国民負担率47.5%の日本はもはや「社会主義国」? そこには国民の要望も…

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私たちは所得税や住民税などの税金の他に、健康保険、介護保険、年金などを負担している。この両者の合計が国民所得に占める割合のことを国民負担率と呼ぶ。財務省によると、2022年度は47.5%だという。
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2021年度が過去最大で48.1%であり、来年度は46.8%になる見込みだそうだ。50%に近いこの負担率をどのように考えればよいのか。これでは、江戸時代の「五公五民」と同じではないかという嘆きの声も聞こえてくる。
この問題を考えるために、サラリーマンの皆さんは、毎月会社が発行する給与明細書を取り出して、よく見てほしい。「支給」される給与の他に、「控除」という項目があり、そこに、所得税や住民税、さらに健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料があり、その分が控除されるので、手取り額が少なくなる。
税金額についてはよく見ており、重税だなどと呟くが、ほとんどの人は社会保険料については、高くても、病気になったときの保険料なので仕方ないとして、あまり注意を払わない。
増税すると国民が反発し、政権党は選挙で敗北する危険性が高まるので、なるべく税金には手をつけずに、社会保険料のほうを上げる方法で逃げようとするのである。
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国民負担率は、初めて公表した1970年度には24.3%、1979年度には30.2%、2013年度には40.1%と増加してきた。そうなったのは、少子高齢化の進展とともに、社会保障を充実させる必要性が高まり、社会保険料が増えたからである。
具体的には医療保険も介護保険も役割が増大している。今や国民医療費は40兆円を超え、介護費用は11兆円を超えている。社会保険料負担が増えるのは当然とも言えるのであり、要は負担と給付のバランスである。
国民負担率を国際的に比較すると、アメリカは少なく、32.4%である。これに対して、ヨーロッパ先進国では、フランスが67.1%、デンマークが66.2%、イタリアが60.4%、スウェーデンが56.4%、ドイツが54.9%と高くなっている。
この違いは国情を反映している。健康保険を例にとってみよう。日本は国民皆保険で、医療機関の窓口で、かかった費用の3割を負担すればよいようになっている。ヨーロッパも同じで、私が欧州諸国で生活していたときには、医療費の心配をすることはなかった。
ところが、アメリカで病気になったり、怪我をすると巨額の費用を支払わねばならない。それは、日本のように国民皆保険ではなく、公的保険制度が発達していないからである。つまり、各人が自分で保険会社と契約をして、保険料を払い、医療機関にかかるときには、その保険を活用するのである。これだと保険料を払えない貧しい人は困ることになる。

アメリカでは、自力救済、「神は自ら助くる者を助く」という精神で、政府の仕事をなるべく少なくする「小さな政府」の信奉者が多い。とくに共和党支持者である。民主党支持者のほうは、「大きな政府」を求め、政府が国民の健康にもっと介入すべきだという考えである。
しかし、税金負担は「大きな政府」のほうが「小さな政府」よりも大きくなる。日本やヨーロッパの場合、とくに国民の健康に関しては「大きな政府」が当然となっている。しかし、税金の無駄使いという観点からは、効率の良い民間に任せたほうが、そうでない役人に任せるよりも、結局は節税になるという考え方もある。
日本では、よほどの億万長者でないかぎり、「小さな政府」の信奉者は少ないと思う。それだけ、実は政府を信用していると言ってもよい。
アメリカはヨーロッパや日本と違って、宗教的理由から移民してきた人々が作った人工国家である。そこでは、人々が契約によって政府を作り、国防など自らの手のみでは果たせない責務を政府に任せたのである。
家族を守るのも先ずは自分の仕事であり、だから銃の保有、携帯が憲法で保証されている。教育も、学校よりも家庭や教会で行った。だから、ダーウィンの進化論を信じない人が今でもいるのである。
日本やヨーロッパは、社会保障の充実など、平等を目指す社会主義的な国になっているが、アメリカの自由な民主主義の特質もまた理解する必要がある。

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今週は、「税の在り方」をテーマにお届けしました。
(文・舛添要一)