[社説]少子化対策迷走 現場分かっているのか

「出産したら奨学金の返済を減免する」「育児休業中のリスキリング(学び直し)を後押しする」など、政府・自民党の少子化対策のとんちんかんぶりに批判が集まっている。
若い世代が直面する問題から大きくズレる議論で、今の危機的な状況を回避することができるのか。
自民党の「教育・人材力強化調査会」が、学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子をもうけた場合、返済を減免する案を検討している。
同会は今週中にも、子育て世代の教育費負担軽減策に関する提言をまとめ、政府の少子化対策議論に反映させたい考えだ。
出産と奨学金を組み合わせることに、大きな違和感を持つ。減免するから「産めよ増やせよ」と言われているようで不快ですらある。
この問題を3日の参院予算委員会で取り上げた、立憲民主党の石垣のり子氏は「子どもを奨学金のかたにするような、悪い異次元の子育て政策」と批判した。
一方、答弁に立った岸田文雄首相は「議論が続いており、注視するのが私の立場だ」とし、自民党案についての評価を避けた。
奨学金の問題は高等教育における家計負担の重さの問題だ。公的援助が少ないため、大学生のおよそ2人に1人が受給し、多くの若者が長期間にわたり返済に苦しんでいる。
他方、子どもを持つか持たないかは、あくまでも個人の生き方の選択。欲しくても授からない人もいる。
■ ■
少子化対策や子育て支援を巡る、ちぐはぐな議論はこれだけではない。

岸田首相が1月27日の参院代表質問の答弁で、育休中の女性のリスキリングを支援する考えを表明したことにも批判が相次いだ。
当事者から「赤ちゃんの育児は過酷」「学び直しの時間などない」と猛反発を浴びたのだ。
首相は3日後、「本人が希望した場合」と述べ、釈明に追われた。
核家族化が進み、近くに頼れる人がいない「ワンオペ育児」に苦労している母親は多い。男性の育休取得率は約13%と低く、負担は女性に偏っている。昼夜を問わない育児で睡眠不足になり、「産後うつ」と呼ばれる心身の不調に陥る母親も少なくない。
ここで重要なのは父親の育児参加だが、そもそも子育ての課題を自分事として意識してこなかった想像力の欠如が招いた問題ではないか。
■ ■
予算を巡っても発言が迷走している。
岸田首相は家族関係社会支出が国内総生産(GDP)比で2%となっている現状を持ち出し、「さらに倍増しよう」と表明。だが翌日には事実上撤回した。
年頭会見で首相が「異次元」という言葉を使い少子化対策に強い意欲を示したことに大きな期待が集まった。
今は、言っていることと、やっていることのギャップに期待もしぼみつつある。
現場の声に耳を傾け、ズレを直視すべきだ。