[社説]「共同親権法」成立 残った課題に向き合え

議論を尽くしたとは言い難い。不安や疑問が残ったままとなった。
離婚後の共同親権を導入する改正民法が、参院本会議で可決、成立した。
離婚後、父母の一方を親権者とする現行の「単独親権」から、父母双方が親権を持つ「共同親権」が選択できるようになる。
共同親権にするかどうかは父母の協議で決定し、意見が対立した場合は家庭裁判所が判断する。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがある場合は単独親権と規定する。
離婚後の親権の在り方が見直されるのは77年ぶりである。今や3組に1組が離婚し、親が離婚した未成年の子は年間約16万人に上る。法の改正は、家族関係の多様化に対応したものだ。
離婚後も父母が共に養育に関わり、子どもが双方と親子関係を継続することは重要といえる。
しかし一方で、DVや虐待の被害者にとっては、加害者と再び接点が生まれる可能性がある。被害当事者から不安や懸念の声が上がるのは当然である。
DVや虐待は証拠が残りにくく、家裁が見逃して共同親権が認められる恐れもある。加害者と離れてようやく安全な生活を送っていた親子の生活を脅かしかねない問題である。
改正法は公布から2年以内に施行される。この間に当事者の声に耳を傾け、不安や懸念を払拭(ふっしょく)する具体的な方策を示すべきだ。
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関東地方に住む40代の女性は、離婚した夫のDVを家裁に訴えたが聞き入れられず、面会交流が決定した。共同親権導入に「おびえて暮らさないといけない。目の前が真っ暗になる」と話す。
親権決定には家裁が重要な役割を担う。例えば、DVで支配下に置かれ、共同親権を選択せざるを得なかった場合に見抜けるだろうか。
施行後は申し立ての増加が予想される上、離婚の状況は千差万別で個別のケースに丁寧に対応することが求められる。
人員増はもちろんのこと、DVや虐待に関する知識を身に付ける研修の実施など、体制を強化する必要がある。
改正法は、共同親権の場合でも「急迫の事情」や「日常の行為」は単独で親権を行使できると定める。進学先決定やパスポート取得には双方の同意が必要で、緊急手術は不要など政府は一定の目安を示したが、曖昧な部分も残る。
施行までに詰めなければならないことは多い。
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今回の改正では、問題になっている養育費不払い対策として離婚時に取り決めがなくても最低限の支払いを義務付ける「法定養育費」を創設した。
家裁が調停手続きなどの早期段階で別居した親との親子交流(面会交流)の試行を促す制度も新設した。
子どもの利益の確保を理念に掲げる法律だ。本当に子どもの利益を守るものになっているか運用を注視するとともに、必要に応じた見直しを求めたい。