老人ホームで活発に行われている異世代交流に注目。子ども食堂、職業体験、幼老複合施設に共通するメリットとは?

現在、多くの老人ホームでは、入居者である高齢者と地域に住む子供たちが交流する機会を積極的に設けるようにしています。
例えば先日、介護業界大手の老人ホームでは、全国450ある入所施設において「子ども食堂」の運営を開始。現在業界内で話題を集めています。
子ども食堂とは、家庭の事情により晩御飯を自宅にて一人で食べないといけない子供たちに、楽しく食事の場を提供する取り組みのこと。異世代交流と地域交流を目的としたもので、入居者の意欲向上にもつながります。
また、一部の介護施設では、中学校を対象として職場体験プログラムを実施しているケースもあります。子どもたちが介護の仕事に触れることは、介護業界における将来的な人材増にも貢献するでしょう。
ほかにも、近所にある幼稚園・保育園児を定期的に招いて、異世代交流を進めている老人ホームも多いです。子どもたちとの異世代交流を取り入れることは、ホーム運営において幅広く行われつつあります。
さらに近年では、児童施設と高齢者向け施設とが同じ敷地内に立地する「養老複合施設」が増えつつあります。
例えば、デイサービスと児童館が同じ建物内にある、保育園と介護付き有料老人ホームが同じ敷地内にある、といった運営形態です。幼老複合施設では子どもたちが高齢者施設に遊びに来るという状況を超え、一緒に活動を共にするのが日常となっています。

昨今は、ますます少子化が進み、高齢者と子どもが接する機会が失われつつあります。内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によると、三世代世帯の数は、1980年当時では4,254千世帯だったのに対し、2019年には2,404千世帯まで減少。祖父と孫が一緒に暮らすという、かつて多かった家族形態は今や急速に減りつつあるわけです。
幼老複合施設は子ども、高齢者が触れ合う機会を確保する場にもなります。では、実際のところ高齢者施設で異世代交流を進めることにはどのようなメリットがあるでしょうか。続けて見ていきましょう。
まず高齢者施設側にとってのメリットとして、利用者増につながる点が挙げられます。その理由は、子どもと触れ合いたいと考える高齢者が多く、異世代交流を積極的に導入することでそのニーズを満たすことができるからです。
株式会社第一生命経済研究所「シニア・シルバー層の世代間交流の実態と意識」によると、50代以上の世代(n=289)に「子どもとの交流への関心」について尋ねたところ、60代では80%、70代では77.6%が「関心がある」「どちらかといえば関心がある」と回答しています。

高齢者施設では利用者確保のため、ニーズに合わせたサービス・レクリエーションを提供することは必須事項。そうした中、子どもとの異世代交流を進めることは、多くの高齢者が持つ希望に合致する取り組みであり、利用者増につながる施策であるといえます。
さらに運営事業者にとっては、コストを抑えた地域貢献・評判向上が可能です。例えば、高齢者施設と子ども食堂を別々に開設する場合、土地代・建設費用・運用費用が別々に発生します。しかし、同じ建物で行えば、大幅なコストカットを行えます。幼老複合施設では特にこのメリットは大きいです(老人ホームと幼稚園・保育園を別々に建設しなくて済みます)。
実際に子どもと触れ合う高齢者自身にとっても、異世代交流によるメリットは大きいです。
まず、高齢者本人に地域の子どもを見守り、育てようとする意識が働き、それが生きがいにつながります。子供と出会うのが楽しみとなり、生活意欲も高まるでしょう。
また、子どもたちとの交流・会話を通して、脳を活性化させ、認知症予防につながります。
子どもたちとのお話をする際、やはり大人であり人生の大先輩である高齢者の側が気配り・目配りをすることが求められます。スタッフが相手だと話しかけられるのを待っていたり、受け身になりがちな利用者も、子どもが相手だと自分から話す内容を考えたり、自分の方から話しかけたりしようとするわけです。その意味で、異世代交流における脳を活性化する作用は、スタッフと行うコミュニケーションよりも高くなるとも言えるでしょう。

さらに、要介護の方でも参加しやすいという点もメリットです。体を動かすイベントの場合、終わったあとに体に負担が蓄積し、行事の後に体調を崩す恐れもあります。しかし異世代交流は座ったままでおしゃべり・交流を楽しむ場なので、体力的にハードな内容ではありません。車椅子・杖の方も問題なく参加できます。
一方、高齢者施設で異世代交流を導入する場合、注意すべきポイントもあります。それは、すべての高齢者が子どもとの交流を望むわけではないという点です。
先の株式会社第一生命経済研究所の調査では、子どもとの交流に関心がない50代以上を対象に、その理由を尋ねるアンケートも実施しています。それによると、最多回答は「子どもとはペースが合わないと思うから」(38.4%)で、ほかにも「忙しく、時間がないから」(31.6%)、「子どもとは興味の対象が違うと思うから」(28.8%)などの回答が多く見られました。
回答結果を見ると、「忙しく、時間がないから」と回答した以外は、基本的に子どもとの交流を好まない人です。高齢者施設での異世代交流の導入を進める場合、こうした利用者への配慮も必要となるでしょう。
特に、これから異世代交流を始めるという施設の場合、利用者は利用開始時点・契約時点において、そのような取り組みをするとは聞いていないとストレスを感じる恐れもあります。導入を開始しても問題がないか、入念に調査・ヒアリングをすることも大切です。

高齢者施設で異世代交流を行う場合、スタッフは高齢者の利用者に加えて、子どもたちへの対応も求められます。一般的なレクリエーション・イベントを行うよりも、負担が増えてしまう可能性も高いです。
さらに幼老複合施設の場合、人材確保が大変になるという点も問題です。介護スタッフに加えて保育スタッフも確保する必要があり、どちらも業界全体で極度の人材不足。必要な人数の人材をそろえ、維持することが大変になってきます。
外部から子どもたちを迎える場合は、感染症のリスク対策もより万全に行うことが必要です。特に冬場の場合、風邪をひいている子どもたちが施設を訪問し、それが原因で利用者の体調が悪化するという事態は防がなければなりません。
このように実際に異世代交流を行う場合は、注意点・問題点に向き合って取り組むことも、施設運営上重要になってきます。
今回は、現在介護業界で注目を集めている子どもたちとの異世代交流について考えてきました。異世代交流にはメリットが多い反面、導入時に気をつけるべきポイントも多いです。施設側はその点を十分に配慮することが求められます。