「夜の総火演」昼とどう違う? もう「花火大会」じゃない 発光厳禁の真っ暗闇で行われた演習とは

総合火力演習は、実践を想定して昼間と夜間に演習が行われます。戦車の射撃シーンなど、よく見かける迫力のある写真は昼間演習の様子ですが、では夜間はどのような様子になるのでしょうか。進行の違いにも着目してみます。
総合火力演習(総火演)には昼間演習と夜間演習があります。夜間の実弾射撃を見学できる機会は貴重ですが、取材者は昼間に比べるとずっと減ります。真っ暗で「絵」にならないからのようです。
「夜の総火演」昼とどう違う? もう「花火大会」じゃない 発光…の画像はこちら >>昼と夜で、総火演はどう変わるだろうか(月刊PANZER編集部撮影)。
現代では漆黒の闇夜を経験する機会は少ないのではないでしょうか。夜間戦闘では当然ながら光を出すのはタブーであり、夜間演習を行っている地域に入ると参加部隊の灯火管制は徹底されており、多くの隊員や車両が暗闇の中で活動しています。取材者の車両でさえも場内ではヘッドライトを点灯せず、スモールライトのみでそろそろと走行します。安全のため、演習参加部隊でない状況外の車両が通行できる経路は決められており、自衛隊車両に先導されての低速走行ですが、目が慣れてくると意外と道は見えてきます。
総火演が行われる畑岡射場(静岡県御殿場市)は見学者も多いので、ここまで厳しくはありませんが、演習が始まると全ての照明が消されます。むやみに動き回らないことや、暗視装置に影響を与えるためフラッシュ撮影や懐中電灯、画面が光るスマホも使用しないことなどが、アナウンスで何度も注意喚起されます。
射場に入った参加部隊も夜間戦闘用の装備です。車両に掲げ、火器の弾薬装填状態を示す「緑」「赤」の標識も、旗ではなく発光器が使われます。2024年5月26日の、御殿場市の日の入り時刻は18時50分。取材者も早めに会場に入り、機材を準備しつつ徐々に暗くてなっていく闇夜に眼を慣らしました。すっかり暗くなるまでには、意外と時間がかかるもの。富士山のふもとの標高は約950mで、畑岡射場は日が沈むと気温がぐっと下がります。当日の天候は曇りで風もあり、ジャンパーが欲しくなりました。
演習が開始される20時頃には、スマホ画面の発光量を最小にしてもまぶしく感じるほどになっており、射場に並んだ車両も、わずかに尾灯と火器の弾薬装填状態を示す緑色の小さな光が点々と見えるだけで、それらが90式戦車なのか16式機動戦闘車なのかという見分けも全くつきません。
今年の総火演の特徴は、広報展示を目的にしたいわゆるエンタメのような構成ではなく、教育演習であることを前面に押し出したもので、それは夜間演習でも同様でした。そのため、従来のようにどんどん照明弾を打ち上げ、曳光弾を撃ちまくって闇夜を照らし出す「花火大会」にはならず、見学者からすれば寂しい気もしました。空中で発光し落下傘でゆっくり降下してくる多数の照明弾は幻想的で見どころですが、実戦的ではありません。
教育演習であることを強調するように、演習項目は敵機械化大隊の侵攻を複数の防御線で食い止めつつ反撃するという、実戦的な総合戦闘射撃訓練に準じた内容でした。そのため会場の大型モニターを使って、状況設定の説明はきっちりとなされました。逆に、例年行われていた暗視装置の紹介はほとんどありませんでした。
構成は、まず前方の警戒部隊が敵の前進を察知し、警戒部隊の後退と収容を援護するために、無照明下で火力を発揮。次に斥候などから得た情報をもとに、照明弾も使用しつつ敵の攻撃準備を妨害、もしくは突撃を破砕する不意急襲火力を発揮、最後に逆襲という流れでした。
不意急襲というように、いつどこから現れるか分からないホップアップ標的を射撃するので、「大きな音がします。ご注意ください」というような進行を紹介する丁寧なアナウンスもなく、真っ暗闇の中、無線の音声だけが流れ、いきなり射撃号令が出て閃光が見えたと思いきやドン、という具合です。号令をきちんと聞いていないと、どこで何が起こっているのかまるで分からなくなるでしょう。
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冬季の北海道大演習場を小さな管制灯火のみで走行する90式戦車(月刊PANZER編集部撮影)。
夜間演習の所要時間は約50分で、使用された弾薬量は約20.6tでした。暗闇だと天候の変化にも気付きません。いつの間にか天気は回復して雲は吹き散らされ、富士山は星空を背景に薄っすらと稜線を表し、ふと天頂を見上げると北斗七星がくっきり見えていました。