「朝倉未来が平本蓮に判定で勝つ」と予想する根拠─。 7・28『超RIZIN.3』

”因縁の対決“朝倉未来(JTT)vs.平本蓮(剛毅會)が目前に迫っている。7月28日、『超RIZIN.3』は、さいたまスーパーアリーナ〈スタジアムバージョン〉での開催となり、この一戦を生観戦しようと約4万人のファンが集う。チケットは、ほぼ完売状態だ。

今回の試合は、RIZINフェザー級のトップを決めるものではない。にもかかわらず最大級の注目が集まるのは、二人が挑発し合い、敗北を経験しながらも闘い続け紡いできたストーリーがあるから。ファンの感情移入度が極めて高い対峙なのである。果たして勝つのはどっちだ? 筆者は「朝倉が判定で勝つ」と予想。その根拠を綴る─。
5分×5ラウンドの闘いに
「この試合(朝倉未来vs.平本蓮)には、まだ決まっていないことがある」
榊原信行RIZIN CEOが、7月6日の「FACE OFF」イベントでそう話していたことが気になっていた。
(一体、何なのか?)と。
その内容が、7月20日、TOKYO NODE HALLで開かれた「『超RIZIN.3』出場選手登壇記者会見」で明かされている。

発表されたのは、次の2つ。
一つは、RIZINの通常フォーマット〈5分×3ラウンド〉ではなく〈5分×5ラウンド〉で試合が行われること。また、判定方式も変更された。従来のトータルマスト(試合全体通して採点)ではなくラウンドごとの10点法で採点される。
二つ目は『LAST MAN STANDING(ラストマン・スタンディング)』タイトルマッチと認定されること。勝者は新設のベルトを得るが、これは防衛戦を行う主旨のものではない。

まず、5ラウンドの闘いに決めたことについて榊原CEOは言った。
「この試合は、順位を決定するとか最強を決めるというものではない。でも想いの詰まった特別な試合。主催者からしても完全決着を望みたい。そのために〈5分×5ラウンド〉に変更したいと考え、両陣営とも調整しました」

闘う両者も、特別ルールに異存はないようで次のようにコメントしている。
「5ラウンドでも無制限ラウンドでも、何でもいいですよ。1ラウンドから思い切り行きます」(朝倉)
「決着をつけたいから、その方がいい。5ラウンドの方が得意なんで」(平本)

だが、ベルトをかけて闘うことについては両者が想いを異にした。
「カッコいいベルトで嬉しい。欲しいと思う」
平本はそう話し、会見後に自らのスマートフォンでベルトを撮影し笑顔を見せる。
対して朝倉は、興味を示さなかった。
「いま初めて聞いたんですけど、俺はいらないんで勝って(得たベルトは)皇治選手にあげます」と言い憮然とした表情を浮かべた。

チャンピオンベルトは最強の証だ。
人気ファイター同士のドラマ性十分な闘いとはいえ、タイトルマッチにするのには無理がある。LMS(LAST MAN STANDING)のベルトは勝利者トルフィーの代品と考えればよいだろう。

判定決着は必然
だが、このベルトを巡ってのやり取りは興味深かった。「欲しい」と意欲を見せた平本と、「いらない」と口にした朝倉の今回の闘いに対する想いの違いが改めて鮮明になったからだ。

『超RIZIN.3』に向けての記者会見、公開練習、イベント等が、これまでに幾度も行われてきた。その中で両選手は発言し、またメディアから個別インタビューも受けている。
そんな中で、気になったのは次のくだり。

平本は言った。
「俺と朝倉未来なら『THE MATCH』なんて余裕で超える面白いものを作れる。いい作品をつくりたい」

対して朝倉は、こうコメントしている。
「作品をつくるつもりなんて、まったくない。公開処刑ですよ。何万人、何十万人が観ている前で、アイツをコテンパンにやっつけるだけ。それが、この試合をやる目的なんで。平本にとっては、MMA(総合格闘技)の道に入る切っ掛けになった朝倉未来と対戦できたことがゴールなんですよ。
俺とは目的が違う。この試合は俺にとってはラクな相手を用意してもらっての復帰戦。もっと上を目指していますから。平本が言っていることは、ズレている」

平本は、朝倉戦に辿り着けたことを喜んでいる。
それは、そうだろう。戦績3勝3敗ながら自らのキャラクターで人気を獲得し大舞台で闘うチャンスを得たのだから。この試合が実現に至るストーリーは、平本が描いたと言える。
逆に朝倉は、複雑な思いを抱く。
(俺も落ちたもんだ。平本と試合が組まれ「勝負論がある」と見られてしまっている。まぁ仕方ない。それを格闘技ファンが求めているならやってやるか。
目指すはRIZINフェザー級のチャンピオンベルト。平本に勝って貰うベルトに何の価値もない。試合を盛り上げようとしてくれるのは分かるが、復活へのウォーミングアップ程度の試合にベルト云々と言われても恥ずかしいだけ)
これが朝倉の心境ではないか。

平本にとって、このベルトは「朝倉に勝った記念すべき戦利品」。だが朝倉に同様の想いはない。

さて、私の予想は「朝倉の判定勝ち」。
まずシンプルに、実績と総合力で朝倉が上位だ。
このカードが発表された時点では「朝倉がフィジカル、メンタルの両面でコンディションを戻せるか」との不安要素があったが、それも払拭されている。この4カ月の間に万全の状態をつくり上げたようだ。
平本もフィジカルを強化、さらにMMAファイターとしても急成長しており、展開次第でいずれにも勝機はある。それでも朝倉の勝利を予想するのは、平本より強い気持ちでリングに上がると見るから。

朝倉は、引退をかけている。
もし敗れたなら、これまでに積み上げてきたものを全否定され、自らを挑発することでのし上がってきた平本にすべてを持っていかれ、リングを去ることになるのだ。
そんな屈辱的な終わり方をするわけにはいかない。

よって朝倉は、見せ場を作ろうなどとは考えず、毅然と勝ちに徹する。ならばMMA経験値の高い彼が、随所で巧さを光らせる可能性が高い。
派手な打ち合いはしない。しっかりと戦略を練り確実な方法で仕留めにいく。萩原京平戦(2021年10月『RIZIN LANDMARK vol.1』)と同じような展開になるのではないか。3ラウンドから5ラウンドに変更されても判定決着は必然のように思う。

平本がテイクダウンを許さず打撃勝負で勝機を見出すか? それとも朝倉が総合力で強さを見せつけるのか?
私の予想は後者だが、果たしてどうなる─。
真夏のさいたまスーパーアリーナで、心をヒリヒリさせたい。

〈『超RIZIN.3』全対戦カード〉

文/近藤隆夫

近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。~ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実~』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら