新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るい始めてから数年が経過しました。厚生労働省が公表している2024年第25週(6月17日~6月23日)のデータによると、80歳以上の定点(1医療機関)当たり報告数は0.44、70~79歳は0.46となっています。これは、全年齢の平均である4.61と比較すると低い数値ですが、高齢者の外出機会が若年層と比べて少ないことを考慮すると、決して楽観視できる数字ではありません。
件数を見ても、60~80歳以上は2,000件以上報告されています。
特筆すべきは、この数値が前週と比較して上昇傾向にあることです。第21週から第25週にかけての推移を見ると、80歳以上は0.39から0.44へ、70~79歳は0.35から0.46へと増加しています。この傾向は、高齢者の感染リスクが依然として高い水準にあることを示しています。
高齢者の感染リスクが高い要因としては、以下のようなものが考えられます。
これらの要因を踏まえ、高齢者と直接かかわりのある人は、引き続き感染予防に努める必要があります。
高齢者がコロナに感染した場合、重症化のリスクが高いことは広く知られています。2024年の最新データを用いて、高齢者の重症化リスクと入院状況を具体的に見ていきましょう。
厚生労働省の報告によると、2024年1月から6月までの累計で、80歳以上の入院患者数は25,733人で、全入院患者の49%を占めています。
さらに、入院患者の届け出数を見ると、70歳以上の高齢者が全体の72.9%を占めています。これは、高齢者がいかに重症化しやすいかを示していると考えられます。
高齢者の重症化リスクが高い理由としては、免疫機能の低下、持病による影響、フレイル(虚弱)などが挙げられます。年齢とともにウイルスに対抗する力が弱くなることや、既存の健康問題がコロナの重症化を促進すること、また筋力や活動量の低下が主な要因です。
これらの要因が複合的に作用し、高齢者の重症化リスクを高めています。したがって、高齢者自身はもちろん、その家族や介護者も、感染予防と早期発見・早期治療に努めることが重要です。
高齢者のコロナ感染は、若年層とは異なる症状を示すことがあります。このため、家族や介護者が気づきにくく、発見が遅れるケースも少なくありません。ここでは、高齢者特有の症状や見落としがちなサインについて解説します。
まず、高齢者のコロナ感染で注意すべき症状リストを以下に示します。
高齢者の場合、顕著な発熱や咳が症状として出ない場合もあります。
また、高齢者特有の「非定型症状」の出現率も無視できません。以下のような症状が、コロナ感染のサインである可能性があります。
これらの症状は、一見するとコロナ感染とは関係ないように見えますが、実際には感染の初期症状である可能性があります。
さらに、認知症の方の場合は症状の自覚や表現が難しいため、より注意深い観察が必要です。いつもより反応が鈍かったり、食事量が急に減ったりといった症状や変化が見られた場合、すぐに医療機関に相談することが重要です。早期発見・早期治療が、高齢者のコロナ感染対策の鍵となります。
高齢者施設は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスター発生リスクが高い場所として、注意喚起されてきました。
高齢者施設でクラスターが発生しやすい要因としては、集団生活、ケアの特性、職員の移動、面会者からの持ち込みなどが挙げられます。
多くの高齢者が密接な環境で生活していることや、食事介助や入浴介助など密接な接触を伴うケアが必要なこと、複数の利用者のケアを行う職員が媒介となる可能性、家族や外部者からのウイルス持ち込みリスクなどが主な理由です。
これは一概には言えませんが、入所者数や職員数が多いほど、外部からのウイルス持ち込みリスクが高まることも要因のひとつと考えられます。
これらの特徴を踏まえ、各施設では状況に応じた適切な感染対策を講じる必要があります。
各施設でも改めて感染対策を講じる必要がある
高齢者施設では、クラスター発生のリスクを低減するためにさまざまな感染対策が実施されています。
さまざまな対策方法がありますが、効果として期待できる基本的な要素として「マスク着用」「手指消毒」「換気」の3点があります。
また、面会制限や面会方法の変更も感染予防における対応策の一つです。オンライン面会やアクリル板越しの面会を導入した施設では、導入前と比較してクラスター発生率が減少した事例もあり、多くの施設が何らかの方法で対応しています。
一方で、新規入所者へのPCR検査の実施率は他の対策と比較して効果が低めですが、この対策を実施している施設では、実施していない施設と比べると早期に感染に気づくことができるのでクラスターの発生を抑えられる場合もあります。
