「車はぜいたく品?」 自治体が生活保護受給者に認めない“車の保有” 「車に乗ったら生活保護止められた」当事者が語る現実

(生活保護受給の女性 81歳)「(生活保護を)止められましたね、1回ね。おととし9月やった。どうしようかなって、不安やわね」

こう話すのは、三重県鈴鹿市に住む81歳の女性。病気で障害のある56歳の息子と二人暮らしで、今は生活保護を受けています。息子は脳の障害で病院の通院に自家用車を使っていましたが、それをめぐって行政と裁判で争っています。

(生活保護受給の女性 81歳)Qどういうことを運転記録に書いていた?「最初のメーター、日にち、運転者、同乗者、目的地、帰り降りるときにメーター見て数字書いて…どんだけ走ったか分かるから。日にちも書いているうちに、これどこ行ったやつやったかな?って分からなくなるときもあって、市の職員に『ウソ書いた』といわれた」
鈴鹿市は、生活保護の支給を始めて2年後、突然、車を使う条件として細かい運転記録の提出を求めるようになり、女性が出さなかったところ、生活保護を停止したというのです。

(生活保護受給の女性 81歳)「どうしようもないという感じ。生活保護止められたら、どうやって生活していけばええの。『大変やな。お母さんも辛いな』と(息子も)言っていた」
そもそも生活保護の制度では原則、受給者には車の所有が認められていませんが、国は、通院や生活上やむを得ない場合は自治体の判断で認めてもいいという通知を出しています。

鈴鹿市は、独自の「運転記録票」を女性に提出させ、車を使用した日付と通院日にずれがないかを細かくチェックしていました。親子はおととし10月、生活保護停止処分の撤回を求め、市を提訴。
すると、ことし3月…

津地裁は、原告にとって車の利用は自立した生活に必要と認めたうえで、運転記録を提出しないことを悪質とした鈴鹿市の判断は誤りだと判断して、生活保護の停止処分を取り消す判決を言い渡しました。

(芦葉甫弁護士)「運転記録票をこんなに事細かく求める必要はないと言い切った裁判所の判断は価値がある。そもそも、生活保護受給者が車を持ってはいけないルールの見直しも、求めていきたい」
(生活保護受給の女性 81歳)「長く長く感じたこの裁判もやっとけりがつきました。これを待っていたのは、息子だと思います。早く帰って病室の彼に伝えてやりたい」

しかし、この判決に対して鈴鹿市はすぐに控訴。CBCテレビの取材に対し「コメントは控える」としています。
「生活保護を受ける人は車を持つ資格がない」とする今の制度。しかし、それでは生活できない現実も…

(生活保護受給の女性 72歳)「親の時から使っているから、20年前くらい」

(生活保護受給の女性 72歳)「保護課に最初に行ったときに『車はダメですよ』って言われた。生活保護を受けてない段階で、車で行ったんだけど、わざわざ私の車を駐車場で見て、『生活保護になったら、ダメですよ』ってはっきり言われました」
鈴鹿市で独り暮らしをする72歳の女性。長年ペットのトリマーとして働いていましたが、仕事の影響で頸椎損傷になり、身体障害者手帳の1級に認定されました。仕事もできなくなり、5年前から生活保護を受けることに。
50メートル歩くことも困難で、玄関にはこんな貼り紙も…

一番近くの駅までは約700メートル。数時間に1本しか来ないバス停までも300メートル離れていて、生活に必要だと車を使っていますが、鈴鹿市は、車の見積書を提出しないことを理由に、生活保護の打ち切りを決定しました。

(生活保護受給の女性 72歳)「車がなかったら生きていけない。どこへも行けないし、何もできない。家の中で牢獄のように過ごせっていう感じ。車は私の足なんだから、ダメだなんて言わないで下さい」

女性が訪れたのは弁護士事務所。生活保護停止の撤回と車の所有許可を求め、鈴鹿市を提訴していて、ことしの夏に裁判が行われる予定です。
担当するのは、あの81歳の女性の裁判でも弁護した芦葉甫弁護士。「生活保護受給者は劣悪な暮らしを送るのが当然だ」という考え方が、制度の根底にあるのではないかと話します。

(芦葉甫弁護士)「本来ならば自分の力で稼いで生活しましょうというところを、税金で生活をしている。そういう人だから、普通に働いて生活している人よりは、低い劣悪な環境で生活してもやむを得ない、そういう考え方が背景にあるんじゃないかと分析している」「いつ何時だれが、生活保護利用するかは誰も分からない。自分が受けるとなったときに最低限、この制度があれば、暮らしていて良かったなと思える制度がいいかなと思う」

「生活保護受給者の車の所有」をめぐっては、自治体によって運用にバラつきがあるのが実態で、鈴鹿市のすぐ隣の津市では、2417世帯のうち20世帯に車の所有を認めています。

(津市 援護課 水野浩哉課長)「基本は認められていない中で、どのようにそれを地域の実情に合わせて、認めていくのかっていうのが、それぞれの実施自治体の力量による」
裁判で鈴鹿市と争っている81歳の女性。去年までは、息子も証言台に立ち、車の必要性を訴えてきましたが、ことしに入って息子の体調は悪化。一時危篤状態になり、入院生活を送っています。

(生活保護受給の女性 81歳)「名古屋高裁行ってくるでな。母さんな、今まで2年間頑張ってきたでな」
「健康で文化的な最低限度の生活」は、憲法で保障されている基本的な人権。生活保護受給者が過去最多を記録し、格差が広がり続ける中、どこまでが最低限度の生活なのか…親子は今後も司法の判断を求めていきます。