介護福祉士試験の受験者数が約4千人減!介護職のキャリアデザインが発展のカギ

介護の現場で専門的な知識と技術を持つ人が取得できる資格に介護福祉士があります。1987年にできた国家資格で、登録者数は2023年1月末時点で、187万4,786人に上ります(社会福祉振興・試験センター調べ)。
2023年1月には第35回の筆記試験が行われ、社会福祉振興・試験センターの報告によると、その受験者数は7万9,151人でした。この数字は第34回の8万3,082人に比べ、3,931人減。直近の3年間は8万4000人前後で横ばいでしたが、2年連続で減少し、6年ぶりに7万人台まで下落 しました。
介護福祉士の国家試験を受験するためには、いくつかの要件を満たさなければならず、一般的に4つのルートが設けられています。
そのうち、最も受験者数が多いのは実務経験ルートです。第34回の結果通知によると、社会福祉施設や訪問介護員などの実務経験をすでに積んでいる受験者の割合は約87%に上ります。
一方、実務経験ルートは、2016年に「実務者研修」の修了が要件に加えられて一気に減少した経緯があります。つまり、実務経験とは別に研修を受ける必要があるのです。

それに加えて、介護職の高齢化も大きな要因になっています。厚生労働省によれば、介護職員の54.1%は40歳以上が占めることがわかっています。
介護福祉士の受験資格を得られる要件が厳格化された背景には、地域包括ケアシステムなどによって介護福祉士に求められる役割が広くなったことがあります。
厚生労働省は、介護人材を確保するために介護職の役割の明確化を図っています。その中で介護福祉士は、介護現場でのリーダー的役割だけでなく、地域における高齢者ケアを包括的に行える人材として捉え直しています。
介護福祉士に求められる役割として明文化されているのは次のような対応です。
このように、介護福祉士には介護施設に入居する利用者だけでなく、生活支援も含めた介護ニーズに総合的に対応できる人材として育成すべきだと定めています。そのため、特別な研修を受けることを要件に付け加えたのです。
しかし、介護現場では介護職がキャリアアップのために取得する資格という認識が強く、研修を受ける時間がないなどの理由で受験者数が減少したと考えられます。
介護職は、自身のキャリアアップよりもワークライフバランスを重視する方が多い傾向があります。

認知症介護指導者大府ネットワークは、指導者的な立場にある認知症介護指導者と一般介護職のグループに分けてキャリア意識のアンケート調査を行い、詳しく分析しています。
それによると、認知症介護指導者は新しいことや、困難な課題に取り組むことに価値を見出し、自身の仕事に強くやりがいを感じている一方、一般介護職は自身の生活を配慮してくれる職場環境を求めているという結果になりました。
この結果をみると、一般介護職は賃金や達成感だけではなく、ワークライフバランスを重視しており、管理職を目指す意識が薄い傾向があることが伺えます。
そのため、家庭での勉強も必要になる介護福祉士の受験をしようとする介護職はそもそも少ないとも考えられます。
介護福祉士が減少すると、専門的な知識を携えた現場のリーダーが不足するリスクがあります。ただでさえ人材不足なので、今後も受験者数が減少し続けると、現場での指導者的役割を担う人材が枯渇してしまうでしょう。
そこで注目したいのが、養成施設ルートの受験者数です。介護福祉士の受験資格を満たす介護系の大学や専門学校は全国に487も設けられています。(厚生労働省調べ)
しかし、第34回の試験で養成施設ルートで受験した人はわずか7,144人しかいません。そのうち合格者数は4,667人で、合格率も全区分で最低となっています。
養成施設で学ぶ学生たちは1,850時間に及ぶ課程をこなして受験資格を得ています。

それにもかかわらず、学生が介護福祉士の資格を取得する意識が低いのは大きな問題ではないでしょうか。
介護福祉士の有資格者を維持していくためには、学生たちの意識がカギを握っています。
受験する意識が低いのは、介護職の魅力をうまく伝えられていないのかもしれません。
そこで、介護職の魅力を伝えるためにはキャリアアップの道筋をきちんと示すことも大切ではないでしょうか。
介護福祉士を取得して介護施設でどのような経験を積めば、管理職としてキャリアを積んでいけるのかが明確になれば、魅力ややりがいを感じやすくなるでしょう。
超高齢化社会に突入した今、介護職は社会を維持するためになくてはならない仕事です。また、2040年まで介護ニーズは高まり続けると見込まれているので、介護サービスは成長し続ける分野ともいえるでしょう。その中で人材不足を少しでも軽減するためには、若手人材を獲得するための環境を整備することが業界全体に求められています。