しかし、これらの対策には課題もあります。認知症の入所者にマスク着用を徹底させることの困難さや、面会制限による入所者の精神的ストレスの増加などが報告されています。
また、頻繁な消毒作業や健康チェックの強化は、職員の業務負担を増加させる要因ともなっています。
このように、感染対策の効果は明らかである一方で、その実施にはさまざまな課題が伴います。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の長期化に伴い、高齢者施設の職員が抱える負担は増大しています。特にコロナ禍は、感染対策に関連する業務の増加が顕著で、消毒作業、健康チェック、面会対応の変更などによって、1日あたりの業務時間が伸びてしまう状態も発生していました。
この業務負担の増加は、職員の精神的な部分に大きな影響を与えている可能性があります。これらのストレスや負担増加が職員の離職につながる可能性もあるので、事業者はしっかりとケアすることを意識しましょう。
例えば以下のような取り組みが行われています。
職員の負担軽減とメンタルヘルスケアは、高齢者へのケアの質を維持するためにも極めて重要な課題です。施設管理者は、感染対策と職員ケアのバランスを取りながら、持続可能な運営体制を構築していく必要があります。
職員へのケアも忘れてはならない
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防において、ワクチン接種は効果的な手段の一つと考えられており、重症化リスクを低減させる可能性もあります。
厚生労働省の最新データによると、2024年4月時点での65歳以上の高齢者のワクチン接種率は以下のようになっています。
これらの数字は、他の年齢層と比較して高い水準を維持していますが、ワクチン接種は個人の自由であるので、無理に勧めたり強要することは避けましょう。
高齢者が日常生活で実践できる感染予防策は、コロナウイルスから身を守る上で非常に重要です。ここでは、高齢者の生活様式に合わせた具体的な予防方法を紹介します。
まず、最も基本的かつ重要な予防策は、以下の3つです。
マスクの着用については、鼻と口を確実に覆い、顔にフィットさせます。高齢者の場合、呼吸が苦しくなる可能性もあるため、息苦しさを感じたら適宜マスクを外して休憩を取ることも大切です。
手洗い・手指消毒については、外出後や人と接触した後、食事の前後など、こまめに行うことが重要です。特に、高齢者は皮膚が乾燥しやすいため、手洗い後はハンドクリームなどで保湿することも忘れずに行いましょう。
換気に関しては、1時間に2回以上、数分間窓を全開にすることが推奨されています。寒い季節は暖房を使用しながらの換気が効果的です。
これらの基本的な予防策に加えて、高齢者の日常生活に即した具体的な予防方法を以下に示します。
介護施設においても、これらの予防策を実践することで、感染リスクを低減することができます。しかし、これらの予防策を完璧に実行することは難しく、特に認知症や身体機能の低下がある高齢者の場合は、周囲のサポートが必要です。
高齢者を新型コロナウイルス感染症から守るためには、家族や介護者のサポートが欠かせません。ここでは、感染リスクを最小限に抑えつつ、高齢者のQOL(生活の質)を維持するための具体的なサポート方法を紹介します。
まず、高齢者の周りの人が感染予防を徹底することは重要です。具体的には以下のような対策が挙げられます。
これらの対策を実践することで、家族や介護者自身が感染源となるリスクを大幅に低減できます。
次に、高齢者の日常生活を支援する際の具体的な方法を紹介します。
これらのサポートを行う際には、高齢者の自立心や尊厳を尊重することが重要です。過度な干渉や制限は、かえって高齢者のストレスや不満を高める可能性があります。
個々の状況や希望に応じて、柔軟に支援方法を調整することが求められます。
また、長期的な視点で考えた場合、家族や介護者自身の心身の健康を維持することも重要です。休息時間を確保し、必要に応じて親族や地域のサポーター、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。
これらの支援方法を適切に実践することで、高齢者の感染リスクを低減しつつ、QOLを維持する可能性が高まります。介護者の役割は、コロナ禍における高齢者の日常生活における健康を守る上で、重要なものと言えるでしょう。
以上、高齢者とコロナウイルス感染症に関する最新の状況と対策について、詳しく解説してきました。感染状況は刻々と変化していますが、正確な情報に基づいた適切な対策を継続しましょう。
今後も最新の情報に注意を払いながら、高齢者の方々とその周囲の人々が協力して、この困難な状況を乗り越えていきましょう。