国内初となる「メタノール」を燃料とするタンカーが進水。環境負荷を低減する次世代燃料の選択肢の一つとして、世界的にも注目されているメタノール、何がメリットなのでしょうか。
村上秀造船グループのカナサシ重工(静岡市)で2024年7月3日、国内初となる内航の“メタノール燃料”タンカー「第一めた丸」(570総トン)の命名・進水式が行われました。竣工は今年12月を予定。商船三井内航の小林 洋社長は「これまでの重油に匹敵する効率を持ち、環境対応にも良い新燃料としてメタノールは非常に有望。メタノールを燃料にしていく船がこれからも増えていくよう、主体的に取り組んでいきたい」と意気込みました。
船の新燃料の“本命”? 国内初の内航「メタノール燃料」タンカ…の画像はこちら >>進水した「第一めた丸」(深水千翔撮影)。
2050年までに内航分野でもカーボンニュートラルの実現を目指すことが求められる中、船舶分野ではLNG(液化天然ガス)や水素、アンモニアといった次世代燃料の導入に向けた検討が進められています。その一つとして、世界的にも注目されているのがメタノールです。
「第一めた丸」は商船三井内航、田渕海運、新居浜海運の3社が共同で保有し、竣工後は商船三井内航が三菱商事と結んだ定期用船契約に基づいて国内メタノール輸送に従事します。全長65.5m、幅10m、喫水4.38mで、主機関に阪神内燃機工業が開発した世界初のメタノール焚き舶用低速4サイクルエンジン「LA28MRG」型1基を搭載。航海速力は11.15ノット(約20.6km/h)以上です。積貨容積は1230立方メートルとなっています。
メタノールは重油と比べて、燃焼時にGHG(温室効果ガス)として知られる二酸化炭素(CO2)排出量を最大15%削減できることが可能です。さらに硫黄酸化物(SOx)を最大 99%、粒子状物質(PM)を最大95%、酸性雨などの原因となる窒素酸化物(NOx)も最大80%、排出を削減することができます。
「メタノールという荷物を運びながら、メタノールを燃料にするということで、非常に先進的なコンセプトを持つ船だと思っている」(商船三井内航 小林社長)
また、田渕海運の田渕訓生社長は「当社はケミカルの積み荷については何十年もやってきた。メタノールはアンモニアと比べて毒性が低いので扱いやすい」と話します。
船舶輸送における環境負荷の低減に貢献できるメタノール燃料は、デンマーク海運大手のAPモラー・マースクを中心に導入が進んでおり、世界で主要な約130か所の港で供給が可能です。
さらに、工場などさまざまな排出源から回収したCO2と、風力や太陽光など再生可能エネルギーを利用して製造された水素を合成し生産されたeメタノールや、バイオガス由来のバイオメタノールなど、非化石原料由来のメタノールを活用すれば、GHG 排出量のさらなる削減につなげて行くこともできるでしょう。
マースクはメタノール燃料コンテナ船を25隻整備する予定で、今年4月には韓国・現代重工業で建造された1万6000TEU型(20フィートコンテナ1万6000個相当を積める)コンテナ船「アストリッド・マースク」が横浜港に寄港しています。
日本の造船所でも常石造船がメタノール燃料のコンテナ船とバルカーを相次いで受注。日本シップヤード(NSY)などはNSユナイテッド海運と、20万9000重量トン型という巨大なメタノール燃料バルカーの建造に関する覚書を結びました。
また、内航船では6月に三菱重工業グループの三菱造船が、トヨタの完成車輸送を担うトヨフジ海運と福寿船舶から、メタノール燃料RORO船2隻を受注しています。
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常石造船が建造する商船三井ドライバルク向けメタノール二元燃料新造ばら積み船のイメージ図(深水千翔撮影)。
ただ、懸念点となるのはメタノール燃料のバンカリング(船舶への燃料供給)です。商船三井内航の小林社長も「供給地は現時点では限られている」と認めます。
「今回の船はメタノールを運ぶお客さんと一緒に組んでいるため、本船に関して言えば燃料供給の問題はない。また、メタノールタンカーは燃料の供給もできる。余剰となった船があればバンカリング船として活用する余地もある。供給地点を増やしていき、メタノールタンカーも増やしていけば徐々に普及していくのではないか」(小林社長)
田渕海運の田渕社長も「バンカリングの話はまだこれから。拠点が増えてこないと供給もしにくい。あとは値段の問題で普及率も変わってくる。高いままだとしんどい」を胸の内を明かしました。メタノール燃料を使用した内航船について「期待している。2隻目、3隻目が続けて出てきて欲しい」と語っています。