作家・佐藤巖太郎さんの新作「控えよ 小十郎」…伊達政宗を支え続けた奥羽随一の智将を描く

福島県在住の作家、佐藤巖太郎さん(62)がこのほど歴史小説「控えよ小十郎」(講談社)を刊行した。奥州を平定した戦国大名、伊達政宗を幼少の頃から支え続けた伊達家の家臣である片倉小十郎が主人公だ。これまであまり光を浴びることがなかった奥羽の智将に、なぜ着目したのか。(甲斐 毅彦)
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伊達政宗を描いた小説やドラマには必ず登場する片倉小十郎。1987年に放映され、大人気となった渡辺謙主演のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」では、西郷輝彦(故人)が小十郎を演じている。奥羽随一の知将とも評されてはいるが、その人物像を詳しく知る人は多くない。
「いつも政宗と一緒にいるから、その影に隠れて付属的な存在になってしまう。視点を変えて、補佐役を主体性のある独立した人物として描くことで、新たな政宗や伊達家を描けるんじゃないか、と。年齢的にも小十郎が10歳上ですし、幼少の頃から面倒を見ているので、政宗に与えた影響は大きいと思います」
史実を基に、佐藤さんは精緻(せいち)にして端正な文章で小十郎像を浮かび上がらせた。その姿は活力に満ちており、人間くさくもある。この人物がいなければ政宗も歴史に名を残さなかったのかもしれない。豊臣秀吉から5万石を提示され「家臣に」と誘われ、断る時の緊迫した空気の描写などは、まさにリアルだ。カネを積まれても動かない。己の夢を託した政宗と心中しようという覚悟は、現代の私たちの胸にも迫ってくるものがある。
「当時は身分制で個人の自由がない時代。(秀吉の誘いを)断るのは簡単ではなかったと思います。命懸けだったのではないか。それでも小十郎は伊達家から離れないという忠義の人でした」
佐藤さんは大学卒業後、公務員試験の予備校に就職し、教材作成などに携わっていた。小説家になるつもりなど全くなかったという。転機となったのは、2011年の東日本大震災。福島市の自宅も壁が損壊するなどの被害に遭った。原発事故の懸念が広がり「福島は終わった」というムードが漂う中で、思い至ったのが歴史小説という表現手段だった。描いたのは江戸時代の「明暦の大火」の後、江戸の防災のため尽力した会津藩主・保科正之。この福島の偉人の逸話を題材とした「夢幻の扉」でオール読物新人賞を受賞した。
「その後の作品も舞台はだいたい東北。意識はしていないですけど(作家として)そこから始まっているので、地域的なつながりで何かを表現したいというのはあります」
17年に「会津執権の栄誉」が直木賞候補となり「名が知られていない」自分でも、歴史小説ファンの心に届くものが出せることに、この上ない喜びを感じたという。今後は幕末の東北を描く構想もあるという。執筆の意欲は増すばかりだ。
「作家はなかなか就ける職業ではないので。人生最後の幸運が来たと思っています(笑い)」
◆佐藤 巖太郎(さとう・がんたろう)1962年1月12日、福島市生まれ。62歳。中大法学部卒。2011年に「夢幻の扉」で第91回オール読物新人賞受賞。16年「啄木鳥」で第1回決戦!小説大賞を受賞。17年「会津執権の栄誉」が直木賞候補に。同作で第7回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞。他の著書に「将軍の子」「伊達女」など。日課は愛犬との散歩。