
ジョージア料理が話題になったことは、妻のアナさんの励みにもなったようだ。
「日本でジョージアを感じられる機会は少ないので喜んでいました。もともと妻は日本での生活が初めて。来日当時、ジョージア語をしゃべれる親戚や友人もいなかったので、大変だったと思います。そんな状況でも妻は、日本のご祝儀袋を気に入り、広げた袋の裏側に文字を書いて、手紙のようにして友人に送っていました。本来の用途とは違いますが、彼女も日本文化になじもうとしてくれたんですね」
そんなアナさんは、毎日のようにレジャバさんにお弁当を持たせている。
「最初はプラスチックの保存容器に詰めていたから味も素っ気もなくて。それを不満に思って日本にはお弁当の文化があることを教えたんです。すると近所のショップで、黒塗りの木のお弁当箱を買ってきて。機能性に優れた日本のナプキンに包み、持たせてくれるようになりました」
SNSに投稿する「愛妻弁当」シリーズによって、さらにフォロワーが増えていくことに。より一層、レジャバさんを日本文化の“沼”に引き入れたのは、皇室関連行事だった。
「’21年11月には信任状をお渡しするために皇居で天皇陛下に謁見しました。陛下は私自身のバックグラウンドも詳しくご存じのうえでお話ししてくださるため、身の引き締まる思いでした」
この信任状捧呈式をもって、レジャバさんは駐日特命全権大使へと昇進。
「昨年の園遊会には雅子さまも出席されました。天皇陛下や皇室の方々とお会いして感じるのは、奥ゆかしさと、品格。その2つが合わさり、日本文化の奥深さとなるのだと思います」
レジャバさんもその奥深さを探究するため、茶道も学び始めた。
「以前は、お茶を飲むのにあんなにかしこまったり、飲む前にお茶わんを回すなんて、変な文化だと思っていたんですが、すっかり魅せられて、いまでは茶道の専門誌にも連載を持っています」
毎年、元日に催される新年祝賀の儀にも、レジャバさんは参列している。
「今年の元日は、家族で北陸に行く予定だったので、儀式の後に家族と落ち合って、新幹線に乗って移動していたんです」
だが能登半島を襲った大地震により、新幹線は緊急停車。レジャバさんはXに《新幹線が停電で止まりましたが無事です》と情報発信につとめ、《石川県の皆様、どうぞお気をつけください》と気持ちも伝えた。
車内販売の飲み物が売り切れてしまったが、《子供もいるから少し心配ですが、大変なのはみんな同じです。一緒に乗り越えましょう!》と励まし続けたのだ。
このときおなかをすかせる子どもたちを救ったのが、新年祝賀の儀のお土産でもらったおせち料理。《幸運にも皇室より賜ったおせち弁当がありました》と、子どもたちの食事姿もアップ。
「突然の運行ストップにも、パニックにならずに冷静に対応する日本人の姿に感動しました。しかも儀式でいただいたお弁当がありがたかった気持ちを発信すると、4千万もの閲覧数で、あらためて言葉の力を感じました」
コメントを発信するとき、言葉の使い方には人一倍こだわるという。
「言葉は、日本では“言霊”ともいわれ、自分自身の心を表現する大切なものですし、ときには人を傷つけるもの。そして言葉によってその国の文化が生まれます。それほど重要な言葉ですが、ジョージアは地政学的な問題から、母国語が奪われる危機に見舞われ、先人たちが命をかけて守ってきた歴史があるんです」
レジャバさんの“つぶやき”が多くの人たちに響くのは、言葉の力を信じているからなのだろう。
■「日本では珍しいジョージア人。子どもたちはプラスにとらえて育ってほしい」
「ジョージア大使館の職員は7人。わずかな人員で、政治、経済、安全保障、文化、領事の仕事までカバーしています。さらに新たな仕事をしなければ、私が着任した意味がありません」
こう語るレジャバさんは、公務の傍ら、休日を利用して著書のトークイベントや講演会、ラジオ出演などにも精力的だ。
そんな多忙ななかでも、積極的にリカちゃん(5)、マリアナちゃん(3)、ミサちゃん(1)の3人娘の子育てに奮闘している。
「どうしても仕事の効率は悪くなってしまいますが、子どもとの時間も限られているので、できるだけごはんをいっしょに食べたり、寝るときに物語を読んだり、ふざけたりしています。
子どもたちには、ジョージア人であることの誇りを持ってほしいといつも話していて、頻繁に母国と行き来するようにしているんです。日本では珍しい存在ですが、それをマイナスではなくプラスにとらえて育ってほしい」
そう語ると、外出していたマリアナちゃんが帰宅。一目散にレジャバさんに駆け寄り、ほっぺたをくっつけ合う。
「これ、家族では、ほっぺキスと呼んでいて、うまくお互いのほっぺがバウンドすると成功なんです」
いつも愛妻弁当を作ってくれる妻・アナさんとも桜を見に行ったりするなど、いっしょの時間を大切にしている。
「仕事、プライベートを含めた日々の出来事をSNSで発信し続けているのは、ジョージアのことを知ってほしいし、やっぱり日本が大好きだからです」
“日本大好き”なティムラズ・レジャバさん一家に一票!
(取材・文:小野建史)